PROFILE (HTML版)
渡辺祥子 宇田川幸洋


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退屈を乗り越えてこそ映画の魅力がわかる!?

渡辺 スティーブ・マーチン主演の『ペニーズ・フロム・ヘブン』('82)という映画があるんだけど、大恐慌時代に楽譜を売っているセールスマンが主人公なのね。夫婦仲も冷え切っていて現実は真っ暗なんだけど、夢想シーンになるとバスビー・バークレー調のダンスですごく派手になるの。『シカゴ』はコレをヒントにしているんじゃないかと思う。


『ビッグ・
リボウスキ』

イーサン&ジョエル・コーエン兄弟が監督したユニークな人間ドラマ。
発売:アスミック・東芝デジタルフロンティア
¥3800(税別)
――バスビー・バークレー調って、『ビッグ・リボウスキ』('98)でジュリアン・ムーアがやっていたゴージャスな踊りですよね?

渡辺 そう。バスビー・バークレーという振付師出身の監督がいて、その人の映画ではカレイドスコープのような幾何学的なダンスシーンをよく使っていたの。

宇田川 踊り子が人海戦術でいろんな模様を作っているのを真俯瞰で撮る。一種のマスゲームだけど、北朝鮮のように看板をもつだけじゃなく、踊るマスゲーム(笑)。バスビー・バークレーは、世界中に影響を与えてますよね。このまえ見た『寶の山に入る退屈男』('38)でも畳の上で踊るシーンで真似してた。といっても、ほんの気持ち程度で、バークレーには似ても似つかないんだけど(笑)。

渡辺 ケン・ラッセルの『ボーイフレンド』('71)でも取り入れていたわよ。水着を着た女性ダンサーが並んでいて、その下をカメラがスーッとくぐっていくとかね。昔は人海戦術で見せるような派手なダンスシーンがいっぱいあったんだけど、今は人件費がかかるから無理ね(笑)。

宇田川 人権無視みたいな雰囲気もありますから(笑)。人をオブジェとしてあつかう。

『シカゴ』
2人の女を操る悪徳弁護士に扮したリチャード・ギアが華麗なタップを披露。
渡辺 『ペニーズ・フロム・ヘブン』で、クリストファー・ウォーケンがストリップを踊るんだけど、それが『シカゴ』でリチャード・ギアが脱ぐのと重なって見えた。あと関係ないけど、ウォーケンがタップを踏んで踊りつづけるスパイク・ジョーンズが監督のミュージック・クリップは最高よ! あれも『ペニーズ・フロム・ヘブン』がヒントかもね。

――それって、ファットボーイ・スリムの『Weapon of Choice』('01)ですよね? ウォーケンは踊れる人というイメージがなかったので意外でした。

渡辺 私、あのビデオは保存版にしてるのよ! 『シャイニング』('80)に出てくるような陰気臭いホテルのフロアで亡霊のように踊るんだけど、それがすごい迫力なの。彼のように芸のある人がいるんだから、もっと映画ならではのミュージカルを作ってほしいわよね。

――ウォーケンは『ペニーズ・フロム・ヘブン』以降、ミュージカルには出ていないんですかね? 個性が強すぎて、役柄が型にはめられている感じがするから使いにくいのかも。

渡辺 少し前にブロードウェイで『ザ・デッド』っていうミュージカルに主演してたけど、ダンスはなかったわね。

――きっと世間の風評とは違う角度で当てたところが、スパイク・ジョーンズのアイデア勝利なんでしょうね。ファットボーイ・スリムのテクノに、タップがよく合ってますよね。そうなるとテクノのミュージカル映画も見てみたい気が…。

渡辺 ダメよ。映画はミュージック・クリップとは違うから、ちゃんとしたストーリー展開がないと。

宇田川 なきゃダメですよ! エモーション、感情がのってくるところで歌と踊りが意味をもってくるんだから。

――舞台の場合はストーリーがしっかりしてなくても、歌と踊りのライブ感で引き込まれるけど、逆に映画はちゃんとしたストーリーがないと物足りなく感じるということなんでしょうか?

宇田川 アステアの時代ならストーリーがなくてもたのしめたけどね。

渡辺 そうなの! あの時代のミュージカルは退屈な話に耐えて耐えて、最後に爆発するのがいいの(笑)

――それはどういうことですか?

宇田川 苦労を重ねて甘い味を知るのよ。

――どんなにすばらしい作品でも、途中は退屈でしかたがないってことですか?

宇田川 ミュージカルが量産されていた時代は、たいていがそう。見せ場って少ないよ、昔の映画は。

渡辺 ひとつの映画に2ヶ所ぐらいしかないんじゃない? その代わりに、ここぞというところは途中で別のシーンにいったりしないで、ちゃんと最後の最後まで見せてくれるのよね。

宇田川 お客も退屈に耐えなきゃいけないんだよ、映画ってものは。スポーツだってそうじゃない? 野球を見るのだって、なかなか点がはいらなくて、ただ淡々とゲームがつづいたり、そういう退屈な部分に耐えてこそチャンスやピンチがおもしろいのに。あんまりボコボコ点のはいる試合じゃつまらない。

渡辺 そうよね。でも、じつはわたしも昔はミュージカルが苦手だったの。ミュージカルって突然歌ったり踊ったりするのがイヤだと思っている人が多いと思うけど、わたしもそういうのが嫌いだった。だけど、大人になってあらためてもう一度『白雪姫』('38)を見たときに気づいたの。ディズニー映画もミュージカルだって! あれも突然歌ったり踊ったりするけど、全然おかしくないのよねぇ。それからミュージカルが大好きになった。『リトル・マーメイド 人魚姫』('89)や『美女と野獣』('91)なんて最高に楽しいもの。

――そうか! ディズニー・アニメがミュージカルだとは、いわれてみるまで意識してなかったです。確かにアニメの場合、お花や動物が突然歌いだしても違和感ないですものね。

渡辺 そうなの。日本のアニメはそれほど好きじゃないのにねぇ。音楽がピンとこなくて…。わたし、好き嫌いははっきりしているけど、趣味に一貫性がないの。たぶん性格が悪いのよ(笑)。


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