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第1回:『シカゴ』、あるいは21世紀的ミュージカル進化論
先月までの「喜怒哀楽」
4月 4月
PROFILE (HTML版)
渡辺祥子 宇田川幸洋

2003.5.30 UPDATE  


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粋な西部劇から現実直視のニュー・シネマへ

――今回は"西部劇"がテーマですが、個人的にはまったく無知なジャンルなだけに少々不安が…。今度、『アメリカン・アウトロー』という作品が公開されますが、西部劇ってほかのジャンルに比べると新作も少ないし、なかなか見る機会がないんですよね。もちろん、ビデオやDVDで過去の作品を見ることはできますが、私が女だからなのか、西部劇というと中年のおじさんか、映画マニアのものというイメージがあって近づきにくいというのも正直あります。それに、今の若い人のなかでは、西部劇というジャンルがすでに死滅しているように思うのですが…。

『アメリカン・アウトロー』キネカ大森にて6月28日(土)公開
『マイノリティ・リポート』('02)のコリン・ファレルら若手演技派が共演した西部劇。
宇田川 西部劇に拒否反応を示してるみたい(笑)。

渡辺 でも、そうよね。私も映画の仕事を始めてから西部劇を見る機会って、そう多くはなかった。今回だって、『アメリカン・アウトロー』の公開タイミングを逃がすと、今度いつ西部劇が来るかわからないということでテーマに決まったぐらいだから。

宇田川 最近では去年公開の『テキサス・レンジャーズ』があったけど、あれは1998年に製作された映画だし、『アメリカン・アウトロー』も2000年に作られた作品だから、少々おクラ入りしていたといってもいい。最近、西部劇って人気がないから、1年に1本見られたら御の字ですよ(笑)。

――『アメリカン・アウトロー』は伝説の無法者ジェシー・ジェームズの半生をえがいたドラマですが、彼を題材にした映画は『無法の王者 ジェシー・ジェームズ』('57)など、これまで何本も製作されていますよね。ジェシー・ジェームズってそんなに有名な人なんですか?


『リオ・ブラボー』
ハワード・ホークス監督&ジョン・ウェイン主演による名作。
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥2000(税別)
宇田川 西部開拓時代のアウトローの代表選手ですよ。もう国民的無法者といってもいいくらい(笑)。でも、ジェシー・ジェームズって、日本でどれくらい知られているのかな?

渡辺 ヘンリー・フォンダが主演した『地獄への道』('39)はジェシー・ジェームズの話よね? 何年か前にたまたまあれを見たから話は知っていたけど、私もジェシー・ジェームズについてはそんなに知らない。

――宇田川さんは西部劇のプロ中のプロだから、ジェシー・ジェームズの映画なんて"またか"って感じなんじゃないですか?

宇田川 いや、西部劇自体が久しぶりだし、ジェシー・ジェームズものも60年代以降はあまり映画化されてないと思う。あ、『ミネソタ大強盗団』('72)というフィリップ・カウフマン監督の傑作があったか。ロバート・デュバルがジェシーをやっていた。でも、あれはクリフ・ロバートソンのコール・ヤンガーのほうが主人公でしたね。捕らえられて檻の中で叫ぶラストが強烈だった。たぶん、ジェシー・ジェームズ映画の代表作は、タイロン・パワーがジェシーを演じた『地獄への道』('39)でしょうね。ヘンリー・フォンダが兄のフランク役。フリッツ・ラング監督による続篇『地獄への逆襲』('40)はジェシーが死んだあとで、フランクが主役だった。『アメリカン・アウトロー』は、けっこう『地獄への道』に似ているところがある。

渡辺 『アメリカン・アウトロー』は、彼の悲惨な末路ではなく、陽気で快活なところだけを見せてくれるからたのしかった。

宇田川 そうか、渡辺さんもジェシー・ジェームズってあまりごぞんじなかったんですね。ぼく自身は西部劇って子供のころに記憶にすり込まれたから、みんなが知っているものだと思ってました。

渡辺 私、ミュージカルなら大丈夫なんだけど、西部劇はちょっと…。西部の悪人列伝みたいな本で顔と名前を覚えようと努力はしたけど、親しみはあまり感じない。だけど、『大いなる西部』('58)のような西部ドラマは好きよ。

宇田川 ぼくは、ああいう西部を否定する作品はダメ(笑)。グレゴリー・ペック演じる東部の男が西部に行くんだけど、そいつがテキサスでチャールトン・ヘストン扮するカウボーイに「こんな広い所を見たことがあるか」っていわれて、「あるよ、海だ!」っていいかえすの。イヤミな奴じゃないですか(笑)。

渡辺 そう? かっこいいじゃない。東部の紳士と典型的な西部男って感じで。あと、私が好きな西部劇は、ヘンリー・フォンダ主演の『荒野の決闘』('46)とジョン・ウェイン主演の『リオ・ブラボー』('59)。

宇田川 ぼくもその2本は大好きです。

渡辺 『荒野の決闘』の中で、ヘンリー・フォンダ演じる主人公(実在の保安官ワイアット・アープ)が町から来たお嬢さんにほのかな恋心を抱くんだけど、言葉でダイレクトに伝えるのではなく、彼女のために床屋へ行ったりしていじらしいのよ(笑)。今から思えば絵空事に思えるかもしれないけど、ああいう奥ゆかしさがいいの。

宇田川 中年男が何やってんだかって感じだけど(笑)、そう思わせないのが西部劇のよさですよね。

渡辺 ジョン・ウェインにしても、ヘンリー・フォンダにしても、西部劇に出てくる男の人ってみんな純粋。

宇田川 でも、60年代に入るころから、その純粋さが持続できなくなってきた。そのころから映画でアメリカに純粋さ、純朴さなんてえがくのが、ウソっぽく見えてきたんでしょうね。

渡辺 60年代になると、現実直視のアメリカン・ニュー・シネマの時代へと移り変わっていくからね。

宇田川 ニュー・シネマは若者が死にいそぐという話が多かったけど、対する西部劇は時代にとりのこされた年寄りが寂しく死んでいき、そしてひとつの時代が終わるという話が多かった。それを最も派手にやったのが、サム・ペキンパーの代表作『ワイルドバンチ』('69)。

『ワイルドバンチ』
すさまじい暴力描写が話題を呼んだサム・ペキンパー監督作。※ディレクターズカット特別版
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥2000(税別)
ペキンパーは、出世作であり、これもまた代表作の1本である『昼下りの決斗』('62)ですでに、30年代〜50年代の西部劇の大スターだったランドルフ・スコットとジョエル・マックリーを老ガンマン役で主演させて、栄光とともにほろびゆく西部の姿をえがいた。これが60年代の西部劇の思潮を決定したとさえいえますよね。ほろびゆく西部をえがきながら、西部劇というジャンルもまたほろんでいった。


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