「レイナちゃん……?」


レイナにフィールドで吹き飛ばされる形になったミサトは、尻餅をついたまま呆然とレイナの名を呼ぶ。

レイナはそんなミサトに嘲笑を向けると、向きを変えて壁際に行き、壁に背を預ける。


「どうぞ僕には気にせず皆さんはご自分の仕事をなさってください。」


姿形、声はエヴァに乗る前のレイナとはなんら変わりない。

だが、その不遜とも言える態度は明らかにレイナのそれとは異なる。

それに一人称もいつの間にか、「私」から「僕」へと変わっている。

エヴァの中で誰か他の人物と入れ替わったのではないか。

未だブラックボックスの塊とも言えるエヴァに、その原因を皆求めてみるが、分かるはずも無い。

レイナに促されるが、発令所の誰もが手を止めたままレイナを注視したままである。

ミサトも腰を下ろしたままレイナの姿を見つめていたが、我に返ると、ようやく立ち上がってレイナに声を掛けようとする。

だが、レイナの態度がミサトにレイナの名を呼ばせることを躊躇わせた。

ミサトの中の何かが警鐘を鳴らす。

あれはすでにレイナではない。

不用意に近づくと、確実に火傷をする、と。

レイナは壁にもたれ掛かったまま、うつむいて目を閉じている。

眠っているように見えるが、辺りへの警戒は緩めてはいない。

誰もがどうして良いか分からず、かと言ってレイナを見続けるわけにもいかず、視線を宙にさまよわせる。

重苦しい空気が漂う中、低く重厚な声が発令所に響く。


「……お前は誰だ……?」


天から降ってきた声に、皆救いを求めるかの様に視線を移す。

下から寄せられる発令所の視線を気にすることも無く、ゲンドウは手で口元を隠したままレイナを見据える。

ゲンドウの鋭い視線を向けられたレイナだが、ゆっくり目を開けるとだるそうに口を開いた。


「そんなに慌てなくても後でゆっくり話してあげるよ。アスカとトウジが帰ってきたら。」


さっき言ったじゃないか、と言わんばかりに億劫そうに話す。


「どうしてアスカとトウジ君の名前を知っているの?」

「だからそこら辺も含めて全部話しますよ。」


ミサトは言外にレイナか否かの問いを含ませてレイナに尋ねるが、レイナはやはりだるそうに答えを返す。

あっさりと自分はレイナでは無い、とばらしたレイナの姿を取る相手に、ミサトはその意図を掴みかねる。

質問の裏の意図に気付いていないのか、それとも隠す気が無いのか。

思考するミサトを他所に、レイナは再び壁にもたれ掛かる。

そして疲れたから寝る、と宣言すると、そのまま本当に寝息を立て始めた。

その姿はすでに先程までのレイナでは無く、発令所に息を切らせて駆け込んできた時のレイナの姿そのものだった。

かわいらしい寝顔ですーすー、とレイナは寝息を立てる。

その変化に、ミサトはどうしたものか、と頭を悩ませる。

今なら排除出来ないことも無いかもしれない。

だが、その場合、ネルフとしては現時点で最大の戦力を失うことになる。

その上、ずっとレイナについて回った数々の疑問を解決する手立てをも失ってしまうことになる。

もし、今レイナを排除できるのならこの後いくらでもその機会はあるはず。

本人が話すと言っている以上、今レイナを失うことのデメリットの方が大きい。

害意も無い。

そう判断したミサトは、上部にいるゲンドウ達に目を向ける。

ミサトと目が合った冬月は黙って頷く。

視線を同じフロアに戻すと、ミサトは皆に仕事を進めるように指示を出す。

ミサトの指示を受け、全員今すべき仕事を再開する。

カタカタ、とキーボードを叩く音が鳴り響いて、表面上はいつもの職場の風景に戻ったように見える。

それでも発令所を覆う、一人の少女にもたらされた重苦しい空気は如何ともし難かった。

今、最も遠いアスカが戻ってくるまで後5,6時間。

こっそりとアスカの現在位置を確認したシゲルは、気付かれないように溜息をついた。






















第壱拾四話 世界を狂わせたモノ





















「ミサト!!」


事後処理で発生した書類にミサトが作戦部長としての判を押している時に、アフリカから帰ってきたアスカが執務室に入ってきた。


「アスカ……」


一方ミサトは、アスカを見ると軽く溜息をついて判を押す手を休める。

事務仕事の苦手なミサトとしては頑張った方なのか、顔の位置ぐらいまで目を通した書類の山が積み上げられている。

それでもまだ同じ高さの書類が、もう一山残ってはいるが。

アスカも駆け込んできたが、ミサトの机の上の山に言葉を失う。


「またすごい量ねぇ……」

「仕方ないわ。非常ルートでアスカとトウジ君を呼び戻したんだもの。覚悟はしてたわよ。」


口ではそう言うものの、すでにミサトの表情はげんなりしている。

アスカは現在のミサトの状況に躊躇われたものの、ミサトの執務室に来た本来の目的を果たすべくミサトに尋ねる。


「忙しいところ悪いんだけど、ミサト、詳しい内容を教えてくれない?」


簡単には聞いたけど、と壁に立てかけてあったパイプ椅子を広げながらアスカはミサトを見る。

ミサトも書類を机の端にどけると、コーヒーカップに手を伸ばす。


「三時頃だったかしら、正体不明の輸送機が突如現れたの。」

「そこら辺はいいわ。移動しながら大体は聞いたから。」


結局あまり分かってないんでしょ、と言いながらアスカはコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぐ。

一口飲んだアスカだったが、すでに冷えたコーヒーに顔をしかめる。


「そうは言ってもねぇ……」

「何よ、ミサト?歯切れが悪いわね。」

「アスカが聞きたいのは、結局のところレイナちゃんのことでしょ?こっちも大して分かってないのよ。」

「何でもいいわ。どういうわけか、誰に聞いてもあんまり答えてくれないのよね。」

「私見でいいならいくつか分かってることがあるわ。」


それでよいか、目で尋ねるミサトにアスカは頷いた。


「まず、あれはレイナちゃんでは無いわ。」

「?そりゃ話をちょっと聞いた限りじゃレイナじゃないみたいだけど、どこをどう見てもレイナじゃない。」

「アスカはレイナちゃんの姿を見たの?」


ミサトは未だに発令所で眠っているであろうレイナの姿をした誰かを思い浮かべた。

すでにレイナと呼ぶには若干抵抗があったが、他にどう呼べば良いか思いつかなかったので、そのままレイナで通すことにした。

その気持ちが出たのか、わずかにミサトの表情が強張る。


「ここに来る前に映像だけど、ちょっとね。アタシにはレイナにしか見えないんだけど?」


そう言うアスカに、ミサトはアスカが帰ってくる前の発令所のやり取りを話した。

それを聞いたアスカは腕組みをしてうなる。


「確かにレイナだったらそんな答えにならないわね。」

「でしょ?やけにあっさり引っかかってくれたから逆に気になるのよね。」

「よっぽどの馬鹿か、隠す気が全く無いのか。

 前者だったら楽だけど、後者の場合はちょっとヤバイわね。」


後者の場合―――特に隠す必要を認めていない場合、それは相手にこちらを一方的に制圧できる力を持つことを意味する。

無論、相手側が隠す気無く曝け出してくれる可能性もある。

だが、そんな甘い考えなどミサトには微塵も無かった。

発令所でのレイナの声、態度、何より、ミサトを見つめる濁りきった目が甘い可能性を全て否定していた。

ミサトを見下ろすレイナの瞳を思い出し、ミサトに戦慄が走る。

背筋を冷たい汗が流れ、それを押し隠すように、殊更低い声でアスカに尋ねる。


「アスカ……もしレイナちゃんが敵に回った場合、手を出せる?」


それはifの話。

けれど、非常に起こり得る仮定の話。

だから、アスカに尋ねるミサトの口調も質問のそれでは無く、確認の色が濃く出ていた。

しかし、ミサトと現状の認識にずれがあるアスカは思わずミサトに問い返していた。


「そんなにヤバイの?」

「アスカもレイナちゃんの目を見れば分かるわ。

 何も映し出していない瞳……残念ながら私の勘では十中八九こっちには付かないわね。

 何がレイナちゃんにあったのかは知らないけど、間違いなく私達を憎んでる。

 レイナちゃんの真意が何かは分からない。けれど恐らく……皆殺しにするつもりよ。」


アスカとしては、ミサトの言葉を一笑に伏したいところだった。

だが、ミサトの真面目な表情と重々しい口調がそれを許さない。


「もし……もしレイナがそのつもりなら……」


一度言葉を区切る。

そして、アスカはその決意を口にした。


「全力でレイナを止めるわ。例えレイナを殺すことになっても。

 今アタシが居るこの場所を失くしたくは無いから。」























シゲルから連絡が入り、アスカとミサトが準備の整った会議室に行くと、すでに上層部三人以外は揃っていた。

場に参加するメンバーはほとんどが三年前からネルフの根幹に関わっていたメンバー。

シゲル、マヤ、ミサト、マコトにアスカ、トウジ、アカリのチルドレン組。それにゲンドウと冬月、ユイとなる。

ゲンドウと冬月は当初ユイを参加させまいとしたが、ユイが参加すると言い張り、結局ゲンドウ達が折れる結果となった。

コウヘイはレイナが本部に居ることを知らないのと、怪我の治療を理由に呼ばれなかった。

これはミサトのコウヘイへの配慮でもあった。

アスカ、トウジに比べ精神が成熟していない為、最悪の場合に備えて見送られたのである。

短いとは言え、訓練を共にした同士である。

唯一未だ幼さを残すコウヘイ。

コウヘイがレイナの事を知れば、シンクロに大きな影響が出ることは間違いない。

量産機がどこから、何の目的で第三新東京市に来たのか。

その謎が分からない以上、出来る限り戦力の低下は避けたいところだ。


(アスカが手を下す状況にならないのが一番良いんだけど……)


そんな考えをミサトは何度も思い浮かべては掻き消してきた。

それでもミサトはすがりつきたかった。

何度目か分からない夢想をミサトが頭を振って打ち消した時、上層部三人組が部屋に入ってきた。

それに伴って、それまでわずかにざわついていた会議室が静まり返る。

そして、間もなくしてレイナが、レイナの姿をした何者かが室内に足を踏み入れた。

ゲンドウ達が入って来た時とはまた違った沈黙が場を支配する。


(あれが……)

(網谷かいな……)


アスカとトウジは、初めて見る「現在」のレイナに目を見張った。

話には二人とも聞いてはいたが、生で見るとその違いがはっきりと分かる。

自らの記憶と姿は何ら変わりは無いのに、その身に纏う雰囲気は全く異なっている。


(ミサトがあそこまで警戒するのも当然ね……)


アスカはじっとレイナの姿を追う。

それを気にすることなく、レイナはゆっくりと部屋の中心へと足を進めた。

集中する視線の中、レイナに次いでもう一人室内に足を踏み入れる。


「コウヘイ……」


レイナの背後から現れたのは、病院服姿のコウヘイだった。

眉間にわずかに皺を寄せて、レイナと共に会議室の中心へ進み出る。


「どうして……」

「僕が呼んだんですよ。一人だけ仲間外れなんて可哀想じゃないですか。」


ミサトの呟きにレイナが答える。

その口調にはわずかながら嘲りの色が見える。

まるで全てをお見通しだと言わんばかりに。


「ミサトさん、どうして呼んでくれなかったんですか?何か変なことになってるみたいだし……」

「それは……」

「なに、大した理由は無いのだよ。

 ただ君は先の戦いで怪我をしたからね。まだ安静にしておいた方が良いと判断したんだよ。」


ミサトの言葉を遮って、冬月がコウヘイに理由を説明する。

副司令から、しかも好々爺然とした笑顔で言われてはコウヘイも何も言えない。

とりあえず自分を納得させて空いていた席へ向かう。

だが隣に居たレイナが今度は明確な嘲笑を冬月に向けた。


「鼻で笑ってしまいますね。副司令からそんな言葉が出てくるとは。」

「おや、私が言うことがどこか可笑しかったかね?」

「ええ、とっても。

 とても怪我人や訓練もしていない子供を戦場に出した人間の言うセリフじゃないですね。」


その言葉に、子供達を除いたほぼ全員が固まる。

ネルフに所属していた大人達の誰もが気にしていた事。

それを指摘され、皆一様に口をつぐんでレイナから目を逸らした。

子供達は何の事をレイナが言っているのか分からず、大人の中でもユイとゲンドウは変わらずレイナを見続ける。

尤も、ユイの方は子供達と同じで話が見えていないだけだが。


「ゲンドウさん、何の話ですか?」

「……昔の話だ。お前には関係無い。」


だからこそのユイの問いであったが、ゲンドウは相変わらずの態度でそれ以上を語らない。

ユイは周りを見回してみるが、やはり誰もユイと目を合わせようとしない。

明らかに自分の知らない何かがあって、しかもそれを隠していることにユイは腹立たしさを感じた。

そばに居るゲンドウや冬月に直ちに問いただしたくもあったが、それを遮るようにレイナが口を開く。


「さて、そろそろ僕も話したいんですけど、良いですかね?」


そう言うレイナの表情は見た目以上に幼く見えた。

それは、自分だけの秘密を皆に教えたくてたまらない幼子の様。

これから話すことを聞いたら、皆どんな表情をするだろうか。

それに想像を膨らませ、ワクワクしている。

ただ、その幼い表情の下にドス黒い感情が渦巻き、それが顔に漏れ出るため、何とも言えない不気味さを醸し出していた。


「ええ、お願いするわ。レイナちゃん。」


自分が居ない間に何が起こったのか。

自らの無知を自覚しているユイが場の進行を求めた。

レイナはユイの言葉を受け、ニヤリ、と口を歪めると第一声を発した。

皆がすでに自らの流れに飲まれていることを確認して。


「改めて、お久しぶりですね、皆さん。」
























NEON GENESIS EVANGELION



EPISODE 14




Shinji.I























「そうね。アンタが黙って出て行って以来だから約一ヶ月ぶりかしらね。」


レイナの言葉に、アスカは敢えて目の前の少女が「レイナ」であるとして言葉を返した。

最早、レイナが「レイナ」で無いことは、アスカにとって疑い様の無い事実である。

レイナの格好をしているのが誰であるかはまだ分からない。

だから迂闊なことを言わないよう、警戒してのセリフだった。


「いや、『僕』にとっては何年かぶりなんだよ。」

「まどろっこしいな。お前が網谷やないっつうのはもう分かっとるんや。

 単刀直入に聞くわ。お前誰や?」


だがトウジは我慢できないといった様子でストレートに尋ねた。

アスカやミサトはわずかに顔をしかめるが、一度口に出た言葉は無かったことに出来ない。

だから考えを変えて、無駄な言葉遊びの手間が省けたと考えることにした。


「相変わらずトウジはストレートだね。トウジのそういうところ嫌いじゃないよ。」


レイナはトウジに向かって、取り様によっては馬鹿にしているとも取れる返事を返す。

しかし、トウジを見るその目には嘲りの色は全く含まれて居なかった。

だからトウジも気にすることなく、話を繋げる。


「つーことは、やっぱワイのことも詳しく知っとるみたいやの。

 でもワイはお前の事知らんで?」

「ひどいなぁ、トウジ。僕の事忘れるなんて。」


口ではそう言いつつも、レイナの顔は笑っていた。

トウジのリアクションを予め分かっていたように。


「昔はケンスケと一緒に3バカなんて呼ばれてたのに。」


刹那、トウジとアスカの時間が止まった。

今居るメンバーでその事を知っているのはトウジとアスカの二人だけ。

そして、二人は知っている。

3バカと呼ばれていたのが誰かを。

トウジは今、この場にいる。

ケンスケはレイナのセリフから有り得ない。

ならば……


「な、何馬鹿なこと言い出すのよ!?あ、アンタ女でしょ!?そんな……そんなこと有り得ないわ……」


突然立って上がって叫んだかと思えば、最後には震える声で力なくアスカは呟いた。

事情を知らない他の人間は、アスカの変化に戸惑った。

ならば、と今度はトウジの方を見てみるが、アスカと同じ結論に達したトウジも目を見開いて呆然とレイナを見ていた。

何とか事情を掴もうと、ミサトはアスカに詰め寄ろうとするが、アスカ、トウジと同じ答えにたどり着いた一人が、自らの達した結論に驚きの声を上げる。


「アスカちゃんの言う通りだ。男が女になるなんて有り得ない。まさか性転換の手術でもしたというのか?」

「男?性転換?青葉君、何を言ってるの?」

「はいストップ。それ以上は言ったらダメですよ?」


レイナはシゲルにそう言うと、アスカとトウジにも同じことを言う。

その時、レイナの手にはわずかに光る物があった。

それを見て、青い顔のまま二人とも黙って頷く。

シゲルの口から飛び出した意外な言葉と、アスカ、トウジの様子にミサトも戸惑いを隠せない。

今まで出て来た単語から色々な人物を考えてみるが、どうにも思い当たらなかった。

ミサトのその様子に、レイナはやれやれ、と肩をすくめた。


「ミサトさんもまだ僕の事分かりませんか?

 皆さんも僕の事知ってるはずですよ?」


そこの二人は知らないでしょうけどね、とレイナはアカリとコウヘイを指差した。


「自分で気付かない限り、君の事は教えてもらえないのかね?」

「そうですね。特にあなた方は気付いて欲しいですね。」

「くだらん……」


そう言うとゲンドウは立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

だがレイナは慌てることなく、背中を向けているゲンドウに声を掛ける。


「おや、折角面白おかしくクイズ形式でやってるのに放棄ですか?」

「時間が無い時にくだらんお遊びに付き合っている暇は無い。」

「ならどうぞ。ご自由になさってください。

 ただその時はこちらにも考えがありますけどね。」


ではさようなら、とレイナはゲンドウに向かって手を振った。

ゲンドウの方もそんなレイナを無視して出口へ足を進めるが、冬月がゲンドウを呼び止めた。


「待て、碇。

 レイナ君、君の言う考えとは何かね?」

「さあ、何でしょうね?

 貴方達にはどうでも良いことかも知れませんし、重要なことかも知れません。

 例えば貴方達が何をしようとしていたか、全てを教えてしまうかもしれませんよ?」


あること無いこと織り交ぜながら。

そう言うと、レイナはククク、と小さく笑った。

その笑い声を聞きながら冬月は人知れず冷や汗を掻いていた。


(まずいな……)


相手はこちらの全てを知っている。

それを悟った冬月はゲンドウに目を向ける。

ゲンドウも自らの不利を悟ったか、黙って再び席に着く。

表面上は何も変わっていないように見えるが、冬月とユイはそんなゲンドウの動揺を見て取った。


(この人がこんなに動揺してるなんて……)


滅多に見られないゲンドウに、ユイは自らの居ない時間への想いを強くする。

早く真実を、全てを知りたいと。


「ちょっと整理させてちょうだい。

 昔から居るメンバーは貴女を知っていて、それで特に私達はよく貴女を知ってるのね?

 しかも貴女は昔は男の子だったのかしら?」

「いえ、一応僕は今も昔も男ですよ?見た目は変わってしまいましたけどね。」

「どういうことかしら?」

「それは後で教えてあげますよ。」

「それで、トウジ君とケンスケ君という男の子と一緒に3バカと呼ばれていた。」

「そうです。

 ああ、後ミサトさんも気付いて欲しいですね。」


まだ気付きませんか、とミサトに確認を取る。


(私が良く知っていて、男の子、3バカ……)


最後のキーワードがミサトの何かに触れる。

どこかで聞いたことがあるような、懐かしい感じがする。

相田ケンスケ、鈴原トウジ………


(まさか!!??)


弾かれた様にアスカとトウジを見る。

二人とも信じられない、といった顔でレイナを見ていた。


「ミサトさんも気付いたようですね。

 残念ながら他の方は時間切れ、ということで。」


微塵も残念そうな顔をせず、逆に嬉しそうにレイナは制限時間の終了を告げる。

そして喜色満面の笑みを浮かべて語りだした。

ゲンドウ、ユイの方を向いて。





















誰もが呆然としていた。

答えにたどり着けなかった者はその答えに、たどり着いた者は本人の口から直接聞かされた事に。

ミサトも、トウジも、そしてアスカも信じたくは無かった。

だから、自らの出した結論が間違いであって欲しいと、切に願った。

だが、その願いもレイナの口から吐き出された言葉に無残にも打ち砕かれた。

碇シンジであるという名前と共に。


「ほん…とうに……貴女がシンジなの……?」


かろうじてユイが声を出す。

そして、その問いは皆に共通の疑問であった。

目の前の成熟しきっていない少女が、本当に碇シンジであるのか。

信じられない、信じ切れない、信じたくない。

その理由に容姿、性別が明らかに違うこともあるが、それ以上に今まで話してきた、その時の態度が彼らの記憶の中の碇シンジとはかけ離れていた。

悪意に満ちた笑み、皆に向けられる嘲笑、人前でもおどおどしない態度。

少女を碇シンジと同一人物だと認めるには、その要素が何一つ残っていなかった。


「ええ、僕は紛れも無く碇シンジですよ。証拠は何もありませんけどね。」

「じゃあ、君が碇シンジだと言うには、我々はそれを信じるしかないのだね?」


冬月の問いに頷くシンジ。


「まあすぐに信じざるを得なくなるでしょうけどね。」

「…どういうことだ?」

「そうだね……」


そう呟くと、シンジは近くにあった空いている席に腰を下ろした。

背もたれに背中を預けて膝を組むその姿は、やはりかつてのシンジの面影は残していない。


「ユイさんも知りたいでしょうから、最初から全て話してあげましょう。

碇ユイが初号機に消え去ってからを。」


シンジがそう言うや否や、それまでの落ち着いた様子とは打って変わって、ゲンドウが大きく音を立てて立ち上がった。

A.Tフィールドを展開し、シンジに詰め寄ろうとするが、それは叶わなかった。

ダン、と一際大きい音を立ててゲンドウが壁に叩きつけられる。

その衝撃でゲンドウの口から苦悶の声が漏れ出る。

そして、そのゲンドウの正面にはゲンドウに張り付くように金色の壁が広がっていた。


「うるさいよ、父さん。黙っててよ。」


そう告げるシンジの目は、何処までも冷たかった。

胃液を吐き出しながらも、ゲンドウはシンジを睨みつける。

冬月は顔を青ざめさせながら、シンジを見ていた。

だが、シンジはそれらを気にする事無く、語り始めた。


ユイが消えて自身が「先生」と呼ぶ人のところへ預けられたこと。

そこには自分の居場所は無かったこと。

2015年になって突然ゲンドウに呼ばれ、初号機に乗ることを強要されたこと。

暴走を経ての勝利。

だがそれさえも仕組まれていたこと。


黙々と語られるシンジの話を、皆口を挟めず、黙って聞いていた。

そこには、レイの秘密、エヴァの秘密、セカンドインパクトの真実など、職員には知られていないことも含まれていた。

明かされなかったネルフの暗部。

マコトやシゲル達も有る程度情報は持っていたし、ネルフが表に出せない様な事も行っていたことは知っている。

だがそれの遥かに先を行く内容を明かされ、驚きと戸惑いを隠せなかった。

シンジはそれを確認すると、満足したように口元を歪め、話を続けた。


ダミープラグの秘密、コアの秘密、ゼーレ、そしてゲンドウの目的。

アスカは弐号機の事をかなり知っていたので特別驚きはしなかったが、トウジにとっては、それは自らがネルフに居る根本を揺るがす内容だった。

妹の治療を引き換えに参号機に乗ることを承諾した。

だが、自らが参号機に乗り込んだ時は、すでに妹はコアに取り込まれていた。


「あああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」


治療の結果、助からなかったと聞かされていたトウジは、叫び声を上げながらゲンドウへ殴りかかった。

だがそれもゲンドウと同様、シンジのフィールドで止められた。


「離せっ!離さんかいっ、シンジ!!」

「気持ちは分かるけどね、もうしばらく僕の話を聞いててよ。

 それに、どっちにしろトウジの妹さんは助からなかったんだよ……」

「せやけど、せやけど……」


悔しそうに、ゲンドウ、冬月をトウジは睨みつける。

憎しみで、視線だけで人が殺せたら……

フィールドで抑えられ、動けぬトウジにとってそれは心からの欲求だった。

トウジを気の毒そうに見ていたが、シンジは話を続ける。


三人目のレイ、アスカの崩壊、そして、サードインパクト。


「やはりサードインパクトは起きたのか……

 しかし、君が仮に本当にシンジ君だったとして、どうして君がそんなところまで知っているのかね?」


ユイから敢えて目を逸らしながら、冬月が疑問を口にする。

シンジは一度顔を伏せ、足を組みなおすと軽く溜息をついた。


「ここからは長い話になります……

 まだ寝ちゃいけませんよ、ユイさん。」


次々と明らかにされる衝撃の内容に、ユイはともすれば意識を手放してしまいそうだった。

それもシンジの言葉に何とか踏み止まると、か細い声で続きを促した。


「さて、皆さんは疑問に思いませんか?サードインパクトが起きたはずなのに、世界はそのまま存在していることに。」

「そういえば、私も確か死んだはずよ?戦自に撃たれて……」

「ええ。サードインパクトの後に残ったのは、皆がLCLに溶けた紅い海が広がっていました。

 その中で僕は綾波とカヲル君に出会いました。

 何処までも自分で何処までも他人の世界。

 暖かくて心地よい世界でした。

 でもそれは僕は違うと思ったんです。

 僕は、皆が居る世界を望みました。

 ミサトさんが居て、アスカが居て、綾波が居て、父さんが居て、母さんが居る。

 そんな当たり前の世界を望んだんです。」

 
そこまで言うと、シンジは再び溜息をつき、話を再開する。


「でもそれは間違いでした。

 後で分かったんですけどね、その時僕は神様に近い存在だったようです。
 
 だから今、この世界を作ることが出来たんですけどね。

 話を戻しましょう。

 唯一残ったアスカが消えると、全ての情報が一気に僕に流れ込んできました。

 妬み、憎しみ、悪意……皆さんが隠してきたそういった負の感情も伴って。

 僕にはさっきまでの世界を望むことなんて出来ませんでしたよ。

 そんな世界で生きてなんていきたくなかった。

だからすぐに違う世界を望んだ。
 
だけど、もう流れは変えられませんでした。

 世界の流れはもう最初の願いで決まっていたんです。

 その間も世界中から悪意が僕に流れ込んできていました。

 最終的には僕は何を憎み、何に憎まれているのか、それすら分からなくなりましたよ。」

 
そう言って、シンジは再び口元を歪めた。

悪意に満ちた笑みを浮かべて。

 
「言ってみれば、今の僕は世界中の悪意の化身みたいなものですよ。

 悪意のみに塗り固められた、ね。

 でも僕にもまだ良心が残っていたんでしょうね。
 
いや、違うかな。この世界から逃げ出してしまいたかったんでしょうね。

 死ぬことも出来ない僕は、世界を構成する時のエネルギーを使って一人の人間を作りました。

 そしてその中に、ある魂を入れ、更にその肉体の中で僕の魂を休眠状態で閉じ込めました。」

「まさか、それが……」


息を飲み、目を大きく見開いてミサトはシンジを見る。

シンジもゆっくり頷くと、答えを口にした。


「そうです、ミサトさん。

 網谷レイナ。彼女は僕が作り出した人間です。

 サードインパクトで眠りに入った初号機の魂の欠片を使ってね。」























shin:ふぅ〜、何とか間に合った。

   ごすっ!!

ミナモ:何処がよっ!!本来の半分しか明らかに出来てないじゃない!

シンジ:引っ張りすぎだよね。

shin:うっ……まあ確かに引っ張りすぎたとは自分でも思うが……

   何かあっさりばらしたくなくて……

シンジ:結局今回分かったことってなんだっけ?

shin:えっと、今の世界の成り立ちの一部と、レイナの簡単な正体……

ミナモ:それだけ?

シンジ:まだまだ次回で明らかになることも多いんだよね?

shin:予定では……

ミナモ:信用できないわね。

    そもそもきちんと広げた風呂敷は畳めるんでしょうね?

shin:きっと……

























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