普天間問題の「5月末までの決着」を主張し続けてきた鳩山由紀夫首相が4日、首相就任後初めて沖縄を訪れ、仲井真弘多知事に政府方針を説明する。
公表されていない新たな「腹案」が飛び出すのか。それとも、過去に報じられた政府案を詳しく説明するだけなのか。
政府自身が「最終調整の段階」だと語っているだけに、鳩山―仲井真公式会談は、普天間問題の大きな転機を刻むことになるだろう。
鳩山首相の口から政府案を聞くまで断定的なことを言うのは差し控えたいが、状況はかなり悲観的だ。
今のところ、「現行案の修正案」と「徳之島への一部移設案」をセットにした案が有力だといわれている。現行案(辺野古沿岸部)を放棄した鳩山政権が、現行案の修正案にかじを切ることになれば、4月25日の県民大会で示された民意と大きな隔たりが生じることになる。
地元合意が得られないまま移設作業を強行すれば、鳩山政権はまずもたないだろう。
首相はいま、大きな岐路に立っている。私たちが最も恐れるのは、追いつめられた政治状況の中で普天間問題の解決が政局に大きく左右され、ゆがんでしまうことである。
米国が政府案に対して「ノー」を言い続ければ、鳩山首相は窮地に追い込まれ、退陣せざるをえなくなるのだろうか。もし、そうだとすれば、日本の総理の生殺与奪の権を米国が握っていることになる。おかしな話だ。
首相に残された選択肢は限られている。深い意味もなくみずから期限を区切ってしまったために、残る時間も1カ月を切ってしまった。
時間との闘いの中で本質的な議論が一切行われず、あっちがいいかこっちはどうか、といった「子どもの遊び」のような移設先探しばかりが目につく。憂慮すべき事態だ。
「同盟の危機」をあおり立てながら現行案が最善だと主張するのも、一見、現実的なように見えて、実は政権交代以降の現実の大きな変化を見ていない。
鳩山首相を政治的に追いつめるために普天間問題を政争の具にするようなことがあってはならない。
追いつめられた鳩山首相が日米合意を優先し、地元がのめないような県内移設案を強行すれば、この間の騒ぎは一体何だったのかということになる。地元の期待を裏切り、日米関係を混乱させただけの首相として、歴史に汚名を残すほかないだろう。
現行案を放棄した段階で「県内移設はもうない」と考えるのが筋だ。それが政治の常識というものではないか。
旧政権は米軍再編について、米国との密室協議の中でさまざまな合意を交わしてきた。国民のコンセンサスを得る努力を怠り、結果だけを「アメとムチ」政策によって関係自治体に押しつけてきたために、米国が日本側に期待するものと国民の考えの間に大きな認識の隔たりができてしまったのだ。
国民向けには「沖縄の負担軽減」といい、米国に対しては「抑止力の強化」を主張するという言葉の便利な使い分けが旧政権には目立った。そのつけが今、鳩山政権に回ってきているのである。
では、袋小路に入った今の状況を打開するにはどうすればいいのか。
普天間の危険性除去について、5月末までに具体的な道筋をつけること。その上で、国会にこの問題を議論するための特別委員会を設け、九州の候補地やグアム、テニアンなどの検討結果を明らかにすること。委員会に米国高官や米軍幹部を証人として招き、海兵隊の役割や21世紀の抑止力について米側の考えを聞くこと。
なぜ、日本に海兵隊が必要なのか、在日米海兵隊の駐留目的は何なのかを明らかにする必要がある。
普天間の代替施設建設と海兵隊のグアム移転のために日本側は1兆円を超える巨額の税金を投じようとしているが、それは安全保障の利益と釣り合いのとれたものなのか。
はっきりさせるべき点はあまりにも多い。そうした疑問点を封印したまま海兵隊のヘリ基地を移設しようとしても、日本中どこでも反対にあうだけだ。