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イタリア:東欧圏からの移民に厳しい治安対策を実施

宮田衣穂子2008/08/07
EUの拡大に伴って、イタリアに東欧圏からの移民が増えている。だが、イタリア自体が深刻なインフレに見舞われており、移民たちは就職はおろか定住場所の確保にさえ苦しんでいる。特にルーマニア人、ロマ系住民は昨年から今年にかけて、強盗事件や飲酒運転などを起こしたと報じられ、イタリア国内で厳しい視線を浴びている。移民排除を主張する団体を有力基盤とする現政権は、治安対策としてEUなどの反対を押し切って、彼らの居住地区の人口調査、指紋採取が行うことにした。
イタリア 公共 NA_テーマ2
 EU(欧州連合)は、04年に旧共産国であった東欧諸国などの10ヵ国、さらに07年には、ルーマニア、ブルガリアの2ヵ国が加入し、その規模を広げています。経済の相互発展、相互協力を目的としたEUの拡大に伴い、EU加盟国間では、以前のような複雑な手続きを踏まなくとも、移民が比較的簡単に出来るようになってきています。 ここ1、2年、イタリアでも東欧諸国、ルーマニアなどから労働・定住を目的とした移民が増えています。

 中でも、古代ローマがダキア(現ルーマニア)を征服したあと、そこに植民地を作り、現地のダキア人とローマ人が混血してできた民族としてローマ人の末裔であることを誇りとするルーマニア(「ローマ人の国」という意味)は、使用する言葉もラテン語から派生したロマンス語系統で、イタリア語に近しい言語を解するためか、イタリアへの移住者が激増しているようです。

 が、母国の経済不安定から逃れるために移住はしてきたものの、移住先のイタリア自体がユーロ導入以来のインフレに喘いでおり、例え、職を見つける事は出来ても、雇い主側は税や保証の問題で、正式な雇用契約を結びたがらず、「ネーロ」と呼ばれる(闇金)日払い制度でのみの採用をするところも多く、家を借りるにも、正式な届出を出すにも、必要となる雇用書類を手に出来ない移民労働者も多くいます。このため、彼らの生活は食や住居の安定もままならない不安定なものである事も多いようです。

 また、ここ数年来、都市部やその近郊の家賃が、異常な値上がりをしているイタリアでは、1ヵ月の一般的な平均収入が1000〜1200ユーロに対し、50平方m程度の2Kで同じ程度の家賃が相場、というのが普通になってきています。それに加え、移民たちの足元を見る、悪徳不動産や悪徳家主も多く、賃貸契約に必要不可欠な滞在許可書などの提示を求めない代わりに、きちんとした賃貸契約を結ばず、不当な値段を吹っ掛けたり、また突然の値上げを要求したりする人も多いと聞きます。

 このため、東欧、旧ユーゴ諸国、ルーマニアなどの移民たちの中には、公共の土地にテントを張って、住み着いてしまったり、あるいは、工場跡地や公共機関の建物に違法に住みついたまま、届けを出さない不法移民が増える一方、ということです。こうした不法移民は、正規な届出が出ていないので、その人数すら正確にはわかっていません。正規の倍以上の人数と想定されており、イタリアの行政は、移民数の正確な把握と対策に頭を抱えています。

 今年4月の総選挙で圧勝した現首相ベルルスコーニの片腕として、集票に貢献した「イタリア北部同盟」は以前から、イタリアの南北独立&移民排除をスローガンに掲げる政党として有名です。総選挙の前年から今年にかけて頻繁に起こったルーマニア人・ロマ民族の人の犯行と見られる強盗殺人事件や、無免許や飲酒運転の事故、特に一時は連日報道されるほど大問題になった07年10月、ローマ郊外で女性が仕事帰り(午後8時頃)にロマ人男性に強姦(ごうかん)され、瀕死の重態のまま遺棄され、昏睡状態で死亡に至った事件など移民問題とそれに付随した形の犯罪が国民の関心を集めたのですが、中道右派(特にイタリア北部同盟)は、その恐怖心に乗じたことが圧勝の要因になった、と言われています。

 ベルルスコーニ政権は先月来、この移民対策・治安対策の一つとして、EU会議や人権団体からは「特定民族からだけ採取するのは明らかな差別だ」と激しく批判された、ロマ人が集団で住むキャンプの人口調査とロマ住民の指紋(子供も含む)を採取することを決め、また、今月4日から、街の安全管理にミリタリーの導入を施行しました。

 それに伴い、イタリア北部同盟推薦のマッシモ・ジョルダーノ氏が知事を務める北イタリアのノヴァラ県(人口約10万人)では、「公共の公園や広場で3人以上の人が集まって集会をしてはいけない。これを破った者は500ユーロの罰金」という県の条例を、8月4日から施行させました。

 この条例決定の理由は、公園や広場での秩序を保ち、公共物破壊の防止を目的とするとの事ですが、「1920年代のムッソリーニのファシズムを回顧させる条例」としてイタリア内外から非難の声も上がっています。また、同じく8月4日から、このノヴァラ県では午後6時以降、駅構内でのアルコールの摂取の禁止(ビールも含みます)と、移民たちの集いの場所である集会場の閉館が義務づけられました。

イタリア:東欧圏からの移民に厳しい治安対策を実施 |  ノヴァラ駅(ノヴァラ県庁のHPより)
 ノヴァラ駅(ノヴァラ県庁のHPより)
イタリア:東欧圏からの移民に厳しい治安対策を実施 |  ノヴァラ県;スフォルチェスコ城(ノヴァラ県庁のHPより)
 ノヴァラ県;スフォルチェスコ城(ノヴァラ県庁のHPより)
イタリア:東欧圏からの移民に厳しい治安対策を実施 |
筆者の感想
 夏のバカンス期のイタリアは、確かに治安面で不安な事も多く街の警護や警備に、行政が力を入れてくれるのは非常にありがたい事だと思います。

 しかし、イタリアには10万人の国家警察の他にカラビニエリと呼ばれる国家憲兵が11万人。この他に地方自治体の警察組織として、県レベルの地方警察 (Polizia Provinciale)、市町村の自治体警察 (Polizia Municipale) があり、また、更に、微罪に関与し街のパトロールなどもする7万人弱の財務警察・5万人弱の刑務警察・4万人の森林警備隊など国家レベルの警察組織で5つ、地方レベルで2つの組織が設置されています。

 地方レベルの警察組織を含まない、国家レベルの警察だけの合計ですでに37万人いるんです。

 イタリア国家警察   
 約37万人+地方警察

 日本の警察
 約24万人

 日本の人口 127,728,000人
 イタリアの人口 58,742,000人
(日本の人口はイタリアの2倍以上:2006年統計)

 この上、今回のようにミリタリーまで動員しなければならない程、イタリアの治安は不安定なものなのでしょうか? ミリタリーを動員する前に、こういった国家警察地方警察を、もう少しうまく使う方法はなかったのだろうか?と、思いました。

 最後に、英語の記事を読んだ時の正直な感想を付記します。

 外国の報道機関にファシズムを彷彿させる……とまで批判される程の事柄が、イタリアでは殆ど報道されなかったという事と、この条例の後ろに隠された一定の国からの移民・外国人に対する差別を感じて、言いようの無い不安を覚えたのは、私だけでしょうか?


参考資料
ノヴァラ県(GoogleMap)
The Daily Telegraph, UK
イタリア北部同盟(WIKIPEDIA)
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