「最低でも県外」を公言した日本のリーダーの姿はなかった。「引き続き、負担をお願いせざるを得ない」。力ない言葉に、沖縄は深い失望に包まれた。4日、日帰りで来県し、米軍普天間飛行場近くの普天間第二小学校であった対話集会や、名護市で稲嶺進市長との会談に臨んだ鳩山由紀夫首相。県外移設に一筋の望みを抱き、一挙手一投足を見守ってきた県民の期待は、怒りにふるえる抗議の嵐に変わった。
鳩山首相と稲嶺名護市長の会談場所は名護市民会館1階のホール。ガラス戸を隔てた外側では「怒」や「ウソつき」などのプラカードを掲げる市民ら約300人が注視する騒然とした雰囲気が漂い、「新たな基地を造るな」「政権は公約を守れ」などの怒号が乱れ飛んだ。
「辺野古の海はもとより陸上にも新たな基地は造らせない」「選挙で公約したことを実現できるよう英断をお願いしたい」。そう畳み掛ける稲嶺市長に、鳩山首相は「市長さんのお気持ちを学ばせていただきたい」と何度もガラスの外に視線を泳がせながら歯切れ悪く答えるだけ。遠回しながら県内移設への理解を求める姿勢に、稲嶺市長は厳しい表情を浮かべ、時折メモを走らせた。
会談は20分足らずで、秘書官に促されるように退席した鳩山首相。稲嶺市長に「辺野古に戻ってくるようなことが絶対にあってはならない。このことだけはしっかりお引き取りいただきたい」とくぎを刺されながら、市民たちの視線を避けるように会場を後にした。
会談後には反対派の集会もあり、妻と3人の子と一緒に参加した同市瀬嵩の渡具知武清さん(53)は「首相には勇気を持って『県外』ということを言ってほしかった。少し期待も残っていたが、県民の声が届かなかった」とがっかりした様子で話した。
会談に先立ち、鳩山首相は同市辺野古の米軍キャンプ・シュワブを視察した。「ヘリ基地いらない二見以北十区の会」の浦島悦子共同代表(62)はシュワブのゲート前で「県内移設拒否」と書いたプラカードを掲げて立っていた。
鳩山首相来県の前夜、「県民の思いを米側に届けてくれるかもしれない」とのいちるの望みを持って「県外移設歓迎」の文字を記した。しかし、仲井真知事との会談で、県内移設を表明したとの情報を知り、怒りにふるえながらプラカードの裏に文字を書き換えた。「完全に打ち砕かれて、腹が立った。今までかなり苦しんだこともあったが、また同じことが繰り返されるのか。ゴールが遠のいた」
県庁前 600人抗議
県内の平和団体や労働組合などでつくる「基地の県内移設に反対する県民会議」は4日午前9時から、那覇市の県民広場で緊急集会を開いた。県内各地から約600人(主催者発表)が参加。名護市辺野古からもお年寄りら約10人が駆け付けた。
参加者は鳩山由紀夫首相が県庁に入るのに合わせ、横断幕やプラカードを掲げて周辺の沿道に待機し、「4・25の民意を尊重せよ」「基地のたらい回しはやめよ」などとシュプレヒコール。鳩山首相が仲井真弘多知事や高嶺善伸県議会議長らとの面談で、県内移設を表明したとの情報が伝わると、「えー」と失望が入り交じったため息がもれた。
読谷村の彫刻家、金城実さん(71)は「具体的なことは言わず、沖縄の意見を聞いたというアリバイづくりに来ただけだ。沖縄の人間があきらめると思ったら大間違い。くい1本打たせない」と憤った。
「有権者だました」
「県外」公約否定
県民大会代表ら憤り
鳩山由紀夫首相が昨年の衆院選時の「最低でも県外」との発言は党の公約でないとの考えを示したことに対し、国外・県外移設を求める4・25県民大会を主導してきたメンバーや識者からは「情けない」「公約破りだ」「政治不信を助長する」と怒りの声が相次いだ。
県民大会で共同代表を務めた連合沖縄の仲村信正会長は「言い逃れは県民を愚弄(ぐろう)しており、政治家としての資質を問われる。責任者として発言の重みへの自覚が足りず、総理になる資格はないのではないか」と「公約破り」の姿勢を批判した。
同じく共同代表の大城節子県婦人連合会長は「沖縄は終戦から65年間も基地を負担してきた。さらに負担をと、どうして言えるのか考えられない。情けなさと怒りで体中の力が抜けた」と深いため息をついた。
県民大会の幹事団体の一つで、県子ども会育成連絡協議会の玉寄哲永会長は「政府の目は沖縄でなく米国を向いていて腹が立つ。県外移設が公約ではないと言うなら、沖縄に来たのは個人の観光か」と言葉に怒りを込めた。
八重山大会の実行委員会を構成した「いしがき女性9条の会」の藤井幸子事務局次長は「大会での県民の声をどう受け止めたのか。絶対許せない」と憤る。宮古地区大会の星野勉共同代表も「県民に期待をさせておきながら、あまりにもばかにしている」と怒りをあらわにした。
政治家や要人の発言を集めた著作もある照屋寛之沖縄国際大学教授(行政学)は「政治家の言葉に『個人』の発言はない。一国の首相の言葉とは思えない」とあきれ、「有権者は選挙での政治家の言葉を信用して投票する。首相自ら有権者だましをするなら、政治不信を一層助長することになる」と指摘した。