ネルフに向かうまでの間、僕は車の中で考えていた。
僕は、僕という人間はどこにあるんだろうと。
さっき鈴原君に切りつけられた時もそうだけど、僕という人間は凄く希薄な存在な気がする。
何をするにしても他人の目を気にして、自分の存在を、意見を押し殺す。
それも徹底的に他人に迎合するんじゃなくて、適度に自分の意見を出しながら、
決して他人に流されるだけじゃないんだぞ、と周りにそれとなくアピールするように。
僕が僕らしく居られるのは、さっきみたいに歪んだ感情が表に出てきた時だけで、
それさえもそうそう表に出していいものじゃない。
他人に変に、違う人間に見られるのは嫌だ。
怖い。
だって人は異端を弾き出す生き物だから。
それ以外の時は僕の感情は状況に凄く流される。
別に周りの人がその時々にどう思ってるとかじゃない。
こういう時は笑う時だ、今は悲しむ時だ、これをされたら怒る時だ、みたいに
全てが頭で考えて状況にあった行動を取ってる。
理性が感情をコントロールしてる。
いや、すでにそのレベルを超えて反射と言えるかもしれない。
黒塗りのネルフ公用車で本部へ運ばれる。
運転してる人も僕の隣に座ってる人も、どちらも一言も話さない。
真っ黒なサングラスと真っ黒なスーツを着て、身動きせずに前を見てる。
動いてるのと言えば運転してる方のハンドルを握る腕だけ。
冗談の一つでも言ってくれれば、いや、何か一言だけでも話しかけてくれればこの馬鹿みたいな
悩みも一瞬だけでも忘れられるのに。
変わらない車内の景色は酷く無機質で、それが僕という人間を表してるようで、寂しくて僕を落ち込ませる。
シンでさえも何も言わない。
元々シンはあまりしゃべらない性格みたいだし、淡白な奴だから
今の状態の僕とは話したくないのかもしれない。
一人ぼっちは嫌いだけど、もう慣れてしまった。
だからまた窓の外に視線を移して、くだらない悩みに戻ってしまった。
外から見えないように黒いフィルターが貼られてて、中から外を見ても少し暗く見える。
ほとんど無い左目の視力と相まって、とても世界は暗かった。
ぼやけて見える世界みたいに僕がぼやけてる。
唯一自分の物とはっきり言えるのは、今みたいに悩んでいる時だけ。
でも悩みたくなんて無い。
僕の事について悩む事は僕の神経を激しく磨り減らす。
そして結局結論なんて出ないから。
それ以外の事についても、今まで散々悩んできた。
これからは毎日を楽しく生きていきたい。
そう思っても、長い間に染み付いてしまったモノは簡単にそれを許してくれない。
つまりは今の僕とこれからもうまく付き合っていくしかないんだ、と
すでに何十回出したか分からない結論に行き着いた。
第四話 知らない、天井
ここ三週間くらいですっかり慣れてしまったプラグスーツを着て、エントリープラグの中に座っていた。
まだシンクロはスタートしてなくて、特に何の感動も無くただぼんやりと世話しなく動き回るミサトさんたちを見てた。
使徒が来たって事で今こうして言われるがままに待機してる訳だけど、
肝心要の使徒についてはまだ何も聞いていない。
恐らく今ミサトさんや赤木さん、その他目に見えない多くの人が情報収集に走り回ってるんだと思う。
全ては人類の未来の為に。
人類の未来、か……
皆本気でそんな事考えてるのかな。
少なくとも僕はそんな事考えてない。
実際人類滅亡なんてどうでもいいし、今コイツに乗ってるのもはっきり言ってしまえば金の為だ。
何の技術も学も無い僕が生きていく為には仕方ない。
命を賭けるくらいの事しないとわずか十七歳で大金を稼ぐなんてとても無理だ。
どれだけの数が来るのか分からないけど、多分最後まで生き残れれば結構な額になると思う。
あくまで生き残れれば、だけど。
僕が死ねば結局は人類は滅亡しちゃうと思う。
だから後々で楽して生きる為には絶対死んじゃダメなんだけど、別に死んだら死んだで別に構わない。
勿論死ぬのはそれなりに怖いけど、死んだらさっきまでの煩わしいけど止まらない、生産性の全く無い
無駄な悩みから解放されるからそれはそれでいいかな、なんて思ってる。
死んだら人類滅亡なんて関係無いしね。大して守りたい財産も人も居ないし。
あ、でも人類が滅んじゃったら次の人生楽しめないか。ま、いいけど。
当然だけど、こんな事は口に出さない。
だって誰かに聞かれたらただじゃすまない事が分かってるから。
人類の皆さんはこんなパイロットが選ばれちゃったんで、もしもの時は諦めて下さい。
(相変わらずだな。)
そんなどうでもいい事考えてたらシンがやっと話しかけてきた。
姿は無いけど苦笑いしてるのが口調から簡単に分かる。
「お褒めの言葉ありがとう。
それはそんな考え方に対して?それとも行動自体に対してかな?」
(どちらかと言えば行動の方だな。
お前は精神的に余裕が無くなるとすぐくだらないモノローグに浸るからな。
しかも無駄に明るい。)
「暗いより明るい方がいいだろ?」
(普段からずっとそんな感じで居ればよかろうに。)
「そんな事は僕の頭に言ってくれ。勝手にそんな風になるんだから。」
(ま、現実逃避も程々にしとけよ。)
「流石に分かってるね。これが現実逃避だって。」
(自覚してるからなお悪いってこともな。)
何だかんだ言ってコイツが一番僕の事を分かってる。
元々が僕だから当たり前だけど。
「碇三尉、さっきから何をブツブツ言ってるの?
もうちょっと緊張感を持ちなさい。」
ミサトさんに怒られた。
でもそれで少し頭が冷えて変に高かったテンションが少し落ち着いた。
それでも今の会話をミサトさんに聞かれなかったのは幸いだったと思う。
聞かれてたら良くて変人扱い、悪ければ最悪精神科に飛ばされるかもしれない。
やっぱり声を出さないやり方に慣れなきゃな。
「シンクロスタートします。」
伊吹さんの声が聞こえて、次いで目の前の無機質な壁が様々な模様に変化した。
色取り取りの世界が流れ、赤、青、黄緑と変わって次には神経の様な細い模様がぎっしりとプラグの
中を取り囲んだ。
それと同時に僕の中も何かが変わって行った。
不安に押し潰されまいとしてもがいていた、現実逃避とはちょっと違う。
最初の使徒にやられてから次に乗った時に気付いた、心の底から湧き上がる高揚感。
それは歪んだ僕の性格から来る高揚感とはまた別で、何と言えば良いのだろうか、全能感と言うか、
とにかく今なら高層ビルの屋上からでも飛び降りれるんじゃないかと思う。
……例えが悪い。
これじゃ僕が薬中の危ない人みたいじゃないか。
ともかく、こんな風に自分で突っ込みを入れれる位には冷静で、尚且つ心地良いまでの高揚感に包まれてるってことだ。
視界が開けていく。
最初に目に入ったのはケージの壁、その次にブリッジに立っている綾波さんの姿が目に入った。
目にはまだ包帯を巻いていて、腕も以前のように吊っていた。
痛々しい姿だけど、真っ直ぐにこちらを見ていた。
彼女が見てるのは僕なのか、それとも初号機か。
恐らく初号機の方だろう。
前に話した感じじゃ僕に興味があるようには思えないし、長くエヴァに関わってきたらしい彼女だ。
最初の時は重傷だったし、初めてシンクロするエヴァを見たかったのかも知れない。
まだ比較的自由になるであろう頭部を動かして彼女の方を見る。
ギギ、と何かが軋む音を立てて初号機の頭もわずかに動いた。
彼女と僕の目が一瞬合う。
だが僕がそれを意識した瞬間、彼女は興味を失ったかのようにどっかへ行ってしまった。
それを見たら、少しだけ昂ぶってた気持ちが冷めた。
「神経接続完了。シンクロ率、56%。」
完全に僕とコイツは繋がったらしく、薄暗かった世界が少し明るくなった。
そして少し沈んだ僕の気持ちもまた明るく照らされた。
前以上に。
「アンビリカルブリッジ移動。」
「初号機は三番射出口へ。」
「進路クリア、オールグリーン。」
オペレーターの人たちの報告が次々と耳に入る。
彼らは彼らの仕事をしてる。
なら金を貰ってる以上、僕も僕の仕事を果たさなきゃな。
そう考えて気持ちを切り替えた。
さっきの綾波さんの事も頭の隅に追いやって、上がるテンションも自重する。
そう戦いは常にクールに。
小学校の時を除けば、まともに喧嘩もした事が無い僕が言っても説得力の
カケラも無いけど、心掛けも何も知らないならそれを信じるしかない。
そして何故だかそれが今なら出来る気がした。
「碇三尉、これから簡単に作戦を説明するわ。」
「ええ、お願いします。」
「まだ第三新東京市は完全に稼動できる状態じゃないわ。
よって今回は今後の事も考えて出来る限り郊外での戦闘を意識して。」
「分かりました。
それで、具体的にどうすれば?」
「幸い今回は使徒を早い内に発見出来たわ。
前回には無かった武器も用意出来てる。」
そこまで言って、モニターにはミサトさんに代わって赤木さんが出てきた。
なるほど、そう言えば赤木さんは技術部長だったな。
ならその武器は赤木さんたちが作ったのか。
「射出されたらすぐ横にパレットライフルも出します。
ここ最近訓練で使ってた奴よ。練習通りにすれば問題無いはずよ。」
言われて思い出した。
ここのところミサトさんたちとの格闘訓練とかの他に射撃訓練もやってたな。
エヴァも起動させないで(何でも動かすだけでとんでもない額が掛かるらしい)プラグに入っての訓練だったけど、
ばーちゃるな空間にこの前の使徒が現れてそれを的に射撃をするっていう訓練なのかゲームなのか分からん
訓練だったのを覚えてる。
突っ込もうとしたら皆真面目に仕事してたんで、こっちも黙々と使徒をぶっ倒してたけど。
「ああ…あれですか……」
「何か不満でも?」
「いえ、ただ本番でうまく出来るか不安になっただけです。」
不満ですなんてとても言えない。
向こうは至って真面目だろうし、万一口を滑らせたらマッドだと噂の赤木さんから何される事やら。
ちなみに不安なんて今はノミの心臓ほどの大きさすらない。
むしろ早いとこ外に出て動き回りたいくらいだ。その勢いで今度の使徒も瞬殺出来そうな気すらする。
勿論そんな事が出来ないのは自分が一番知ってるけどさ。
「弾は劣化ウラン。威力はこの前の使徒なら保証するわ。
A.Tフィールドさえ中和すれば蜂の巣に出来るはずよ。」
それは何とも心強い保証だ。
外では動き回りたいけど殴り合いたいとは思わない。
だから赤木さんの保証はかなり有り難かったんだけど……
「ただ今度の使徒にも通用するかは未知数よ。
戦自が攻撃を仕掛けたけど、ここから遠過ぎて奴がフィールドを張ってたかどうか確認出来なかったの。」
「じゃあ無駄じゃないですか。」
そんな金があるんなら他の復興中の街に分けてやれ。
少なくともここで撒き散らすよりずっと価値がある。
「無駄じゃないわ。
そのおかげで劣化ウランが効かなかった時の作戦も考える必要が出来たんだから。」
「物は言い様ですね。」
「あら、事実よ。それに恐らく奴はフィールドを展開して無かったわ。」
「根拠は?葛城一尉。」
自分の作った兵器にケチをつけられたからか、赤木さんが剣呑な表情でミサトさんに尋ねた。
口調にこそ出てないが、表情には誰が見ても分かるくらい腹を立てているようだ。
ミサトさんがどう答えるか黙って見てたんだけど、ミサトさんから返って来たのは
どう突っ込んでいいのか分からない位堂々とした返事だった。
「勘よ。」
「は?」
「だ・か・ら、勘。」
真面目な顔してどの口がそんな事言うだろうね。
ああほら、皆間抜けな顔しちゃってるよ。あ、副司令まで。
「別に女の勘とか言わないわよ。
どっちかと言うと戦士としての勘ね。自慢じゃないけど、くじは当たらなくてもこういう勘は外れた事が無いわ。」
「……個人的には外れて欲しいんですけどね。
分かりました。ならそのつもりで居ますよ。僕も常に最悪を想定して動くようにしてますから。」
本当の最悪はそれの更に上を行く、と言うしね。
何とかライフルが効けば儲け物、そうでなかったら予想通りだし。
「そうしてちょうだい。
赤木博士も他に何かありますか?」
「あそこまで堂々と言われたら返す言葉も無いわ。好きになさい。」
呆れ顔で言ってるけど、赤木さんもとりあえず納得したらしい。
付き合い長そうだし、何だかんだでミサトさんの事を信頼してるのかもしれない。
「葛城一尉、委員会からエヴァンゲリオンの出撃要請が来てます。」
確か作戦部の人だったかな?
日向さんがミサトさんにそう伝えた。委員会ってなんだろ?ここは国連の機関だから国連の人たちか?
「うるさい奴らね。
日向君、使徒は後どれくらいでここに到着しそう?」
「後5分ほどで強羅絶対防衛線を突破します。」
「ありがと。
では碇三尉、使徒が五番射出口を通過したら、すぐさま初号機も射出するから急襲して。
まずはパレットライフルで攻撃して、効果が確認できたらそのままライフルを中心にして攻撃を。
効果が無いと判断したらすぐにプログナイフで近接戦闘に移行。
戦闘中は三尉の判断で行動してちょうだい。
攻撃目標はここ。」
そう言うと、プラグのモニターに今度の使徒の映像が現れた。
イカのような形に何とも言えない赤黒いグロテスクな色。出来ればライフルで決着が着いてほしいものだ。
自分の手じゃ無いとは言え、触りたくは無い。
「体のほぼ中心部にコアが露出してるわ。
前回同様、ここを破壊すれば活動を停止すると思われるわ。」
弱点を惜しげもなく曝してくれてる。
使徒に人みたいな意志があるかは知らないけど、自信があるのかバカなのか。
「了解しました。」
「まもなく使徒が目標地点を通過するわ。それまでは気持ちを落ち着けてて。」
そうは言っても僕の中の興奮は中々治まってくれない。
早く外に出たい。動きたい。その思いばかりが僕を押し上げる。
まだか、まだなのか。
気持ちばかりが急く。
冷静さが大事だと分かってはいるけど、頭で分かってるだけで体が追いついてこない。
一分が、一秒が圧縮された様に何時間にも感じられた。
「目標、射出口を通過します!」
ロンゲのオペレーター、青葉さんの叫び声が聞こえた。
それと時間を置く事無く、待ちわびたミサトさんの号令が下る。
「エヴァ初号機、発進!!」
前回はきつく感じられた射出のGも今は快楽を得る為の心地良いスパイスに思える。
僕の腕が、足が、皮膚が、そして脳が痺れるほどに更なる快楽を求めていた。
光が差し込む。
僕を照らしてくれる天上の明かりが僕自身を祝福してくれてるようにすら感じられた。
全てがうまくいく。
何の根拠も無いはずなのに、それが真実だと思った。
普段は懐疑的な僕が、信じきって疑おうなんて考えが出てこない。
麻薬の様に僕を盲目にしてくれる。
でもそれは全部僕の単なる思い込みなんだと、気付かされた。
「シンジ君!避けて!!」
悲鳴にも近いミサトさんの叫び。
射出直前に聞こえたそれだけど、僕の体はうまい具合に反応してくれた。
それはまた僕の首筋を、何か冷たいものが流れた所為かもしれない。
僕を過去何度も救ってくれた第六感のような勘。
多分ミサトさんの声だけじゃ反応できなかったと思う。
果たして、さっきまでより更に視界が開けたはずなのに、目の前の半分は何かの影に覆われてた。
「ふっ!!」
それが何かを理解する前に機体を低く滑らせる。
次いで、頭の上で鋭い風切音が僕の耳を震わせた。
半ば転ぶ様に地面を転がり、次いで急いで立ち上がった。
そこには脇の部分から光っている鞭みたいなのを揺らしてる奴がいた。
映像で見るより遥かにでかく感じる。
そして、それを見た瞬間、そいつを明確な「敵」だと僕は認識した。
こっちに来てから使徒は敵だとずっと聞かされて来た。
正確には聞かされてはいない。
でも何と言うか、ネルフ全体の雰囲気がそう伝えてきていた。
使徒は倒さなければならない、使徒は人類を滅亡させるんだ、と。
だけど僕自身はそんな認識は無かった。
あくまで使徒は敵だと、知識としてそう考えてるだけで、使徒を敵だと意識したことは無かった。
エヴァに乗るのだってあくまで仕事だ。生きる為の。
生きる為に命を賭けるってホント矛盾してると思うけど。
エヴァに乗って、気持ち悪い体の使徒を見て僕は初めて敵意を持った。
ここまでの十七年の人生の中で、僕は敵意をほとんど持ったことは無い。
むしろ皆無と言っていいかもしれない。
だけど今は高揚感に混ざって憎悪とも言うべき感情が溢れてる。
あいつは敵だと、あいつは存在してはいけないんだと何かが叫ぶ。
普段の僕とは違ったドス黒い感情が僕の中を満たしていくのが分かるし、
僕もそれを当然のように受け入れてた。
「三尉、早く攻撃に移りなさい。」
ミサトさんの声で我に返る。
すでにパレットライフルで使徒を急襲する作戦は瓦解してしまってるけど、
別に勝負がついたわけじゃない。
これからは僕次第ってところだろう。
避けた方向が悪かったのか、郊外故にほとんど設置されてない兵装ビルが使徒の近くにあって
簡単には近寄れそうも無い。
ビルに偽装された武器庫からライフルが所在無さ気に姿をさらしてた。
どうやってそいつを取りに行こうか、それともプログナイフで攻撃しようか考えてたら、
何か違和感に気付いた。
違和感と言うよりは懐かしい感覚、と言えばいいのか。
その原因に思い至った僕は、そっと右目を隠してみた。
「……見える。スゲェ……」
久々の感覚。
明るくて、相手がはっきり見える。
モニターから赤木さんのフィードバックがどうとか言う声が聞こえてきたけど、
そんな理由なんてどうでもいい。
結果に比べれば遥かに些細なことだ。
もしかして、と思って左手に意識を向けてみる。
ここ数週間ですっかり左手の事を忘れてしまってたからか、最初は動きは鈍かったけど
すぐにまた前と同じ様に動いてくれるようになった。
「よし……」
「三尉、いけるのね?」
「ええ、まさかまた両目で世界を見れるとは思いませんでしたよ。」
言いながらも使徒からは目を離さない。
奴はふらふらと鞭を揺らしたまま動かない。
余裕なのか……
「だとしたら後悔させてやる……」
「速やかに近接戦闘に移行して。
それと可能ならパレットライフルを使ってみてちょうだい。威力を確認したいから。」
ミサトさんの言葉を聞きながらも、その実、全然聞いてなかった。
今、見えるのは正面に相対する使徒のみ。
それ以外は邪魔だ。
支援してくれるはずのミサトさんの声さえも煩わしい。
耳障りですらある。
僕の中にはさっきから使徒に対する敵意しかない。
そう、あいつが嫌いだ。
アイツを倒したい。
奴を……
コワシタイ
NEON GENESIS EVANGELION
Re-Program
EPISODE 4
Where Can I Go?
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
おおよそ僕に似つかわしくない雄たけびを上げながら、プログナイフを片手に飛び掛る。
何かに引きずられるように、奴に向かって走る。
狙いは中心にあるコア。
そこを目掛けてナイフを突き立てる。
だが、当然奴も黙っているわけが無い。
誰もが嫌であるように、使徒だって殺されたくは無いだろう。
奴は体を縦に起こし、光り輝く鞭を振り回し始めた。
「くっ!!」
突進を止めてバックステップで後ろにさがる。
そしたらちょうどそのまま進んでたら僕が居たであろう位置を、まるで剣の様に一刀両断するかのように
鞭が通り過ぎていった。
運動エネルギーを強引に殺した足が軋む。
筋肉が切れたのが何故だか分かる。
普段だったら相当に痛いと思う。
でも今は興奮してるのか、痛みを感じない。
いや、違うか。
痛みは感じてる。けどそれすらもどうでもよく感じているだけか。
さがった足が着地すると同時に、足に力を込めてまた前に出る。
また足が軋む。
でもそのまま動き続ける。
実際奴の鞭がどれくらいの攻撃力があるのかは知らないけど、
何せ光っているんだ。威力は相当なもんだろう。
叩かれたら痛みを無視なんて出来ないだろうし、そもそもあれを鞭だなんて考えていいのだろうか。
どうも剣みたいにすっぱり切られそうな気がする。
「っと!!」
前に出たらまたしても鞭が飛んできた。
そういえば鞭は二本有ったんだっけ。
そんな事を考えながら、今度は横に避ける。
右足を軸にして体を捻る。
今度は膝が軋んだ。
「やあああぁぁぁっ!!」
体を回転させながらナイフを横薙ぎに振るう。
けれど所詮ナイフはナイフ。
刃が短すぎる。
振るいながらそれに気付いたけど、こればっかりはもうどうしようも無い。
せめてかするだけでも、と願ったけど、やっぱり短い刃は虚しく空を切った。
ナイフの方は空振ったけど、その次に放った回し蹴りはキレイに奴の体を捕らえた。
無論ただの蹴りで致命傷なんて与えられるはずは無いけど、
ダメージは十分に与えられたはずだ。そう信じたい。
多分頭だと思うけど、そこを蹴飛ばしたおかげで奴に無防備な姿をさらす事だけは避けられた。
倒れはしなかったけど、奴はそのイカとも昔話題になったつちなんとかとか言った
珍獣ともつかない、ずんぐりむっくりした体を大きく地面に向かって傾けた。
無論、こんな動きは生身で出来るはずが無い。
だけどこいつは僕のイメージ通り動いてくれる。
僕の想像とも妄想とも言えない無茶な空想。それを忠実に再現してくれる。
「よしっ!!」
モニターからそんな声が聞こえてきた。
多分ミサトさんだろうと思うけど、よく分からないし興味も無い。
ただ分かったのは、今が絶好のチャンスだって事だ。
そう、チャンスだった。敵を滅ぼす為の。
この上ないチャンスのはずだったんだ。
なのに……ここで僕の悪い癖が出た。
チャンスの時こそ冷静にならなきゃいけないのに、どうしても焦ってしまう。
それで今まで何度もチャンスを逃してきたって言うのに、学習能力が無いのか、また焦ってやってしまった。
戦闘においてナイフは切る物じゃなくて刺す物。
戦闘訓練でそう教えられたはずだけど、僕が取った行動は剣みたいに振り下ろすもの。
もちろん決してナイフがなまくらと言う訳じゃなく、切ろうと思えばこの上なくスバラシイ切れ味を
発揮してくれる…と思う。まだ使ったことが無いから分からないけど。
だけど、振り下ろすことの何処が悪いのか、なんて問題の答えは、今の
状況を見れば納得が行く。
振り下ろされたナイフは奴の体に届く前に鞭に受け止められた。
赤木さんによれば高周波数で振動してるらしいナイフと、奴の鞭が押し合って激しく火花を散らし、
その光が僕の網膜を焼く。
眩しさに目を細めれるけど、ナイフに込める力を緩めはしない。
このまま押し切ってやる。
そう思って、更に力を込める。
僕の思いに呼応するように、腕に力が満ちてくるのが分かった。
拮抗が続いてたナイフと鞭。
そのバランスが崩れ始めて、徐々に僕の方が押し始める。
二本の鞭ごと奴の体を切り裂こうと、少しずつ、少しずつ押し込んでいく。
いける。
確かな手応えを感じてこれまで以上にぐっと力を込める。
それに伴って、一気に奴の方にナイフが傾いた。
ナイフが奴の体にわずかに触れる。
そして後もう一歩で勝負が決する、というところまできたのに、そこで大きく力のバランスが崩れた。
その結果がこっちの勝ちならよかった。
でも良かった、なんて語ってる時点で悪い結果だった事は誰だって分かるだろう。
果たして、力のそれと同じくして僕はバランスを崩し、ナイフは無情にもまたしても窒素やら酸素やら
が入り混じったものだけを切った。
空振って、体のベクトルは地面に真っ直ぐ向かっている。
僕の視界にも草がはげて、赤茶けた土が近づいて来るのが分かった。
「くっ!!」
慌てて手を地面に突く。
ほぼ全体重が乗った腕が、地面を抉って盛大に砂埃を巻き上げる。
ぞわり……
本日二回目の「あの」感覚が背筋を走り抜ける。
この感覚に従わなかった事は今まで一度も無いけど、逆に従わないなんて選択肢も一度も存在しなかった。
今回も素直にそれに従う。てか、体が勝手に反応した。
無理やりに体を動かす。
前のめりの体を地面に埋まった右手だけで横に転がす。
「つっ!!」
思わず痛みに声を上げてしまった。
だけど痛い思いをした甲斐はあったみたいで、顔のすぐ横の地面が鞭で抉られていた。
それこそさっき自分で抉ったのとは比較にならないほど深く。
そして、ちょうど鞭の延長線上にあったんだろう。
使われること無く地面から突き出てたパレットライフルが粉々になってた。
とんでもない破壊力だな……
そんな事考えながらも内心ではドキドキしてる。いや、ワクワクだろうか。
生きるか死ぬかの瀬戸際。それが僕にこの上なく生を感じさせてくれる。
だけどぼうっとして死ぬわけには行かない。
ジンジンと痛む肘を無理やり意識の外に追いやって立ち上がる。
まずは少し間合いを取ろうとしたけど、奴はそれを許してくれなかった。
すぐに二の矢が飛んできた。
避けられない。
咄嗟に腕を交差させて顔を守る。
半ば反射的な行動だったんだけど、それが裏目に出た。
奴の狙いは上ではなく下。
気付いた時は遅かった。
足に鞭が絡み付いて、次の瞬間には僕の体は空を飛んでた。
天地がひっくり返って自分が今どの向きを向いているのかさえ分からない。
体勢を立て直そうにも、空を飛べない人間はそのやり方を知らない。
「ガッ!!」
背中から落ちて、肺の中のLCLが無理やりに吐き出される。
でもすぐに新たなLCLが肺に戻ってきて、むせ返るような血の匂いが頭を駆け巡った。
「シンジ君、急いで!!時間が無いわ!!」
気持ち悪さに咳き込んでると、モニターからミサトさんの叫びが。
何の事か分からなかったけど、モニターに大きく表示されてる数字が猛烈な勢いで減っていってた。
さっき投げ飛ばされた時にケーブルが外れたらしく、このままじゃ三分しか動けない
どこぞの宇宙人みたく時間切れになってしまう。
残りは約四分三十秒。目の前にはゆっくりと迫ってくるグロテスクなイカの化物。
さて、どうしようか……
とりあえずこうしていつまでも寝てるわけにはいかない。
考えるよりまず動け。それがモットー。
言い換えれば考えるのが嫌いとも言うが。
この絶望的な状況下でどうやって戦況をひっくり返してやろうかとあれこれ考えてたけど、
動く前にミサトさんの鋭い声が飛んできた。
「動かないで!!」
ビクッとしながらモニターを見ると、ミサトさんの額に汗が滲んでるのが分かった。
何があったんだ?
「そのまま左下を見て……」
言われるがままに顔だけをそっと動かす。
そしたらそこに…人が居た。
「何でだよ……?」
皆シェルターに避難したんじゃないのかよ?
何でこんな所に居るんだよ?
何で……邪魔をするんだよ……
「シンジ君!!」
声に反応して前を見てみれば使徒が間近にいた。
虫の様に鞭を揺らめかせて、僕の方を見ていた。
「くっ!!」
振るわれた鞭をとっさに掴む。
瞬間、両の掌から激痛が襲ってきた。
いつの間にか僕の中の高揚感は引いてしまっていて、それを自覚した途端伝わってくる痛みが増した。
くそ……
「ミサトさん!どうするんですか!?」
焦りばかりが募って僕の声も自然とでかくなる。
叫ぶように尋ねたけど、ミサトさんからの返事は無い。
横目でモニターを見てみると苛立ってるのか、爪を噛んでた。
(人類を守る名目上、簡単に見捨てられないからな。)
今の今まで黙ってた奴が急にそんな事を言い出した。
それ位こっちだって分かってる。
だからこうやって痛い思いまでして使徒を食い止めてるんじゃないか。
「ミサトさん!!」
もう一度叫んだけどやっぱり返事は無い。
残り時間は二分。悠長に迷ってる暇なんて何処にも無い。
チラッと下を見てみる。
半泣きでこっちをあいつらは見上げてた。
その顔を見て思い当たった。
何処かで見た事あると思ったら、ついさっき僕に向かって切りつけてきた中坊じゃないか。
くそっ!くそっ!!クソッたれ!!頭なんて下げなきゃ良かった。
どうしてこうも邪魔してくれる!?
折角良い気分だったのに、完全に冷めちゃったじゃないか!!
うざい。
うざったい。イライラする。痛い。頭まで痛くなってきた。邪魔臭い。目障りだ。
ウザいイライラする痛い邪魔だああ痛いイタイウザいジャマイライラスル腹立たしいメザワり
ウザッタラシイイライライタイアアイタイイタイ腹がタツイラナイカエレジャマジャマジャマ
イタイウザいジャマイタイイタイイタイウザイメザワリジャマイラナイ障害ショウガイボウガイする奴
ウザッタラシイイライライタイアアイタイイタイ腹がタツイラナイカエレジャマジャマジャマ
イタイウザいジャマイタイイタイイタイウザイメザワリジャマイラナイ障害ショウガイボウガイする奴
ウザッタラシイイライライタイアアイタイイタイ腹がタツイラナイカエレジャマジャマジャマ
イタイウザいジャマイタイイタイイタイウザイメザワリジャマイラナイ障害ショウガイボウガイする奴
ウザッタラシイイライライタイアアイタイイタイ腹がタツイラナイカエレジャマジャマジャマ
イタイウザいジャマイタイイタイイタイウザイメザワリジャマイラナイ障害ショウガイボウガイする奴
ウザッタラシイイライライタイアアイタイイタイ腹がタツイラナイカエレジャマジャマジャマ
イタイウザいジャマイタイイタイイタイウザイメザワリジャマイラナイ障害ショウガイボウガイする奴
ウザッタラシイイライライタイアアイタイイタイ腹がタツイラナイカエレジャマジャマジャマ
イタイウザいジャマイタイイタイイタイウザイメザワリジャマイラナイ障害ショウガイボウガイする奴
ウザッタラシイイライライタイアアイタイイタイ腹がタツイラナイカエレジャマジャマジャマ
イタイウザいジャマイタイイタイイタイウザイメザワリジャマイラナイ障害ショウガイボウガイする奴
ショウガイハイラナイショウガイハイラナイドウシテオマエハジャマヲスルイタイイラナイヤツハ
ハイジョスレバイイソウスレバソウスレバ……
「…潰してしまうか……」
そうすれば……
「三尉!無視して戦いなさい!責任は私が持つわ!!」
待ち望んでたはずのミサトさんの言葉。
だけどその直後に襲ってきたのは…自分に対する恐怖だった。
今僕は何を考えてた?
僕は何を思った?
何を……望んだ?
「碇三尉!!」
寒気がする。
震えが止まらない。
レバーを持つ手が小刻みにカタカタと音を立ててた。
「三尉!どうしたの!?三尉!!」
ミサトさんが何か言ってるけど、うまく理解できない。
言葉は分かるけど、それが何を意味してるのかが分からない。
(シンジ!!俺に体をよこせ!)
シンが珍しく叫んでる。
もっとも近しい他人なのに、その声すら理解するのに時間が掛かった。
震える右手で髪をかき上げる。
その途端、僕の意識は現実感を失っていった。
「三尉!!」
ミサトの声が聞こえる。はっきりとこの耳で。
「聞こえてますよ……」
答えながら掌を閉じたり開いたりして感触を確かめる。
握った瞬間猛烈な痛みを感じた。
感触が気持ち悪い。恐らく表面はグチャグチャだろうな。
「何してたの!!もう時間が無いわ!」
彼女も相当焦ってるんだろう。声が馬鹿でかい。
「大丈夫です。無視して戦っていいんですよね?」
「ええ、構わないわ。」
「了解。」
タイマーを見る。
残りは一分少々か……
どうする?
とりあえず……
チラッと下を見た。相変わらず二人のガキは震えていた。
無視しろ、とは言われても怪我させないに越したことは無いだろう。
問題はコイツが思った通りにきちんと動いてくれるかだが……
そこらは運に任せよう。
そう思った直後、何か違和感がした。
暖かくも冷たい何か。
それが何かは分からないが、矛盾した性質を持ったそれは俺に近づいて来て、瞬間夢の様に霧散していった。
刹那、何とも言えない一体感が膨らんでいった。
なるほど、これがシンジがやたらと言ってた感覚か。
残念ながらそこまで高揚感は感じないが。
ただ、コイツが思う存分動いてくれる、というのだけは分かる。
根拠も何も無い。それでも確信があった。
ならば迷う事は無い。
痛みが邪魔なら痛覚を遮断してしまえばいい。
痛みを無視して、一層鞭を握る手に力を込める。
そのまま体を丸め、首の力だけで機体を跳ね起こす。
傍らのガキを踏み潰すような間抜けな真似はしない。
自分のイメージと寸分違わぬ位置に足を着く。
横目で下を確認すると盛大にこけてはいたが踏み潰したりはしてないらしい。
少し安心した。これでもう憂いは無い。
鞭から手は離してない。
残り少ない時間。ナイフは何処かに落とした。
だが、武器はある……この手の中に。
口元が歪む。
自分でも意外だった。
何が嬉しいのか分からない。それでも確かに俺は嗤ってた。
手を添えてそっと口を元に戻す。
そして両腕に力を込めた。
「何を……」
ミサトの呟きを聞きながら一気に使徒を引き寄せる。
コイツは鞭は速いが本体自体に機動力は無い。
現に鞭を拘束されてる今、全くと言っていいほど体は動いていない。
引き寄せて余った鞭を両腕に巻きつけ、使徒と初号機を密着させる。
人で言うなら息が掛かるほどの距離。
ゼロ距離とも言えるほど近づけたところで、強引に鞭の向きを変えた。
巻きつけた腕から白煙が上がる。
だが、それすらも無視。
「立派な威力だが……」
当然自分も喰らえば痛いよな?
「自分の鞭の味は如何かな?」
グニャグニャと、まるで生き物の様に動き回る鞭。
そいつを持ち主のどてっ腹に突き刺してやった。
腹の中心にある紅いコア。
そこに触れた途端、プログナイフを突き立てたかのように眩しい火花が俺の網膜を焼く。
苦しそうにもがく使徒。
だが、今の俺にはそいつから解放してやろうなんて心暖まる話をする気などさらさら無い。
更に腕に力を込めて、深く深く、抉る様に差し込む。
使徒はもがきはするが、苦悶の声を上げるでも無く血反吐を吐くでも無く、ましてや怨嗟の叫びを
上げるでも無い。
ただ、それまでのシンジが戦ってた時のような激しさは無く、静かに使徒は静かにその動きを止めた。
「パターン消滅!目標は完全に沈黙しました!」
青葉とか言ったオペレータの声が聞こえる。
その途端、プラグの中の灯りが一瞬消え、続いて非常灯らしき薄暗い灯りが帳を下ろした。
気が付かなかったが随分と紙一重の勝利だったらしい。
「ふぅ……」
力を抜いてシートに体を預ける。
それと同時に体を急激に脱力感が襲ってきた。
「眠い……」
そんな何の変哲も無い言葉が口を突いて出て、そのまま俺の意識は遠のいていった。
奇妙な浮遊感。
その時の感覚をそう評すのが適当かも知れない。
浮き上がるような感覚ながらも、泥の中に居る様に体は重い。
夢見心地ながら、ああ、疲れてるんだな、なんて思った。
暢気にそんな事を考えていたんだけど、いつの間にか浮遊感は消えて代わりにズブズブと
何処かに沈んでいた。
慌てて体を起こす。
見れば泥の様な何かが辺りに広がってた。
やばい。
危機感が頭の中を占めて、気持ちの悪い冷たい汗が頬を伝った。
逃げないといけない。
そう思って足を動かそうとした。
だけど地面に縫い付けられたみたいにピクリとも動いてくれなかった。
泥に足が埋まっているわけじゃない。ただ足の裏がピッタリと張り付いていた。
何だよ、コレ。
手を足の裏に突っ込んで強引にはがそうとするけど、全く動かない。
今度は足首を持って引っ張る。
でも手はずるずると滑って力が入らない。
何が付いてるのか、イライラしながら僕は掌を見た。
時が止まった。
掌にこびりついてたのは、半分乾きかけた血だった。
もう一度周りを見回す。
そこにはおびただしいほどの人が横たわっていた。
!!
首にはいつの間にか手が絡みついていた。
苦しいと思う間もなく、僕の意識は闇に包まれた。
ゆっくりと目を開ける。
窓から入る白い光が静かに僕の体を照らしていた。
どれくらいそうしてただろうか。
時計も無いこの部屋で、何も考える事無くじっと上ばかりを見つめていた。
そして僕の口から零れ出たのは、何の抑揚も無い声だった。
「知らない天井だ……」