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トンネルの先に:JR不採用23年/下 元裁判長

 ◇国鉄改革、労使関係ゆがめ 「犠牲への配慮欠いた」

 03年12月の最高裁第1小法廷。翌月の退官を控えた裁判長の深沢武久さん(76)=現弁護士=は、判決言い渡しを前に心が重かった。国労組合員らの大量不採用問題で、JR各社の責任が争われた訴訟。JRと国鉄を「新旧分離」した国鉄改革法の解釈について、5人の裁判官のうち、深沢さんと、後に最高裁長官となる島田仁郎裁判官を除いた3人の多数意見は「(採用差別などの)不当労働行為があった場合の責任はJRでなく、旧国鉄が負う」だった。

 法案審議で当時の運輸相は「国鉄はJRの新規採用の補助者に過ぎない」と述べ、国鉄が採用の主体ではないとの見解を示した。もし、JR側の「採用責任なし」との主張を司法が認めれば、「国鉄もJRも責任をとらない」ことになり、大臣答弁と大きなずれが生じる。組合側はもちろん、国民を納得させるのは困難ではないか。そう考えた深沢さんは中央労働委員会によるJRへの救済命令を支持したが、「2対3」は覆らなかった。

 1年前の02年には、与党と社民党による政治解決の流れが破綻(はたん)。国労は一部組合員が旧国鉄を相手に提訴する次の裁判闘争を始め、分裂状態になっていた。深沢さんは「この判決では、不毛な争いが延々続くかもしれない」とも予測した。

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 四半世紀に及ぶ労働争議を生み出した分割民営化。その評価はさまざまだ。

 81年発足の第2次臨時行政調査会の主任調査員として、民営化にかかわった田中一昭・拓殖大客員教授は「自己責任の経営が実現し、改革は成功だった。放置すれば国鉄の37兆円もの赤字は大変なことになったはずだ」と断言する。

 20年以上、民営化問題を取材してきたジャーナリストの鎌田慧(さとし)さんは労働環境に与えた悪影響を説く。「公の機関が堂々と採用差別を行い、労働委員会を軽視する。メディアは批判せず、『国労たたき』を繰り返した。権力の言うことを聞かない人間の排除は当然という論理が世間に広まり、労働者はなにも抵抗できなくなってしまった」

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 深沢さんも判決前、労使双方が提出した膨大な資料を読み込み、自分なりの結論を得た。「国鉄の労組に不健全な問題がなかったとはいえないし、改革の意義も一定の理解はできる。ただ、血を流すのは労働者のほう。当時の政府には犠牲への配慮が欠けていたように思える」

 いま、政治解決を目にし、「よくここまで持ってこられた」と感慨深い。一方で、JR各社が組合員の再雇用を強く拒んでいることは気がかりだ。「(労使の)関係者が普通の日常生活に戻れる日が早く来てほしい」。元裁判長の切実な願いだ。

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 坂本高志、松谷譲二、門田陽介が担当しました。

毎日新聞 2010年5月5日 東京朝刊

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