「やれやれ……」

ペンを置くと冬月はトントン、と肩を叩いた。
そして首筋を押さえてグルリと首を回すと、ポキッと子気味いい音が鳴る。
大きく息を吐き出すと、机の端に置かれた紙の山を見る。

(ようやくこれだけ終わったか……)

五センチ程積みあがった大量の書類を見て、今度は机の反対側を見る。
そこにはサインし終えた物の倍の高さの山があった。
もう一度溜息を吐く。今晩は帰れそうにない。

(碇の奴め……)

冬月は心の中でゲンドウに呪詛の言葉を吐く。
冬月がさっきからカリカリと書いている書類の半分はゲンドウに割り振ったはずの物である。
雑用や冬月のもので事足りる書類は普段から冬月が片付けているが、冬月だって忙しい。
いつも机に座ってああ、としか言わないゲンドウを見ていると、腹立たしくなってきて、 たまにはお前もしろ、とばかりに書類の半分を突きつけたのだ。
ふん、と鼻息を鳴らしてゲンドウに叩きつけたのだが、ゲンドウはニヤリ、と口を歪めただけだった。

「何だ?」

冬月が尋ねると、ゲンドウはおもむろに立ち上がり、ドアの方へと向かった。

「何処へ行く?お前の仕事はここにあるぞ?」
「ゼーレからの呼び出しだ。予算の件だそうだ。」
「くっ……」

冬月は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるが、こればかりはどうしようもない。
ゲンドウにしては珍しく勝ち誇った顔をして部屋を出て行ったのだった。


回想を終え、閉じていた目を冬月は開いた。
それと同時に部屋に備え付けられたブザーが鳴る。

「君か……」
「大分お疲れの様ですね。」
「碇に仕事を押し付けようとしたのだがね、逃げられてしまったよ。」
「ふふ……自分の危機から逃げるのは上手な人ですから。」
「全くだよ。」

リツコと言葉を交わした冬月は、椅子から立ち上がって窓越しに外を見る。
決してジオフロントの景色が好きと言うわけではないのだが、目が疲れるとついつい外に目を向けてしまう。

「それで、経過は良好かね?」
「はい。うまく融合が進んでいます。これで当分は大丈夫かと。」
「碇はその事を知っていたのかね?」
「いえ、ですが心配はなさっていました。」
「何だかんだで溺愛してるからな。」

もっとも、誰も気付かないだろうがな。
椅子に腰掛けながら、冬月は内心で呟いた。
リツコも笑顔を浮かべて冬月の言葉を聞いていたが、すぐにまた真面目な顔に戻る。

「言ってはなんですが、弐号機が洋上で使徒と遭遇したのは幸いだったのかもしれません。 シンジ君に怪しまれないで済みますから。」
「そういえば、かなりシンジ君がここの事を調べて回っているとか言っていたね?」

信用はされてないという事か。
やや残念そうに呟くと、冷めたお茶で喉を潤す。

「まあ、それも仕方ない事か……」

隠し事が多すぎる。中にも外にも。
それは冬月としてもすでに十分に承知していたはずだったが、少しばかりの苛立ちと落胆を隠せない。
リツコは黙ってその様子を見ていたが、やがて持ってきた報告書を減ったばかりの山の上に積み重ねた。
やや乱暴に積むと、そのまま部屋を出て行こうと入り口に足を進めた。
空気が抜ける音がして、ドアが開く。
体が半分出たところでリツコは振り向くと、冬月に笑顔を向けて言い放った。

「その書類、今日までにお願いしますわ。」

プシュ、と勢い良くドアが閉まる。
冬月はもう一度溜息を吐いた。

























第九話 日の当たる場所

















大分過ごしやすくなってきたな。
そんな事を考えながら僕は学校への道を歩いていた。
空は突き抜けるような蒼なんだけど、もう10月も半ばにさしかかろうというところ。
つい数週間前までの肌を焦がさんばかりの暑さは無くて、朝はもう正直言って寒い。
と言うわけで、久々に登校は学ランを着ての登校になって、長袖がちょうどいい。

「グーテンモルゲン、シンジ。」

朝から元気な声を掛けられた。しかもかなりテンションは高そうだ。
女の子から声を掛けられたら、いつも、というか他の子だったらもうこっちもテンション上がりまくって 笑顔で元気良く「モーゲン!」なんて挨拶を返して、別れた後も「ああ、今日はいい一日になりそうだ」 とか思ってホントに良い一日のスタートが切れるのに……

「ああ、おはよ、アスカ……」
「何よ、朝からテンション低いわねぇ。」
「アスカが高すぎるんだよ……」

別にアスカが可愛くない、とかそういう事を言ってるわけじゃ…いや、可愛いかどうかは大いに 疑問が残るところだけど、ともかく、顔だけは美人だと思う。それも極上の。
だからもし、今日初めて会ったとか、もしくは学校でしか顔を合わせた事が無いというのならともかく、 僕としては殴られたり踏んづけられたりとか、そういう記憶しかないわけで。
昨日でもそうだ。





やっと何度目か分からない入院生活が終わった。
今回は約二週間、てところだったけど累計すればどれくらいこの病院に居るんだろう?
ネルフが一番で二番が病院、三番目が学校ってところかな?勿論過ごしてる時間の長さが。

すっかり顔なじみになってしまった先生と看護士さんに挨拶をして病院を出る。
朝は涼しくても昼間になると―――少し日は傾いてはいるけど―――流石にまだ暑い。朝の寒さにすっかり騙された。 厚着するんじゃなかった。
ギラギラ、とまではいかないながらも汗が滲み出るには十分な熱気。
長袖のシャツにジワリと汗が染み込む。
それが少し気持ち悪い。

「ただいまー。」

誰もいないと分かってるけどつい声を出してしまう。
理由なんて特に無い。ただ何となくだ。
それでも返事が返ってきたらいいなー、なんて思ったりもしてしまう。

(あー…おかえり……)

頭の中だけで返事が返って来た。
だけどそのやる気のない、心底だるそうに言われるとむかつく。

(わがままな奴だな。)
『ただでさえお前に言われても嬉しくないのに、せめてもうちょっとやる気出しやがれ。』

溜息が出た。
ただでさえマンションに帰り着いた時にはもう汗だくで、シャツが体に張り付くしベトベトするし、気分は最悪だ。
とりあえず少しでもこの不快感を取っ払おう。
部屋に入ると着替えを持って風呂場へ。
ガラッとカーテンを開けて脱衣所に入ったんだけど……

「え?」

んな声が聞こえてきてそれと同時に僕の動きも止まった。

「あー……」

これはまずい。過去最大級にヤバイ。言い訳できない。
いや、言い訳できないわけじゃない。だって僕は彼女がここに居る事を知らなかったんだから。
て言うか何で惣流さんがここに居る!?しかも下着姿で!?
何故!?ホワイ!?
いやいやいや!それどころじゃない!落ち着け落ち着け落ち着け!!
理由なんてどうでもいい!とにかくこの状況はまずい!
何をすればいい!?どうすれば……?
そうだ!こういう時は謝れ!とにかく謝れ!

大きく一回深呼吸。よし、落ち着いた。
さあ、目の前で固まってる惣流さんに声を掛けようじゃないか。

「ぐっじょぶ!!!」
「くぉんのバカがぁっっ!!!」

死んだじーちゃんが川で泳いでるのが見えた。

いや、じーちゃんの顔なんて知らんけどね。



「ゴメンゴメン、忙しくてシンジ君に伝えるの忘れてたわね。」

珍しく日が落ちる前に帰ってきたミサトさんは、帰って来るなり速攻で冷蔵庫を開けながらそう言ってきた。
多分今日退院の僕に気を遣ってくれたんだろうけど、出来ればもうちょっと早く帰ってきて欲しかった。
プシュ、とミサトさんがビールのプルタブを開けて、中から泡が溢れてくる。
おっとっと、なんて言いながらミサトさんは一気に缶を傾け、プハァッ!と見事な飲みっぷりを見せてくれた。
そんなのどうでもいいですから早いとこ僕を助けてください。半分は貴方の所為なんですから。

そんな僕の心の叫びに気付く事無く、ミサトさんは嬉しそうに二本目のビールを開けた。

「やっぱ早引けしてのビールは最高ね!」

水の如くビールが胃袋に流し込まれていく。
確かにここのところ忙しかったでしょうから、早く帰れたのが嬉しいのは分かります。 分かりますから、何とか惣流さんをなだめて下さい。いい加減足が痺れてきました。
チラッと椅子に座って腕組みしてる惣流さんを見てみた。
そしたらギロッなんて擬音が似合いそうな勢いで睨みつけて、フンッと鼻息荒く顔を背けた。
参ったなぁ……

「ミサトさぁん……」
「あ、アスカ。もう一本取って。」

完全無視。惣流さんが取り出したビールを受け取って、また一気に飲み干す。
やっぱり僕って要らない子なんだね……

「しっかし、シンジ君の顔も見事ねぇ。」

ミサトさんの言う通り、多分今の僕の顔ってすんごい状態だと思う。鏡見てないから分かんないけど。
文字通りボコボコだ。何せ数十分に渡って惣流さんから折檻を受けたんだから。
最初の一撃で意識を飛ばされて、気が付いた時には敷居の上で正座させられてた。
とは言え、文句は言えない。何だかんだ言って僕が悪いわけだし、般若みたいな惣流さんの顔見たら 何も言えない。言えるわけない。

「アスカもいい加減許してあげなさいよ。」
「乙女の肌を見たのよ!本来なら死刑よ死刑!」
「また大げさな……」

何気に呟いた言葉も聞き逃さず惣流さんは睨みつけてきた。地獄耳。

「とにかく何でもするからさ。そろそろ解放してください。退院してきたばっかなんだしさ。」

そう言ったら、惣流さんは何とも言えない表情を浮かべてそっぽを向いてしまった。
何かまずいことでも言ったかと思ってミサトさんを見ると、ミサトさんはミサトさんで舌打ちをした。
それで僕は悟った。本当にまずい事を言ってしまったんだと。
でも何がまずかったのかが分からない。
原因が分からず、どうしていいかさっぱりで惣流さんとミサトさんの間を視線が行ったり来たり。
僕はおろおろするばっかりだったけど、そこでミサトさんが一度溜息を吐いた。

「アスカはシンジ君の事を心配してたのよ。」
「だ、誰が……!!」
「そうだったんだ。ありがとう。」

惣流さんが何か言いかけてたけど、かぶってしまった。
まずった、と思ったけど、ここで気を遣うのも変だと思って気付かないふりをする。

「べ、別に心配してたわけじゃないわよ。ただ……」
「ただ?」
「……何でも無いわよ!
それよりいいわ。もう許してあげるわよ!」

何かぶっきらぼうな言い方だけどいっか。ともかく解放されたんだし。
ずっと正座だったからすっかり足がしびれてしまった。感覚が無い。
だから僕としてはまっすぐたったつもりだったんだけど、バランスを崩してしまった。
手を突こうとしたんだけど失敗して、強か背中を打ってちょっと息が詰まった。

「シンジ君!」
「あたた……大丈夫です。」

ついいつもの調子で左手を突こうとしてしまった。いけないいけない。気を付けないと。
でもこけたおかげか、惣流さんに言おうと思ってたことを思い出した。

「あ、そういえば惣流さん、ごめん。僕の所為で弐号機の腕壊しちゃったんだよね。
惣流さんも腕大丈夫だった?」

ずっと気になってたんだよね。だけど帰ってきた早々色々あって今の今まですっかり忘れてた。
思い出せてよかった、と思ってほっとしてたんだけど、二人を見ると二人とも、特に惣流さんの方は ぽかん、と口を半開きにしてた。
また何か変なこと言ってしまったらしい。

「えっと……」
「あっはははははは!!」

何か言おうとした途端、ミサトさんが突然笑い出した。何だこの酔っぱらいは。
さっきとは違った意味で惣流さんもポカンとしてる。

「はっははは……あー、笑った笑った。
分かったでしょ、アスカ?シンジ君はこういう子なのよ。」
「こういう子ってどんな子ですか、どんな。」

どんな意味でミサトさんが言ったのか知らないけど、随分と失礼な話だ。 僕は至って普通……やっぱ違うかも。

「はあ……分かったわよ。アタシが馬鹿だったわ。」
「すいません、話が見えないんですが。」
「うっさい!バカシンジ!!」
「うわ、ひどっ!」

一応僕の方が年上なんですけどね。そりゃ惣流さんに比べれば頭悪いとは思うけど。

「アンタはバカシンジで十分よ!
それからこれからはアタシの事アスカって呼びなさい。」
「え……」

何か話が急展開で進んでいった。もうついていけないや。
てなわけでもう考えるの放棄します。

「……いいの?」
「惣流って呼ばれるの、何か変な感じがするのよ。」
「分かった。それじゃそう呼ばせてもらうよ。」

ミサトさんといい、リツコさんといい、どうもネルフの女の人は名前で呼ばせたがるな。
女の人を名前で呼ぶの、あんまり慣れてないんだけどしょうがない。

さて、いざ呼んでみようと思ったけど、その時僕の頭にまた悪い考えが浮かんだ。

(馬鹿だな……)

頭の中でシンがぼやいたけど、もう止まらない。
全く、僕の悪い癖だ。面白そうだと思うと、やってみないと気が済まない。結果がどうなるかも分かってるのに。

「ちょっと試しに呼んでみていい?」
「別にいいわよ。」
「じゃ、ちょっと失礼して……


バカアスカ?」

案の定、次に目が覚めたのは今日だったりする。





しかし、殴られて目が覚めて初めて会ったのがアスカとは。今日もついてないのかな?

「このアタシが声かけてんのよ?もっと嬉しそうにしなさい。」
「そりゃ無理だ。」

即答。一切迷わずにね。
そしたら今日もまたアスカからパンチが飛んできた。
無論、今日は殴られはしない。予想してたし、状態がそれなりに普通なら殴られるほど僕は運動神経は悪くないつもりだ。

「避けるな!!」
「やだ。」

殴られて喜ぶなんて、僕はMじゃない。どうでもいいけど。
結局学校に着くまでアスカの攻撃をかわしまくった。朝から疲れた。何やってんだか、ホント。








さっきまで寒いと思ったのに、アスカのおかげで汗かいてしまった。
ベッドでずっと寝てたおかげで体がなまってるなぁ。 そんな事を考えながら教室のドアの前に立つ。
久し振りだから少し緊張してる。
一度大きく息を吐いて、右手で教室のドアを開けた。

「おはよー。」
「あっ、おはよう、碇く……」

久しぶりに登校したクラスメートを、他の皆が温かく迎え入れる……て流れにはならなかった。
途中まではそんな流れだったんだけどね、残念ながらその流れは途中で途絶えた。
理由は分かってる。だって皆の視線が僕の左腕に注がれてるからね。
そりゃ誰だって絶句するさ、しばらくぶりに現れた奴が服の片袖に空気を詰めてれば。

「え、えっと……」

きっとどう声をかけていいか迷ってるんだと思う。
いつもの感じで返事をしたけど、思わず僕を見て言葉を失って、そのまま無視も流すことも出来ずに焦る。
何も言えないけど、皆、目だけは僕に対して哀れみの色を浮かべてて。
僕はショックを受けてるような、それでいて諦めているかのような表情を浮かべる。
だけど、僕は心の中では嗤ってた。いやらしい笑みを浮かべて嗤ってた。
たまらない!たまらないよ、この同情の視線を一身に集めるこの快感!!
いかにも苦労してますって、頑張ってますよって見せる事で得られる素晴らしさ!
何事にも代え難いほどの快楽が僕の脊髄を駆け巡る。
思わずイッテしまいそうだ。
我ながら歪んでる。いつもながら歪んでると思う。いや、狂ってるのか?
他の人がこういう時どんな気持ちになるのか分からないけど、僕はやっぱり狂ってるのか。
でも感情は止められない。だって、僕は僕になったんだから。
僕が僕で居る事が出来る。他の人にはない、僕だけの特徴。僕を僕たらしめるアイデンティティ。
それが初めて誰にもわかる形で出来た。
多分片腕失って喜んでるのは僕だけだと思う。
僕だけ。
まさにオンリーワン!何て素晴らしい響きだろう。

「おー、碇。久し振りだな。」

後ろからノーテンキな声が聞こえてきた。
相変わらずいいタイミングで来てくれる。

「うわっ!碇、お前その腕どうしたんだよ!?」

大げさなリアクションで聞いてきた。途端に微妙な空気を醸し出す。
だけどカケルはそんなの知ったこっちゃない、てな感じでどんどん聞いてくる。

「久々に学校に来たと思ったらそんなカッコで?
何があったんだ?」
「まあ、バイトで、な?」
「バイトって、あれか?めっちゃくちゃ割のいいってやつか?」
「そ。その代りいざという時には今まで入院もしてたしな。
ま、これくらいの結果は覚悟してたし、こういう事も起こり得るって事で高給をもらってたからな。」

努めて明るく、またさして気にしてないようにカケルに対して返事をした。
あんまり場を暗くし過ぎてもよくない。
気まずい、同情に満ちた空気があまりに長く続き過ぎると、それはそれで面倒で、むしろ僕にとっても害悪にしかならない。
後々の対応に困るし、気を遣われ過ぎるのも嫌だ。
あくまで僕が欲しいのはこの一瞬だけ。刹那の快楽で十分。

「そっかそっかぁ!お互い苦労してんなぁ!!」

朝からアスカ以上のハイテンションで人の背中をカケルはバシバシと叩く。朝から元気な奴だ。
だけどこの明るさが僕を助けてくれる。このリアクションで教室の空気も明るくなって、一部ではこの元気さに笑いも零れてた。
だから僕はこのバカと付き合っているのだろうか。
今カケルは「お互い」って言った。カケルもこんな奴だけど、多分他のクラスメートと違って苦労してるんだと思う。 何となくそう思う。そしてだからこそ僕はコイツと付き合っているのかもしれない。
でももしコイツのしてる苦労が僕以上のものだったら? その時、僕はコイツとずっと友達で居られるのだろうか?
きっと答えはノーで。
そんな打算的な考えが浮かんで、少し鬱になった。

「そういやぁ何だか学校全体が少しにぎやかだな。」

カケルが教室を見回しながら言った。
言われてみるとそんな気がする。何処がどう、と聞かれると困るんだけど何となくそんな雰囲気がある。
教室の隅にも何やら色々と置かれてるみたいだし。

「そっか、碇君は知らなかったよね?」
「もうすぐ何かあるの?」
「ふふん、来月は何月?」

楽しそうに……確か山口さんが聞いてきた。
あんまり話した事はないけど、明るくて今みたいにすぐクイズみたいな形で聞いてくるから印象に残ってた。
名前がすぐに出てこなかったのは気にしないで。

「えっと、11月だよね?」
「じゃあ最初の祝日は何の日?」
「……なるほどね。」

そういえばそうだ。もう十月も終わりなんだな……

「ああ!そっかそっか!文化祭か!!」
「今頃気づいたのかよ。」
「佐藤君毎日学校に来てるのに何で気付かないの?」

僕らにジト眼で見られてナハハ、とカケルは頭を掻いた。
こいつは毎日学校に何しに来てるんだ?

「そっかぁ…文化祭か……」

あんまり今まで意識してこなかったな。それなりには楽しかった思い出はあるけど、楽しめたと言い切れる程満足できたかと 聞かれればそうでもない。
準備ばっかり忙しくて、周りが友達と話しながら楽しそうにやってるのを横目で見ながら、僕は黙々とやってた気がする。
当日も充実感なんて無くて、その日一日の大部分が退屈な時間だった。

「折角授業も無いんだしな。思いっきり楽しむか!」

でももしかしたら今年は今までより楽しめるかもしれない。
特に理由は無いけど、そんな気がした。






















NEON GENESIS EVANGELION 
Re-Program



EPISODE 9




In the shade of



















「はっ、はっ、はっ……」

ずっと動いて無かったからだろう。少しの運動でも息が切れる。
でもこうやって久々にネルフのトレーニング室を使うのもいいもんだ。
普段は引きこもりみたいな性格で体を動かそうとしない僕だけど、別に運動が嫌いなわけじゃない。 どっちかというとかなり好きだ。

「ふっ、ふっ、ふっ……」

だけどこうして体を自分から動かそう、なまった体を鍛えなおそうと思うのは僕にも自覚があるからだろうか。
イメージで動かすエヴァに体を鍛える意味はあるのか、とも思ったけど ミサトさん曰く「実際に出来ない動きはイメージもきちんと出来ない」だとか。
必ずしもそうとも思えないけど、格闘の教官もしてくれてるミサトさんの言葉だからおとなしく聞いておいた。
だから今までもミサトさんの格闘訓練も受けてきた。
でも多分それだけじゃない。
僕たちチルドレンは世界で三人しかいない、貴重な存在だと思う。自分で言うのもなんだけど。
それに多分ネルフはあまり他の組織に好まれてない。
万一に備えて、ある程度は自衛出来る様にって意味も暗にだけど含まれてるんだと思う。
じゃないと格闘訓練の他に木製ナイフや銃の訓練なんてするはずが無い。いや、そうとも言い切れないか。

「精が出るわねぇ。」
「アスカか。アスカも訓練か?」
「まあね。て言ってもここじゃしないけどね。」
「じゃ、何しに来たの?」
「アンタを呼びに来たのよ。ミサトに頼まれてね。」
「ミサトさんに?」

何だろ?実験まではまだ時間があるはずだけど。

「鈍いわね。何の為にこのアタシがアンタを呼びに来たと思ってんのよ?」
「?ミサトさんに頼まれたからじゃないの?」
「アンタバカァ?」

確かに僕は頭は良くないと思うけど、そう人をバカ呼わばりするのもやっぱりどうかと思うけどね。

「ア・タ・シが呼びに来たのよ?格闘訓練に決まってんじゃない。」
「ああ、アスカがミサトさんとやるんだね?そんなに僕に見ててほしいの?」
「だぁーーーっ!!違うわよ!!
ったく!どうしてアンタはそんなにバカなのよ!?」
「……ひょっとして僕とアスカがやるの?」
「あったりまえでしょ!!
ほら、さっさと行くわよ!」

ずるずるとアスカに襟首を掴まれて僕は引きずられていった。う〜ん、何ともパワフルな娘だ。



「遅いわよ。」
「すみません。」
「しょうがないじゃない!このバカがぼさっとしててバカなんだから!!」
「はいはい、僕はバカですよ。」

いつも通りアスカを適当にあしらっておいてミサトさんの方に向き直る。
これまたいつも通り隣で鼻息を荒くしてるアスカは放っとおいて。

「それで、僕とアスカが訓練やるってどういう事ですか?」

別に格闘訓練をすること自体は問題ない。僕もちょっと実戦的な動きをしてみたいと思ってたところだ。
だけど相手がアスカって事は納得できない。女の子に手を上げるなんて。
相手がミサトさんなら問題ない。僕なんかより遥かに強いし、気を抜くと一瞬で失神させられる。

「そのままの意味です。二人には今から組手をしてもらいます。」
「ですけど、女の子に……」

そう言った途端、アスカの視線が厳しくなった。
そして普段より幾分低い声が聞こえてきた。

「アンタ、アタシを馬鹿にしてんの?」
「そういうわけじゃ……」
「一応言っておきますが、アスカは強いわよ。」

アスカが強いとか弱いとかそういう話じゃない。そういう話じゃないんだけど、そう言ったところで誰も納得しない。

「大体、綾波さんとも今までやったことないのに……」

パイロットになってすぐの頃だったら言われるがままにしてたと思う。そういうものだと自分で納得して。
だけど、どういう訳か、今までそういう話は出てこなかった。だから僕ら同士でやる事なんてないと思ってたけど……

「今日はレイにも参加してもらいます。」
「はい。」

返事が聞こえたと思ったら、ミサトさんの影から綾波さんが現れた。この唐突な登場にももう慣れた。
ミサトさんのでかさの所為かそれとも綾波さんの存在感の乏しさの所為か。きっと後者だろう。
て、そんな事考えてる場合じゃない。

「これは命令です。」

そう言われたらもうどうしようもない。上官命令に逆らうわけにはいかない。
だからせめてもの意思表示として一回大きく溜息を吐いてやった。

「了解しました。碇三尉、命令に従います。」





腰を低く落として、右腕を前に半身に構える。
右利きだけど、普段から僕はサウスポースタイルで構えてる。
理由は無い。ただ何となくそっちの方がカッコよく思えたからだ。
くだらない理由だけど、今となってはそれで助かった。左を前にするわけにはいかないからね。
対するアスカは至ってスタンダードな体勢。だけどそれだけに隙は少ない。
どう攻めたものか、と思案してたけどその考えもあっという間に吹っ飛んだ。

「シッ!!」

鋭く息を吐き出しながら一気にアスカは踏み込んできた。
不意を突かれたけど、かろうじてアスカの蹴りをやり過ごす。
だけどそのすぐ後にもう一方の足から回し蹴りが飛んでくる。

『速い!』

回し蹴りなんて大技で、その分隙が多いはずだけど、アスカの蹴りはコンパクトで技の繋がりもスムーズだ。
避けきれず、僕は右手で頭をガードする。
パシッと軽い音が耳に届いた。

『軽い。ならっ!』

強引に体ごとアスカに突っ込む。
この際多少のダメージは無視。男女差のあるパワーで一気に押し込む!
体ごとぶつけるくらいの気持ちで右腕を突き出す。
だけどそれも読まれてたみたい。アスカは僕の左側に回り込んで前蹴りをぶち込んできた。
左は完全に僕の弱点だ。ギリのタイミングで右腕を足との間に差しこめたけど、僕の体は大きくバランスを崩してしまった。

「やばっ……!!」

声を上げた時はもう遅い。さっきとはケタ違いの衝撃がプロテクター越しに僕の脳を揺らした。
揺れる視界。そして世界は暗くなった。



目を覚ますと白い天井だった。とは言ってもいつもみたく病室じゃない。

「眼は覚めた様ね。」

上の方から声が聞こえた。
体を起こして前を見ると、綾波さんとアスカが試合してた。
アスカが押し気味だけど、綾波さんもよく頑張ってる。
視線は正面に向けたまま、ミサトさんは話を続けた。

「分かったでしょ?片腕が無いのが如何に不利か。」
「ええ、身を以って実感しましたよ。」

くらくらする頭を振りながら答えた。
腕が片っぽ無いと攻撃の方法も限られるし、何より左を狙われたらガードしようが無い。 その上、体のバランスも悪い。

「よろしい。だから早くその状態に慣れてほしかったんだけど……」

言いながらミサトさんは苦笑いを浮かべた。
言いたい事は分かる。あそこまで綺麗にやられるとは思ってなかったんだろう。
ミサトさん、僕も思ってませんでしたよ。

「後でもう一回アスカとやってもいいですか?」
「ええ、構わないわ。」

よし!んじゃ今度はリベンジマッチといきますか。
ちょうどタイミング良く綾波さんの試合も終わった。流石に綾波さんじゃ敵わなかったか。

「よし、アスカ、もう一試合頼む!」
「いいわよ。また返り討ちにしてやるわ。」

フン、と鼻で笑いやがった。
いいさ、笑ってるがいいさ。こっちこそ返り討ちにしてやるよ。
と考えつつも多分敵わないだろうな、なんて思ったり。

顔を叩いて気合いを入れる。パン、と軽い音が響いた。
さて、リハビリも兼ねてもう一丁体を動かしてきますか。
今度はもうちょっと長い事起きていたいな。







    a nuisance―――






「だから!お前もあのマンガ読んでみろって!絶対ハマるから。」
「そうか?あんまりマンガは読まないけど、どうもな……」
「マヤちゃんもどう?面白いと思うけど?」
「いや、私は少女マンガしか読みませんし、それに今忙しいですから。」

マコトは熱弁を奮いながら、シゲルとマヤはそれを適当に受け流しながら廊下を歩いて発令所に向かう。
今夜も夜勤か……と落ち込みながらマヤが食堂に向かうと、同じ様に夜勤組であるらしいマコトとシゲルが夕飯を取っていて、 マヤもそこに入って行った。
同期入社である三人は同じ発令所勤務ということもあって行動を共にする事も多い。
所属部署こそマコトは作戦部、シゲルは司令部、マヤは技術部とそれぞれ異なるが忙しさは変わらず、 こうして夜勤・食事時間が重なる事も珍しくはない。
束の間の休憩を共にすごして一緒に発令所へ戻るところであったが、途中で訓練室のドアが開いて子供たちが出てくる。

「お疲れ様でした〜〜。」

元気の良い声がトレーニングルームから廊下に渡って響く。
シンジは部屋の中に向かって一礼すると、廊下を歩いてきたマコトたちに気づいてもう一度頭を下げた。

「やあ、シンジ君。もう大丈夫なのかい?」
「ええ、もう大丈夫、ていうかいきなりハードでしたけどね。」

頭をさすりながらシゲルにシンジは答えた。口元には青黒いあざが出来ていた。
その横ではアスカが不機嫌そうにそっぽを向いていた。顔を背けていてシゲルからはよく見えないが、 アスカの口元もやや擦り切れて赤くなっていた。
レイは直立したまま微動だにしない。三人の中では一番何とも無いように思える。
三者三様な態度にシゲルは苦笑いを浮かべる。

「皆さんは休憩中ですか?三人揃ってなんて、仲いいですね。」
「たまたまだよ。俺らはこれから夜勤だから。」
「大変ですね。
マヤさんもスミマセン。弐号機壊しちゃって修理が大変でしたよね?」
「え?ええ……」

マヤはシンジとシゲルの他愛のない会話を聞いていたが、意識はただ一点に集中していた。
その為話をきちんと聞いておらず、曖昧な返事だけを返してしまう。
だがシンジはそれを肯定の返事と受け取って、更に申し訳無さそうに頭を下げる。

「本当にすみませんでした……」
「あっ、いや、そんなに頭を下げないでいいのよ。シンジ君たちの方が大変なんだし。」
「そうそう。だからそんな事気にしないでくれよ。」

マヤとシゲルが口々に慰めの言葉を口にし、シンジの表情もいくらか明るくなる。

「シンジ、そろそろ食堂に行くわよ。」
「アスカちゃんたちも今から食事か。
それじゃ俺らは今からお仕事頑張るとしますか。」
「はい。シンジの奢りです。」
「えっ!?何でだよ!?」
「男がグダグダ言わない!」

アスカにピシャリ!と言われ、シンジは理不尽に感じるも反論できない。
黙ったシンジに満足しながら、続いてアスカはレイの方に向き直った。

「それからファーストも一緒に行くわよ!?いいわね?」
「構わないわ。」
「という訳で……
それじゃ失礼します。」

丁寧にシゲルたちに頭を下げると、アスカは先頭を切ってシゲルたちが来た方へと歩き出した。心持ち足も軽い。
逆にシンジはブツブツと文句を言いながら足を引きずるように、レイは音も立てずに黙ってアスカの後をついていく。
シゲルたちは三人が去っていくのを見送ると、また長い廊下を歩き始めた。

「……三人ともいい子ですよね。」
「そうだな。俺らより何倍も大変なはずなのに、そんな素振りを見せないで。」
「シンジ君なんて片腕を無くしちゃったのに……きっとこれからやりたい事あるでしょうに……」
「その頑張りを俺らが無駄にしないようにしなきゃ、な?マコト?」
「あ、ああ……そうだよな……」

落ち込み気味な雰囲気を明るくしようと、シゲルはマコトの肩を叩きながら声をかける。
だがマコトから帰ってきた返事はどことなく暗い。
シゲルは理由を尋ねようとしたが、その言葉もマヤのセリフにかき消された。

「あっ!ゴメンナサイ!!先輩に呼ばれてたんだ!」
「そりゃまずいんじゃないか、マヤちゃん。」
「うぅ〜……また先輩に怒られちゃいます……」
「はは。また一緒に朝日を眺められる事を祈っておくよ。」
「それじゃ行ってきます……」

笑ってシゲルはマヤを送り出すと、浮かない顔のマコトを連れて休憩所へ向かった。
マコトを椅子に座らせ、自販機のコーヒーを渡した。

「サンキュ。」
「あんまり気にし過ぎると良くないぞ。あの子たちの年頃は敏感なんだ。そんな態度を出してると逆にあの子たちも気にしてしまうぞ。」
「ああ、それは分かってるんだけどな……」

渡された缶コーヒーのプルタブをマコトは開けた。
そして大きく缶を傾け、一気にコーヒーをのどに流し込む。
冷たい液がマコトののどを流れ、その苦さにわずかに顔をしかめる。

「何て言うんだろうな……あの子たちが普通じゃ無いように思えてしまうんだ。」
「そりゃエヴァに乗れるんだから普通じゃないのは当り前だろう?」
「そういう意味じゃないさ。
お前、戦闘中のシンジ君の表情見たことあるか?」
「俺だって発令所勤務だからな。あるに決まってるだろ。」
「お前は何も感じないか?自分が死ぬかもしれない時に笑ってるんだぞ?」
「そんなの分かんないだろ?もしかしたら恐怖をそうやって誤魔化してるかもしれないじゃないか。」
「確かにそうかもしれない。でも俺には本当に嬉しそうに笑ってるようにしか見えないんだよ。
レイちゃんだってそうだ。いつも無表情で、怪我しても何も言わずに淡々と仕事をこなして……」
「つまりはお前はレイちゃんも普通じゃないと。」
「アスカちゃんだって分かんないさ。
もしかしたら、いや、多分何かあると思う。」

真面目な顔をしてそうマコトは洩らした。
うつむき加減なマコトに気付かれないよう、シゲルはそっと溜息を吐きだした。

「怖いのか?」
「怖い、か……確かにそうかもな。何かあの子たちに末恐ろしさを感じるよ。」

違う。
シゲルはマコトの言葉を否定しようとした。
だがそれはシゲルの口を破って出てくることはなかった。

(否定したところでどうしようもないか……)

一口コーヒーを含みながら思う。
シゲルは、マコトが恐れているのは子供たちではなく自分の罪ではないかと考えている。
子供を前線で戦わせて、大人である自分たちは安全なところで指示を出すだけ。
それを気にかけているのではないか。少なくとも発令所の面々は気にしている人が多いようにシゲルには思えた。
その最たる者がマヤだろう。さっきもマヤの視線はシンジの、すでに無くなった左腕に注がれていた。
純粋なマヤのことだ。心底シンジに申し訳なく思っているのだろう。例え自分の与り知らぬ処で起きた出来事だとしても。
まあその罪悪感を仕事に繋げていれば誰も文句は言わないだろうが。
大体、人はなにかしら何処か人と違ったところを持っている、とシゲルは思っている。
それは物に対する執着だったり、考え方だったり。 そしてそれが度を超えたり、他人には受け入れがたかったりすると異常とみなされる。

見た目からして―――それがどれだけ参考になるかは置いておくとして―――純粋で世間知らずなマヤと違い、 マコトは良くも悪くも普通なのだ。
嫌な事から逃げ出そうともするし、逆に受け入れようともする。今回はたまたま受け入れられないだけ。
まあ、全ては勝手な自分の想像に過ぎないのだが。
誰が何を思っていようとも他人には想像することしか出来ない。それが正解だったとしても、百点なんてあり得ない。 精々七十点がいいところだ。
だからこそ、シゲルはマコトの言葉を否定しなかった。
否定したところで返ってくる結果は関係悪化という最悪な物になりかねないし、これから夜勤というところで 無駄な体力など使いたくもなかった。

(しかしなぁ……)

そこまで皆、何故気にするのだろうか。正面を見ながらシゲルはぼんやりと思った。
シンジにしろ、アスカにしろ、もう高校生なのだ。
子供には違いないが、働こうと思えば働けるし、ある程度の事なら自分で責任を取れる年齢だ。
自分で進んで戦場に出ている以上―――それまでの過程に問題はあるとしても―――何をこちらが気にする必要があるというのか。
特にシンジに至っては契約し、給料をもらい、 今は戦場へ赴くのを、マコトが言うように望んでいる節さえある。
ならば自分らが気に病む道理など何処にもありはしない。
無論、少年・少女であるのは疑いようも無い事実だから、自分ら大人がサポートをする必要はあるだろうが。

そこまで考えて、シゲルは頬を緩めた。いつの間にかくそ真面目な顔をして考え込んでいたらしい。 自分らしくも無い。
表情が次第に苦笑いに変わる。
今の考えも所詮は自分一人の考えだ。 他人にどうこう言えるわけもない。

シゲルは飲み終えた缶をゴミ箱に投げ入れた。カン、と小気味良い音がシゲルの耳に届いた。

「ともかく、だ。お前がどう思おうと構わない。やる事は変わらない。
さ、そろそろ仕事に戻ろうぜ。葛城さんにお前も絞られるぞ?」
「そうだな……」

マコトを促し、一緒にシゲルは休憩所を出て行った。
随分と長い休憩を取ってしまったようだ。この分だと仮眠の時間を取れるかどうか。

「それと、さっきの話は絶対に子供たちにはするなよ?」
「分かってるさ。俺だってそこまで馬鹿じゃない。」

そう返されるのが分かってはいたが、念のためシゲルは釘を刺した。
誰がどう思おうが関係ないが、それによって自分の命が縮められるのはゴメンだ。
それと同時に思う。
結局は自分たちの命は子供たちに握られているのだと。
そしてそれはシゲルには危うい、切れかけのつり橋の上に立っているように思えた。

(なら、俺らがしっかりと手綱を握っとかないとな。)

その為に何が出来るのか。
シゲルには具体的なイメージが湧かなかったが、それでもとりあえずは自分の仕事をきっちりこなす。
仕事で凝り固まった肩をほぐしながら、二人は発令所へと足を進めた。









     ―――fade away


















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