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大学新時代

郊外に大卒失業者「蟻族」集結…中国・就職大氷河期で

 

社会不安の要因 懸念も

 【北京=佐伯聡士】中国で、「(アリ)族」と呼ばれる大卒のワーキングプアが増え、北京など大都市郊外の村落に集まって居住する現象が目立っている。社会の不安定要因となりかねないが、中国の就職事情は「大氷河期」にたとえられ、解消は容易でない。

 北京のハイテク産業拠点・中関村。その目と鼻の先に、元々の人口が3000人足らずの村「唐家嶺」がある。そこが今、失業あるいは半失業状態にある地方出身の大卒者であふれかえりその数4万人余り。次々に到着する路線バスから、疲れた表情の「80後」(1980年代生まれ)の若者が吐き出されてくる。

 山西省出身で雲南省の大学卒業生(25)も、数か月前までこの村で暮らした。「村の生活は安定した収入の仕事が見つかるまでの奮闘のプロセスです」と語るが、蟻族の生活環境は劣悪だ。表通りから一歩路地に入ると、壁がひび割れた粗末な小部屋が並ぶ。

 部屋は十数平方メートルの広さで、家賃は1か月350元(約4550円)。北京では最下層の暮らしといえる。仕事の大半は電話セールスなどのアルバイトで、月収は1000〜2000元(約1万3000〜2万6000円)と、民工(農村からの出稼ぎ労働者)並みだ。

唐家嶺の路線バス停留所前は蟻族の若者らでにぎわう。「房屋出租」(貸部屋)の看板が目立つ=佐伯聡士撮影

 名付け親は、北京大学中国・世界研究センターの廉思・研究員(29)。彼らの生活実態を調査し、著書「蟻族」にまとめた。農民、民工、リストラ労働者に次ぐ社会的弱者だが、アリのように知能が高く、集まって暮らしていることから命名したという。

 かつては「天の寵児(ちょうじ)」ともてはやされた大学生。今世紀に入って、私立大学が増え、新卒者が急増したことが就職難の主因だ。これに昨年来の景気低迷が拍車をかけた。今年は6月に卒業した約610万人に加えて100万人以上の就職浪人が民工らと職を奪い合っている。地方出身者は卒業後も都市部にとどまって職を探す者が多い。だが、現地の戸籍がないため、最低生活保障など救済措置を受けられない。北京だけでも計10万人以上の蟻族がいるとされるうえ、北京同様の蟻族現象が、大学が集中する上海や広東省広州、陝西省西安、湖北省武漢などでも起きているという。

 80後の大卒者は、インターネット(網絡)で極端な主張を繰り広げる「網絡暴民」の中核といわれる。蟻族の若者にも、インターネットに現状への不満のはけ口を求める人が少なくないとみられるが、識者の間で「些細(ささい)なきっかけで、いらだちを現実社会で爆発させてもおかしくない」(中国筋)との懸念が出ている。

2009年11月16日  読売新聞)

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