国内
藤田まこと氏にエキストラ人生を救われた男性の告白
今月17日、俳優・藤田まことさんが大動脈瘤破裂のため大阪府内の病院で亡くなった。享年76歳。生前は時代劇『必殺仕事人』の中村主水役や『はぐれ刑事』では安浦刑事役をこなすなど、味のある演技で人気を博した。平成14年には紫綬褒章を受章するなどしている。記者(多田文明)はこれまで1000本以上のエキストラをこなしているが、藤田まことさんには忘れられない思い出がある。
今から20年以上前、私がエキストラとして駆け出しの頃である。『はぐれ刑事』の撮影で居酒屋の客をしていた。アシスタントディレクター(AD)から「コップにビールをついで、一人で飲んでいてもらえるかな?」と指示を受けた。
今にして思えば、それほど難しい演技ではないが、当時は撮影現場に慣れていなかったため、カメラ前の大事な演技に、ぎこちない動きをしてしまった。それを見たADは「へたくそな演技だなあ!もっとうまくできねえのか!」と激怒した。「もうエキストラをやめようか」と思うほど、その言葉に落ち込んだ。そこへ、藤田さんの怒号がこだました。
「その口の聞き方はなんだ!素人エキストラに細かい演技の注文をつけるんじゃねえ。もし演技をつけるなら、役者呼んでこい!役者を!」
ADに向かうその厳しい眼差しは必殺仕事人の中村主水そのものであった。エキストラを撮影現場の一員として気遣い、スタッフに対して「悪いことは悪い」と思うところをはっきりと口にできる藤田さんには、頭が下がる思いであった。
後にも先にもこんな一エキストラのために怒ってくれた役者は、藤田さんお一人である。私はその後もエキストラを続けられたが、あの時の藤田さんの一言があったればこそ、今があるのではないかと思う。身をもって役者魂を見せてくれた藤田まことさんに心からお悔やみを申し上げたい。
文・多田文明
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