襲われた男性が暮らしていたテント周辺。大阪市のテープなどで囲われていた=4月中旬、大阪市住之江区、丸山写す
住之江署によると、男性は暴行前、自分の自転車が倒れていた理由を襲撃グループに尋ねていたという。同署は「突然襲う『ホームレス狩り』とは違う。けがもそれほどひどくないことなどから、広報の必要はないと判断した」と説明する。
約7年前から近くのテントに住む別の男性は「ここにいれば狙われるのはわかってるよ。うちらはゴミみたいに思われているんじゃないかな。警察もあてにならん」と話す。2007年5月にはテントが放火され、60代の男性が両手にひどいやけどをしたという。
支援団体「野宿者ネットワーク」の生田武志代表(45)らは週に1回、大阪市の西成区や浪速区で夜回り活動を続けている。今年に入ってからも「生卵を投げられた」(1月、浪速区)「週に何度も中高生くらいの3人組に石を投げられ、テントを壊された」(2月、天王寺区)「若者1人にけられた」(同、浪速区)など、月数件の被害を聞き取ったという。
なぜ、襲撃は続くのか。
NPO法人「長居公園元気ネット」の芳井武志理事は「行政が野宿者をあからさまに排除することで、社会の目がより冷たくなった」と指摘する。00年に約450軒のテントがあった大阪市東住吉区の長居公園では、07年の世界陸上開催を前に市がテントを強制排除した。西成区周辺でも、野宿者が入り込みにくいように市有地の歩道がフェンスで囲われたり、さくで細かく仕切られたりしている。
このため、行政の管轄が複雑な河川敷や線路の高架下などで暮らす人が増えたが、「野宿者は分散して孤立し、襲撃の危険性が増した」と生田さんはいう。
生活保護を受給する人が増え野宿者は減った。だが、保護申請の方法を知らない、申請する気力がわかないといった理由から、路上に残った人たちに高齢者や障害者が少なくない。大阪府立大の中山徹教授(社会政策学)は「狙う側は襲撃しやすいと思うかもしれない」と指摘した。
襲撃するのは中高生らのグループが多いとみられている。生田さんは、「怠け者」「ホームレスに近づくな」と決めつける大人社会の意識が、暴力への背景にあるとみている。生田さんらは08年、「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」を立ち上げ、年間20以上の中学、高校で「特別授業」をしている。昨年11月、「全国ネット」は野宿者の男性の1日を追った教材用DVDを作製し、すでに1千本を完売した。さらに1千本を増版中という。生田さんは「野宿者の現状を教育現場で伝えていくという地道な方法が、襲撃をなくす近道ではないか」と話す。(染田屋竜太、丸山ひかり)