PROFILE (HTML版)
渡辺祥子 宇田川幸洋


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“ウドの大作”がミュージカルをダメにした

――私自身も『シカゴ』を見るまでミュージカルというと“妙に気恥ずかしいもの”という印象があったんですが、そもそもミュージカルが衰退していった原因とは何なんでしょう?


『マイ・フェア
・レディ』

アカデミー賞8部門に輝いたオードリー・ヘップバーン主演のミュージカル。
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥2000(税別)
渡辺 まず、『ウエスト・サイド物語』('61)の成功でミュージカルの一大ブームが起こって、そのあとで舞台ものが原作の『サウンド・オブ・ミュージック』('65)や『マイ・フェア・レディ』('64)が出てきたの。そうやってミュージカルが次々とヒットするんで、ハリウッドが調子にのってそれほどおもしろくない作品まで映画化し始めたのが衰退のきっかけ。『ペンチャー・ワゴン』('69)、『ハロー・ドーリー!』('69)、『フィニアンの虹』('68)…、とにかくたくさん作られたけど、どれも“ウドの大作”になっちゃって、結局は観客に飽きられた。

宇田川 いわれてみれば、“ウドの大作”的な時代がありましたよね。つまらなさそうで、ぼくはあまり見なかったけど。

渡辺 それは正解よ!

――宇田川さんの言う“つまらなさそうな予感”というのはどこが?

宇田川 ん〜、主役が年寄り! 『メイム』('74)のルシル・ボールとか。それから、バーブラ・ストライサンドは、実際には年寄りじゃないけど、若い魅力みたいのがなかったから、みなし年寄り(笑)。それから、主役がなんかえらそうなキャラクターなのもイヤだった。偉人伝みたいなのはミュージカルで見たくない(笑)。

渡辺 そりゃ、見たくない(笑)。

宇田川 それに変な大作ブームみたいなものが起きて、柄の大きな映画ばかり作ろうとしていた時代だったから、ミュージカルもスカスカになってしまった。

渡辺 観客に飽きられて製作費も回収できないし、お金もうけをしたい人はミュージカルを作らなくなった。それと同時期にSF&ホラー・ブームが始まったから、ハリウッドのプロデューサーたちはみんな「もうかるのは、SF&ホラーだ!」となって、製作費のかかるジャンルとしてのミュージカルは消え去るのみだったのね。

宇田川 ミュージカルの衰退とSFの隆盛を結びつけたことはなかったけど、そういわれてみればそうですね。ホラーを含め、子供向けだったジャンルがメインストリームになって、それまで大人向けのメインストリームだったミュージカルがダメになった。あと、ぼく的にはロバート・ワイズがミュージカルをつまらなくしたというのもあると思うんですよ。

渡辺 彼の『ウエスト・サイド物語』と『サウンド・オブ・ミュージック』は好きよ。でも、確かに“遊び心”は全然ないし、真っ当過ぎるところはあるかも。

宇田川 ロバート・ワイズは、ひろびろとした空間に人をひっぱり出して踊らせたところが新しかったと思うんですよ。でも、そのあと、それがあたりまえになってくると、退屈に思えてきた。それはワイズのせいではないけれど。大勢でやると派手だけど、個人技がきわだたなくてつまらない。

渡辺 ワイズはすごく誠実な映画作りをする人だけど、芸のおもしろさが分かってないというか、個人技みたいなものに興味がないんじゃないかしら。

宇田川 ミュージカルって芸のうまい人がひとり出ていればそれだけでもつと思うんですけど、大作になるとどうしても人が多くなって散漫になる。あと、“遊び心”というのでいうと、その反対のメッセージ性の強いミュージカルというのも、イヤ。

――芸の世界に浸っていたいのに、あけすけなメッセージを入れられると冷めてしまうってことですか?

宇田川 昔、“日本にミュージカルを根づかせよう”というか、そういう動きがありましたよね。50年代末か、60年代初めくらいかな? 舞台からはじまって、映画、テレビでも、ミュージカルというのは、戦後の新しい文化をつくろうとする“日本人のあこがれ”といった時代があったと思います。でもそういうとき、音楽に安易に日本のものを混ぜたり、日本の田舎を舞台にしたりとか、“日本”をメッセージにしたようなものというのは、つまらないですね。それから、すぐ“愛”や“夢”といったファンタジーにしてしまうのもイヤ!

渡辺 今でもミュージカルを日本に根づかせ、日本発の作品を生もうとしている人たちはたくさんいて、そういう人たちの努力は買うけど、なんだか粋じゃない。私はやっぱり『シカゴ』のような“悪徳の栄え”が好き。メッセージなんかないチャランポランが好き。ミーハーです!

『シカゴ』
トニー賞&オビー賞の受賞者がバックダンサーを務めた迫力のダンスシーン。
宇田川 ボブ・フォッシーのおもしろいところは“愛”や“夢”ではなく、怒りとか「殺してやる」といった感情までミュージカルにしてしまうところですよね。『シカゴ』の女囚が牢屋の前で踊るシーンなんて、まさに怒りの感情でしょ。これがすごい迫力。“夢”や“愛”に社会的な妥当なメッセージをちょいと加えれば、ミュージカルでござい、なんてものではない。

――渡辺さんはミュージカル好きなだけに、ときにはひいき目に見ることもあるんじゃないですか?

渡辺 みんな自分の好きなジャンルにはそうじゃない? 「オペラ座の怪人」なんて大好きだから、原作も読んだし、ダリオ・アルジェントの映画版まで見てる(笑)。でも、いつも裏切られて「もう期待なんかしない!」って思うんだけど、好きなジャンルの映画が来るとつい期待しちゃうのよね。いいところを見てあげないととも思うし、好きなジャンルには優しくなれるのよ。

宇田川 そうですよ。こないだの『テキサス・レンジャーズ』('01)なんて、たいした映画じゃないんだけど、久しぶりの西部劇というだけでうれしかったもの!

渡辺 ずっと見られなくて、突然現われるとうれしいもんね。だから『シカゴ』との出会いは奇跡よ! 去年の暮れからずっと、“アカデミー賞作品賞をとる!”と断言していただけに、本当にうれしい!!

宇田川 “アカデミー賞がなんだ!”と思うけど、自分の好きな人や映画がとったときだけは“いいなぁ”って思うよね。

渡辺 でも、宇田川さんの愛はむくわれないのよね?

宇田川 むくわれませんねぇ。今年もダイアン・レインがとり損ねたし…(笑)。


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