【コラム】金剛山を見ながら開城を思う(下)

 開城工団から撤収するとなれば、韓国側の損失額、投資の未回収額などは巨額に上るだろう。しかし多くの企業は、南北経済協力保険に加入しているため、実際の投資損失額の90%の範囲内で、70億ウォン(約5億9000万円)を上限に補償を受けられる救済制度がある。また、万が一の人命被害に備えることは、経済的な損失よりも重要なことだ。さらにわれわれは、国際的な協力を通じ、北朝鮮の偽造紙幣、偽造たばこ、武器輸出の通路を遮断し、北朝鮮の資金源を締め上げなければならない。北朝鮮への金融圧力の効果は、2005年のバンコ・デルタ・アジア(BDA)問題ですでに立証されている。独裁者の資金源を遮断することこそ、独裁体制を懲らしめる最も効果的な手段なのだ。これは、古今東西の歴史が示すところでもある。さらに、北朝鮮当局が嫌悪する非武装地帯での宣伝放送を再開するのも、検討に値する。

 昔から人質事件解決の最初のカギは、「犯人に身代金を与えないこと」と言われている。身代金は結局、別の人質事件を引き起こしてしまうからだ。それは国家的レベルでも当てはまる。北朝鮮へのバラマキが絶頂に達していたころ、取材を通じて知り合ったある脱北者の言葉が今も忘れられない。その言葉とは、「北朝鮮への食糧支援を取りやめれば、北に残してきた家族は飢え死にするかもしれない。しかしそれでも支援をやめるべきだ。食糧支援は結局、金正日の独裁を延命させ、結果的に北朝鮮人民の苦痛を長引かせることになりかねない。今の北朝鮮の世代を犠牲にしてでも、次の世代を救わなければならない。苦痛の悪循環はどこかで断ち切らなければならず、今がその時だ」というものだった。

 勇士46人の犠牲と軍艦の沈没という莫大(ばくだい)な代償を払った今回の哨戒艦「天安」沈没事故から、われわれは次の事実を改めて直視しなければならない。第1に、われわれからわずか数百キロも離れていない場所に、われわれを標的にした長射程砲があり、その背後には核兵器まで存在するということ。第2に、韓国国内にも北朝鮮のテロ集団に同調するネットワークがあり、北からの指示でいつでも韓国を混乱に陥れる勢力が存在するということ。第3に、われわれがいくら誠心誠意を込めた対応をしたとしても、金正日集団はそれを絶対に受け入れることはないということ。そして最後に、やられてばかりで何もやり返さないようでは、敵はわれわれを無視するということだ。これらの教訓を得られないようでは、将兵46人の尊い犠牲は無意味なものとなってしまうだろう。

金大中(キム・デジュン)顧問

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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