「死ぬことも出来ない僕は、世界を構成する時のエネルギーを使って一人の人間を作りました。
そしてその中に、ある魂を入れ、更にその肉体の中で僕の魂を休眠状態で閉じ込めました。」
「まさか、それが……」
息を飲み、目を大きく見開いてミサトはシンジを見る。
シンジもゆっくり頷くと、答えを口にした。
「そうです、ミサトさん。
網谷レイナ。彼女は僕が作り出した人間です。
サードインパクトで眠りに入った初号機の魂の欠片を使ってね。」
第壱拾五話 絶望と希望
「そんなことあるはず無いわ!エヴァに……」
「魂があるはずがない、ですか?」
立ち上がって叫ぶユイを見ながら、シンジは冷静にユイの言葉の先を取る。
ユイを見るその目はすでに興味を失っていた。
「そうだ。もし最初から魂が入っていたのなら、ユイ君やキョウコ君も取り込まれることは無かったはずだ。」
「それがアナタ方の最初の過ちなんですよ。
エヴァそのものの魂はとても希薄なものなんです。その為、誰かが中に入り込めば貪欲に取り込もうとする。エヴァ自身の本能としてね。
それに気付かず、僕やアスカを捨ててしまったのが運のツキです。」
そう言いながらシンジは立ち上がり、ユイの方へ歩み寄る。
シンジの動きを警戒したマコトやシゲルが腰を浮かすが、二人をシンジは睨み付けた。
口元を緩めながら、漆黒の瞳で男を見つめる。
その瞬間、二人ともメドゥーサに魅入られたかの様に硬直する。
ゲンドウの様に壁に叩きつけられるでも無く、ただ脳と体が切り離された様に動けない。
「別に殺すつもりは無いよ。ただちょっと自分のした事の結果を見てもらうだけさ。」
一同の中で、一際強くシンジを睨み付けているゲンドウに向かって言い放つ。
ユイに何かしたら……
物言わぬとも視線だけで意志を伝えるゲンドウだが、依然壁に縫い付けられた様に手足はピクリともしなかった。
ゲンドウの視線を無視し、シンジは更にユイに近づいていく。
怖かった。
ユイは息子であるはずのシンジが、一歩、一歩と近づくその様が怖かった。
親である自分がお腹を痛めて産んだはずの息子が怖かった。
愛らしい顔をして、決して大きくない体格であるのに、自分よりはるかに大きく見える。
顔に貼り付けられた笑みが、ユイには悪魔の様に見えた。
「いやああぁぁぁぁっ!!」
シンジの手がユイに触れそうになった時、ユイは叫んだ。
それと同時に展開された壁が、シンジの手を弾く。
展開された壁は拡大を続け、そばにあった机や椅子を吹き飛ばした。
部屋にいる皆が自らのフィールドを展開して堪えるが、シンジだけは長く伸びた前髪を揺らしながらもスカートのポケットに手を突っ込んで何事も無いように立っていた。
つまらなそうにユイを見ていたが、やがて再び手を伸ばすとユイの頭を掴む。
ユイは目を瞑っていたが、頭を掴まれる感触に目を見開くと、涙に濡れたその瞳でシンジを見た。
恐怖に彩られた瞳。
そこには無表情でユイの顔を見るシンジの顔が映っていた。
「所詮貴女はお嬢様なんですよ。世の中の暗部を知らない。
拒絶を示すA.Tフィールドで、僕に勝つことは出来ないんですよ。」
嘲りながらそう言うと、念を込める様シンジは目を瞑った。
それと同時にユイの頭に様々な情報が流れ込む。
莫大な情報の嵐。
幼いシンジの目の前で自らが消える様子から紅い海に至るまでの情報。
凶暴な記憶の奔流は、とても人の脳が耐えられる量では無かった。
「ぎゃああああああがあああああごげぇぇぇぇっ!!!!!」
頭を抱え、目をこれ以上無いくらい見開くと、涙や鼻水を垂れ流す。
形容し難い断末魔の叫びを上げ、ユイはそのまま意識を失って床に倒れこんだ。
「ゆ、ユイ君!?」
「シンジ、貴様!!」
直ちに冬月やミサトがユイに駆け寄って抱き起こす。
ゲンドウは激昂し、シンジに掴みかからんともがく。
だがシンジは涼しい顔でゲンドウに落ち着く様言うと、何をしたのかを全員に伝えた。
「別に何も害は加えてませんよ。ただ僕の記憶を流し込んだだけです。客観的な情報も含めてね。
まあそれに耐え切れず脳が意識をカットしたみたいですけどね。」
それを聞いてミサト達は胸を撫で下ろす。
だがゲンドウと冬月は穏やかではいられなかった。
シンジの記憶を流す、ということはユイに全てを知られたと同義であった。
先程のシンジの話では簡単にしか語られなかった内容が、詳細に伝わったのだ。
当時からシンジが自分達にあまり良い感情を持っていなかったことは容易に想像がつく。
ならば当然シンジの主観が多分に盛り込まれており、今までユイに隠していた事も手伝ってユイの信頼は失われてしまうのも同然であった。
ゲンドウ達の焦りを他所に、シンジはアカリとコウヘイに近づく。
「君達も知りたくないかい?ネルフがどういう組織だったのかを。
ああ、さっきみたいな事は起こらないから安心して。ゆっくり記憶を流すし、期間も一年程度だから。」
柔らかい笑顔で微笑みながら、シンジはアカリとコウヘイの二人に尋ねる。
三年前にはネルフに所属していなかった二人は、今まで皆が何の話をしているのか今一分からず、口を開く機会すら無かった。
それだけにシンジの提案は甘美なささやきに聞こえた。
使徒戦中のネルフ。
対外的には人類を使徒から守るために結成された組織で、事実、使徒の侵攻をことごとく退けてきた。
属するようになってからも、その時のイメージは変わらない。
だが、真実はどうなのか?
もし自分達が、真実からは程遠い、作られた事実の中に居るのならば……
会議室に作られた蚊帳の外にいるという意識は、二人に真実を欲せさせた。
「……教えてください、レイナさん。本当のことを。」
「僕は今は『シンジ』なんだけど?」
「その格好で居る限り、俺にとっては『レイナさん』なんですよ。」
答えるコウヘイのその目は、真っ直ぐに「レイナ」を見つめている。
シンジにとって、そんなコウヘイの姿はまぶしかった。
自らの失ってしまった純真な心。
他の人間より強力なフィールドを張れる以上、心の暗部も当然持っている。
だが、その暗部に捕われることなく綺麗な心を持ち続けている。
そのことがシンジは意識はしていないが、うらやましかった。
だから自然とコウヘイを見る表情も和らぐ。
「私も……お願いします。」
簡潔にそれだけを口にするアカリ。
色白で、物静かな様子のアカリを見て、シンジは更に頬を緩める。
最後まで作られた己の運命に翻弄され続けた少女を思い出して。
「分かった。じゃあ行くよ?」
シンジの手が二人の頭に乗せられる。
瞬間、アカリとコウヘイの視界はホワイトアウトした。
意識を失った二人をゆっくり床に寝せると、シンジは皆の方に向き直った。
マコトとシゲルに二人のことを頼む。
マコトは部屋に備え付けの電話で人を呼び、二人でアカリとコウヘイを抱え上げて呼ばれた職員に渡す。
その際、冬月がユイも職員に預ける。
シンジはそれに気付いていたが、黙ってユイを抱えている職員を見送った。
職員が部屋を出て行ったのを確認してミサトが口を開く。
「何をしたの?」
「ユイさんと一緒ですよ。ただそれとは別にちょっと眠ってもらいましたけど。」
「どうして?アカリはともかく、コウヘイ君は折角連れてきたのに眠らせる必要なんて無いでしょ?」
「そうですね。でも気が変わったんですよ。
でもそちらもその方が都合が良いのでは無いですか?」
そう言ってシンジはニコッと笑った。
その笑みを見て、アスカとミサトはドキッとした。
嘲りや悪意は微塵も無く綺麗な微笑は、世間の標準以上の容姿を持つレイナの姿では、例え同性であっても魅了するものだった。
だがそれもすぐに消え、また元の嘲笑を浮かべる。
「それよりも話を続けましょうか。
そんな訳で、僕はレイナの肉体を構成し、その中で眠りに就きました。
だけど、その前に僕は一つだけ仕掛けを施したんですよ。
何か分かりますか?」
再び一同に問いかけ、答えを待つ。
しばし考え込む一同だが、答えは出てこない。
「サードインパクトが起きる前と起きた後。
一番変わったことは何でしょうね?」
楽しそうに話すシンジ。
シンジに言われるがままにアスカも考えていたが、少し前までアフリカで作戦に当たっていた所為か、シンジの言う仕掛けに思い当たって言葉を失くす。
「アンタ、まさか……」
「思い当たったようだね。
そう、世界中のA.Tフィールドを弱くしたんだよ。」
その後の世界は見物だったろ?
クククッ、と小さく声を上げて笑うシンジの姿は、一瞬垣間見えた、かつての姿では無かった。
それを見て、ミサトは頭に血が上っていくのを感じていた。
「アンタねぇ……!!
自分が何やったか分かってんの!?」
「勘違いしないでくださいよ、ミサトさん。
僕がしたのはフィールドを弱くして、それぞれが互いの心を読めるようにしただけ。
今の世の中がこうなのは、人が持っていた本性の結果ですよ。
僕が責められることじゃないと思いますけど?」
「でもシンジ君がそんなことしなければあちこちで紛争が起こることも無かった。人が死ぬことも無かった。」
「それを言えば、僕が居なければこの世界はこうして続くことも無かったんですよ?」
それを忘れていませんか?
悪びれもせず、シンジは平然と言い放った。
当然ミサトの怒りは収まらない。
更にミサトは口を開こうとしたが、それもアスカのうめくような声に掻き消された。
「どうして……」
伏目がちにシンジを見るアスカの声は、悲しみが多分に含まれていた。
「どうして、とは?」
「アンタ昔はそんなんじゃなかったじゃない……
軟弱で、優柔不断で……
だけど人が傷つくのが嫌で、いっつも自分より人の事ばっかり心配してて……」
血を吐くかの様に、アスカはそれだけを搾り出した。
そして、その言葉は皆の思いを代弁してもいた。
明らかに変わってしまったシンジ。
いつも傷ついて、それでも戦い続けた少年。
人が傷つくより自分が傷つくほうがいい。
そんなセリフを心から本気で言えた少年だった。
だからこそ、皆サードインパクトの後も消息を探し、心に常に自責の念を大人達は抱き続けた。
わずか十四歳の少年の背中に背負わせたモノの重さに、悩み、苦しみ続けた。
だからだろうか、マコトもシゲルも、そしてマヤでさえも現れた少年の姿に裏切りに近い感情がくすぶっていた。
アスカの訴えにシンジはどう答えるのか?
大人達はシンジに注目する。
真摯な眼差しを向けるアスカの目をじっと見ていたが、やがてシンジは目を逸らした。
ふぅ、と溜息を一度吐くと、椅子に座り直した。
「ねえ、アスカ。多分サードインパクトの前後で変わった事がもう一つあると思うんだ。」
シンジの口から出てきたのは、アスカの質問の答えではなかった。
「答えになって……」
「これはアスカだけじゃない。多分ここにいる皆が変わったと思う。
そしてこれは本人にしか分からない変化なんだよ。」
小さな声でそう呟くと、おもむろに顔を上げた。
「アスカはさ、昔僕の事嫌いだったでしょ?」
「な、何よ突然……」
「シンクロ率でアスカを抜いていった僕が憎かったでしょ?」
「……」
アスカは黙り込んだ。
シンジは淡々と事実だけを述べていたが、今のアスカにとっては思い出したくも無い事実であった。
「トウジも、妹さんを傷つけられて僕を憎んでた時があったよね?」
「……確かにそないな時もあったわ。せやけど、ワイは今はそないに思っとらんで?」
「でも、その感情はずっとトウジの中でくすぶり続けていたんだ。」
そして、会議室全体を見回しながら言った。
「ミサトさんも、使徒、もしくはゼーレに対する恨みを持っていたはずです。
他の皆さんも深層に何かを恨む気持ちがあったでしょう。
今もそれはありますか?」
シンジの問いかけに、会議室に沈黙が下りる。
シンジの言ったことは紛れも無い事実であった。
誰もが大小程度はあれど、消すことの出来ないドス黒い感情を持っていた。
そしてそれはセカンドインパクトを経験した者なら、誰でも持っている物でもあった。
だが、それらもサードインパクトが起こったと思われる日を境に、全てが消えてしまっていた。
皆を代表するように、シゲルが口を開く。
「……いや、シンジ君の言う通り、いつの間にかそんな感情消えてしまっていたよ。
だがそれがアスカちゃんの質問とどう関係があるんだ?」
「じゃあ、その消えた感情はどこに消えてしまったんでしょうね?」
「そんなの……」
分かる訳無い。
そうシゲルは言おうとしたが、口から出てくることは無かった。
シンジの言いたい事に気付いてしまったから。
完全に変わってしまったシンジの性格。
消えた負の感情。
行き先は一つしかない。
「さっき言ったでしょう?
世界中から負の感情が僕に流れ込んできた、と。
その中でもアナタ方の感情は特に強く流れてきたんですよ。
理由は分かりません。僕と関係が強かったからかもしれませんが。
流石に世界中の感情を取り込むことは出来ませんでしたが、僕の中にはいつしかそういった感情が強く残されていましたよ。
僕が望む望まないにかかわらずね。」
そして、シンジは疑いようも無いほど、邪悪で醜く嗤った。
「そして僕の中に入り込んできたそいつらは、僕の中にあった一つの感情を大きくしてくれましたよ。
僕を苦しめていた、全ての人への憎しみを。」
NEON GENESIS EVANGELION
EPISODE 15
He was Always Alone.
それは突然の終わり。
突如として部屋にあった全ての物が弾き飛ばされ、椅子や机は粉々に砕かれた。
それは人も例外でなく、椅子に座っていた者は皆、壁に縫い付けられた。
金色に輝く壁だけがその勢力を広げ、天井の明かりを砕く。
そんな中でシンジのみ嗤いながら椅子に座っていた。
「長々とした僕の話に付き合って頂きましてありがとうございました。
これで全て終わりです。」
「シンジ……」
「何、トウジ?」
「お前、ホンマに変わってしもうたんか……?」
「トウジ、僕はね、長い時間ずっと考えていたんだ。何しろ時間はたっぷりあったからね。
確か、三、四十年くらいあったかな?」
「な、何を言うとんのや……?」
壁に押し付けられた状態で話すのは苦しいのか、トウジは顔をしかめる。
「何せ数十億という人間を再構成するんだからね。それなりに時間はかかるさ。
その間僕はずっと考えてた。そして分かったんだよ。」
「な、何をや?」
「僕はネルフの大人達が嫌いだった、て言うことが。
僕が、アスカが、綾波が苦しんでいた時、何もしてくれなかった。
子供達を戦わせている。
その罪悪感だけを抱えながら、それだけで満足してたんだ。」
「戦いばっかで、皆余裕なかったんやろ……」
「そうかもしれないね。
でも、誰かが手を差し伸べていてくれたら僕らは傷つかなかった。
壊れることも無かった。
……あんな世界になんてならなかったんだ。」
最後の一言は、もう泣き出してしまいそうな声だった。
言葉から溢れるのは絶望。
裏切りに対する憎しみ。
希望を胸に夢から覚めれば、そこに広がるは虚無の世界。
この場にいる誰も、シンジのそれを共感できない。
その悲しみを悪意に変えて、シンジは言葉を続けた。
「だから……皆嫌いだ……」
「だから、消してしまおうと言うの……?」
シンジに向かって、アスカがポツリと漏らす。
シンジとトウジが話している間、ミサトはアスカに目配せしていた。
だが、アスカは力無く首を横に振るだけだった。
全く手も足も動かせない。
シンジの力がアスカの力より遥かに上回っているのは明らかだった。
「そうだね……最終的にはそこに行き着いてしまうのかもしれないね……」
アスカの問いかけに答えると、シンジは一度目を閉じた。
大きく息を吸い込み、ゆっくり目を開けるとアスカを見た。
「……僕はアスカをずっと好きだったのかもしれない。」
「そう……」
それはシンジの生まれて初めての、異性への告白。
だが、悲しいかな、アスカに向けられた言葉はすでに過去の物だった。
「さよなら。」
最後にそれだけをアスカに言うと、シンジは力を解放するべく手を大きく横に広げた。
アスカはシンジの別れの言葉を聞きながら目を閉じた。
(これで……終わりなのかな……)
暗い視界の中、ぼんやりとアスカはそんな事を考えていた。
会議室に再び沈黙の帳が下りる。
だがいくら待てども何も起こらない。
そして、異変は突如として起こった。
「ぐ…があぁぁぁ……」
頭上から降ってきた苦しみの声を聞き、アスカは目を開けた。
ミサト達、他のメンバーもその声に目を開ける。
そこには、頭を抱え、もがき苦しむシンジの姿があった。
「う……あ…や、やめ……ろ。」
尚も苦しみ続けるシンジ。
いつしか皆を縛り付けていたA.Tフィールドも消え去っていた。
「く…そ……お前は出てくる…な……」
シンジは独り言の様に何かを呟く。
そして―――
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
爪を立て、頭を掻き毟り、獣のような叫び声を上げ、シンジはゆっくりと床に倒れこんだ。
カタカタカタ……と薄暗い部屋に何かを叩く音が響く。
部屋の中には数人の白衣を着た人間が居たが、全員パソコンのモニターだけを見つめている。
そこにはお互いの存在を気にする素振りは無かった。
暗い照明の中、モニターからの光が各々の顔を照らす。
照らされた顔は皆色白く、表情も感じられない。
皆白人だが、顔の作りからして国籍は様々である様に見える。
その中で、部屋の一番奥の机で同じようにパソコンに向かっていた女性は小さく溜息を吐くと、カップに入っていたコーヒーを口に含む。
机の配置からして、恐らくはこの部屋のメンバーの上司に当たるのであろう。
ここが職場だとするならば。
日本人らしい黒髪に、肩のやや下まで伸ばされた髪。
眼鏡を外すと、フレームに隠れていた目元の泣き黒子が現れた。
女性は目が疲れたか、軽く目元を押さえ目を閉じる。
その時、女性から見て正面に位置する扉が開く。
暗い部屋が扉の向こうから入ってくる明かりによって照らされる。
その明かりを妨げるように影が部屋に差込み、開いた時と同じように空気が抜ける音を立てて扉が閉じる。
カツカツ、と革靴が音を立てて部屋の奥へと進む。
そして一番奥の机の前……ではなく、その机の奥へ回り込み、女性の後ろ側からパソコンのモニターを覗き込んだ。
「どうかね?」
男が口を開き、それからやや高めの声が出される。
長身の若い―――と言っても30歳過ぎだが―――欧州系。
それなりに整った容姿で、白銀とも言える髪をオールバックにまとめている。
男の問いは簡潔なものだが、それでも女性には通じたのか、淀み無く答えた。
「問題はありません。予定通りに進んでいます。」
「すると、今度のは大丈夫そうだね。」
「先日の物でも十分な起動だったと思いますが。」
男の言い草に女性はムッとした表情に変わる。
自らの仕事にケチをつけられ、答える言い方にも剣呑なものが混じっていた。
だが男はそれを気にすることも無く、宥める様に肩を叩いた。
「失礼した。そんなつもりでは無かったのだがね。
だが、この前の戦闘は相手の錬度も低く、シンクロ率も低かった。
それに加えて、数の上でもこちらの方が上回っていたからね。
あれくらいの結果は残して当然だと思ってるよ。」
勿論あわよくばそのまま占拠出来たら、とも思っていたがね。
最後に男はそう付け加えた。
「最初から占拠するつもりだったのではなくて?」
女性は疑問をそのまま口にする。
「その為に各地に手を回したのでは無いのですか?」
勿論女性の方も本気でそう思ってなど居ない。
あくまで、先日の第三新東京市への侵攻は調査目的。
現在のネルフの戦力、特に三年前にはいなかったアカリとコウヘイの実力の調査、及び開発されたエヴァ量産機の性能テストが主目的であった。
正確には量産機は新たに開発された訳では無い。
ネルフが残された量産機を改良したように、ここでもゼーレが開発し、ロールアウトしなかった量産機を改修、更なる改良を加えていた。
だが更に言えば、確認したかったのは量産機の性能ではない。
量産機の性能など、以前と大した向上は為されてない。
試したかったのは、云わばハードでは無くソフトの性能。
ダミープラグがどれほど量産機を動かせるか。
それこそが数ある目的の中で、一番の目的であった。
男が為したのは、それらを一度に確認するための方策に過ぎない。
全ての確認の為にはアスカ、トウジの存在が邪魔であった。
数の上でも、実力を量る上でも。
だからこそあちこちに後ろから手を回して、各地で紛争を引き起こしたのだ。
そして、ネルフは男の理想通りに動いてくれた。
人手不足を理由に、錬度、シンクロ率の高いアスカ、トウジを次々と派遣。
これを機にして、男は量産機を第三新東京市に送った。
「欲ばりは手痛いしっぺ返しを食らうものだよ。」
そう言う男だったが、得たものは予想以上に多かった。
女性には当然、と言ったが、男から見ても量産機の動きは期待以上のものだった。
流石に占拠まで行けるとは思ってなかったが、男はつい、そこまで期待を抱いてしまいそうになった。
また、本部のMAGIも十二分に誤魔化せることも分かった。
ただ、男にとって唯一の不安要素は最後に出てきた機体だった。
(ネルフにはもうチルドレンは残っていないはずだったが……)
可能性があるのは最近選ばれた、網谷レイナとか言う少女だろう。
ただネルフとは隔意があって、ネルフから離れたはずだったのだが。
(警戒はしておいた方が良さそうだな……)
決して油断はしない。
本来の目的を達成する為には、油断など微塵も許されない。
だからこそ、男は職員の動向には常に気を配り、わずかな変化にも見逃すまいと気を遣っていた。
そして、必要とあらば、手段さえも選ばなかった。
「では、予定通り事を進めてくれたまえ。
本来ならこういう手段で君を隷属させるのは気が進まないのだがね、くれぐれも変な真似はしないように。
分かってるね、簑島君―――いや、赤木君。」
「ご心配なく。
こちらでの扱いはネルフより遥かに良いですし、契約に違わない限り、文句はありませんわ。
研究に専念させていただいてますし。」
「それを聞いて安心したよ。」
男は赤木と呼ばれた女性の言葉に安心したのか、笑いながら部屋を出て行った。
再び明かりが室内を照らし、数瞬の後にはまた薄い闇が部屋を支配する。
赤木―――リツコは男の姿が消えると大きく溜息を吐いた。
リツコの言葉通り、ここでの研究自体は不満は無い。
強いて言えば、環境に不満はあるが。
リツコは薄暗い室内を見回す。
ここのトップである男が入ってきたにも関わらず、他の研究員は全く反応しなかった。
皆、一瞥だにせず、黙々とモニターに向かい続けていた。
人間性の欠如とも言える人間―――最早人間と呼んでよいかはリツコには分からなかったが―――に囲まれて過ごすのは、精神的に疲れる。
それでも、それはまだ我慢できた。
一番の不満、と言うか、リツコが許容できないのは、研究結果の向かう方向だった。
ネルフを壊滅に追い込みかねない研究。
リツコとてそんなもの、したくなど無い。
だが、人質を取られている以上、反抗など出来はしない。
「さて、と……」
呟きながら、リツコは先程と違うプログラムを立ち上げる。
(マヤなら気付いてくれるかしらね……)
内心で願いながら、リツコはその画面を閉じた。
今、リツコに出来ることは、従順な振りをしながら反抗するタイミングを待つだけだった。
shin:やっと終わった、が……
シンジ:どうしたの?
shin:いや、次回の事を考えるとな……
ミナモ:何か問題でもあるの?
shin:ずっと次の話を考えてたんだけどな、かなり難しくなりそうだ。
シンジ:具体的には?
shin:そこはまだ言えんが……
今回も大分苦労したが、拾六話は書きたい事はあるがうまくイメージできない。
ミナモ:アンタがうまく書けたことなんてあったっけ?
shin:いや、それを言われると困るんだが……
シンジ:少なくとも二週間以内には仕上げようね。
shin:そうだな……
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