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「県外」を掲げて政権を発足させて8カ月。鳩山由紀夫首相がそのための十分な努力をしたとはとても思えない。しかし、米海兵隊普天間飛行場の危険を一日も早く除くためには、当面沖縄県内に負担を一部お願いせざるをえない。それが首相の「思い」なら、説明もおわびも足りなかった。
首相が沖縄県を訪れ、仲井真弘多知事らに普天間の国外・県外への全面移設は難しいとの考えを初めて伝えた。
首相によれば、国外移設は在日米軍の抑止力を維持する必要から不可能だという結論に至ったという。県外も、あまり遠くに移すことは不可能だと「判明した」という。いまごろになって、この程度の説明をされても納得する人がどれだけいるだろう。
条件の合いそうな自治体に協力を求めるなど、万策尽きて県内に戻ったというのならまだしも、政権内では早くから、名護市の米軍キャンプ・シュワブ陸上案や、うるま市の勝連半島沖の埋め立て案が検討されていた。5月末の決着期限まで1カ月を切り、ようやく「本音」を表に出した。
首相はこの期に及んでも、「腹案」の具体的中身は明らかにしなかった。名護市辺野古沿岸部に桟橋方式で滑走路を建設するとともに、ヘリ部隊の一部を鹿児島県徳之島に分散させる案が固まっているが、連立与党の合意が得られていないためだろう。
知事は普天間の危険性除去を最重視する考えを示しており、今も県内移設反対を明言していない。しかし、移設先の具体案を示されることなしに、理解を求められても無理な相談だろう。
首相は沖縄の負担軽減について、「パッケージ」として解決していく考えを強調した。普天間移設問題で期待に応えられない分を、日米地位協定の見直しなどで補い、沖縄県民に理解を求めたいということのようだ。
首相はまた、「将来的には、グアム、テニアン移設は十分にありうる」とも述べた。東アジアの安全保障環境を長期的にどう見通し、日米同盟をどう対応させていくのか。
負担を減らしていきたいという発想はいい。ただ、腹を据えた戦略的な対米、対アジア外交ができなければ絵に描いた餅で終わる。首相への不安はそこにもある。
首相は訪問の先々で「県民の声を直接聞きたい」と繰り返した。しかし、県民は「首相が何を考えているか」こそを聞きたかったに違いない。
首相は今後も沖縄を訪れて対話を重ねたい考えのようだ。政権発足からこんなにたって、まだ最初の一歩にすぎない状況だ。
残された短い時間で移設先の理解を得ることができなければ、決着の先送りか、地元の同意なき強行か。首相にはいずれかの選択肢しかなくなる。
鳩山由紀夫首相が力を入れる「新しい公共」作りに向け、特定非営利活動法人(NPO法人)の税制見直しが決まった。NPOを力強く発展させ、市民社会を充実させるテコとなるよう、中身を工夫したい。
見直しの柱は、個人の寄付を増やすための優遇措置の拡充や、対象となるNPO法人の認定基準の緩和だ。年末の税制改革大綱に盛り込むため、これから具体的内容を詰める。
寄付の優遇は従来、寄付額を課税対象となる所得から差し引く所得控除だけで、高所得層にしか恩恵が及ばないと批判されてきた。
今後は新たに寄付額の一部を納税額から差し引く税額控除も選べるようにする。首相は、寄付額の半分を控除し、控除額の上限を所得の4分の1とする考えを示した。政党や政治団体への寄付が30%税額控除なので、それより優遇するとの判断だ。
市民の活動を納税者が直接支える流れを太くする意味でも、この措置を歓迎したい。ただ、サラリーマンには控除を受けるのに確定申告が必要なことも壁になっている。年末調整で済むようにするべきだ。
優遇策はすべてのNPO法人が受けられるわけではない。国税庁が一定の基準で「公益性」を認めた認定NPO法人だけが享受できる。だが、全国でNPO法人が約4万あるのに認定NPO法人は127しかない。そこで今回、認定要件の緩和も打ち出された。
これまでの基準は事業などの収入総額のうち、3分の1以上を寄付が占めるよう求めている。だが、事業収入が多いと基準が達成しにくくなるジレンマがあったり、費目の分類が複雑で実際には税理士の支援が必要だったり、と問題が多い。
今回、「一定額以上の個人寄付が一定の数だけあればいい」との基準も作り、併用する方向になった。
だが、甘くし過ぎると脱税の隠れみのに悪用される懸念もある。制度づくりで注意すべき点だ。
大事なのは、一般の人々から見て「寄付に値する信用の置けるNPO法人」を増やすことだ。その点で、NPO法人側にも反省すべき点は多い。
活動の実態や財務内容、人事の理由などを対外的にきちんと説明しない例も少なくない。
日本で寄付をしている人の数は米国に比べ見劣りはしないが、金額が小さい。NPO法人の中身が不透明なので、思い切った応援を決めかねている面もあるようだ。
NPO法人を支える制度作りは政府だけの仕事ではない。NPO法人有志により統一の会計基準や経営原則のチェックリストを作る動きが進んでいる。NPO法人の自立と質の向上を促すために力を合わせてほしい。