2016年









―――亡くした者が蘇った

そのことに喜び、その者に触れた瞬間何かが流れ込んできた。

何か―――それは触れた者の思考である。

これは何も死んでいた者に触れたときに起こるものではなかった。

世界中の人間が誰かに触れた瞬間、お互いの思考がお互いに流れ込んでいくのである。

当初、人々はこれを素晴らしいことだと歓迎した。

これは神がもたらしてくれた、もう一つの奇跡なのだと。

だが、すぐにこの考えは捨てられることになる。




人は、当たり前だが、きれいな感情だけ持っているのではない。

当然醜い、汚い―――ある意味ひどく人間的ではあるが―――感情を心のどこかに所持しているのである。

どんな人でも、きれい事だけでは生きていくことなどできない。

暗い部分を多かれ少なかれ自らのうちに隠し持っている。

普段それが表に出てしまう(これは意図してでは無く、何となくそういう雰囲気がある)ほど強い者もいれば、そういった感情の希薄な人もいる。

また、その感情が強いが、完全に自らの中に隠してしまう人も。

そして、これは後で判明したことだが、思考が伝わる範囲は人によって異なるらしいのである。

直接触れることでやっと伝わる者もいれば、数メートル離れたところにいても分かってしまう者もいた。

そして、感受性が強い―――つまり、はっきりと広い範囲で思考がわかってしまう―――人間ほど、自分の思考をより遠くへ伝えてしまうことも判明した。

人の感情を正と負に分けるならば、概ね負の感情の方が強かったりするものだ。




故に人々は恐怖した。

信頼していた隣人が実は自分を殺して金を奪おうと考えていることが分かったり、恋人が実は金目当てであったり、親友だと思っていた人が自分を嫌っていたり・・・。

無論、これは極々限られた部分に過ぎない。

たまたま喧嘩していたり、冗談で空想していたところを読み取られたりした者もいる。

それらは以前ならば極ありふれた日常の一コマだった。

何の変哲の無い、普段と変わらぬ時間。

だが、それすらも世界を変える力を持ってしまった。

自分が信じていたものが次々と失われていく恐怖に震え、世界がパニックに陥るのに時間はさほど必要ではなかった。

誰もが疑心暗鬼になり、それは国のトップも例外でなく、人を殺し、殺され、世界は混乱の一途をたどった。

もはやパニックの拡大は止まる事を知らないかのように進んでいった。

その上、更なる拍車をかけた事実が判明した。

A.Tフィールドを使える人間が現れたのである。

当然A.Tフィールドの存在を知るものはほとんど居らず、また圧倒的な力を持っていたため―――といっても普通の人間にとってだが―――この事実が人々を虐殺へと駆り立てた。

人間は異端、多数と決定的に異なる存在を嫌悪する傾向がある。

A.Tフィールドを使える人間を狩るときだけはいがみ合っていた者同士でも一致団結していた。

A.Tフィールドを使える人間は極少数であったが、さながら中世の魔女狩りのごとく徹底的に殺戮が行われた。

当然殺される側も殺されたくなど無い。

最初は突然現れた金色の壁に驚きを隠せなかったが、自分の身を守る為ゆえか、すぐにフィールドの使い方を習得していった。

それでもその数は急速に減っていった。

フィールドを使える人が使えない人間より圧倒的に少なく、集中していないとフィールドを張ることができず、その上、自分の前面にしか張れないのが大きな原因であった。



こうしてセカンドインパクト以降徐々に増加をしていた世界の人口は再び減少傾向へと変化していった。

世界が混乱に陥って一年程度が経過した頃、ようやく落ち着きをみせ始めたのである。

理由は自ら思考をブロックする術を覚えてきたから。

どうしてそのようなことが出来るようになったのかは誰も分からなかった、というよりそんなことを考えている余裕が無かったというのが真実であろう。

ともかく、一度明確な他人の「闇」の部分を知ってしまった故にすぐには落ち着くことは無かったが、種としての防衛本能でも働いたか、徐々に混乱は終息へと向かった。



だが、人々が落ち着き始めると政府内部でも落ち着きを見せ始めたのか、今度は国同士での争い、いわゆる戦争があちこちで勃発したのである。

それまで自国を治めるのに必死になっていた各国政府であったが、いち早く復興した国が新たな戦力を手に他国へ侵攻を始めた。



新たな戦力、A.Tフィールドである。

少ないとは言え、国全体を調べればそれ相応の数になる。

人により差があり、弱いもので攻撃をわずかな時間遅らせたりできるものから、強いものにいたっては銃弾を跳ね返したり、器用な者は攻撃に転じることも可能であった。

それでもミサイル等の大砲は防ぐことは不可能であったが。



自国で使えると判明したら即徴兵され、戦地へと送られる。

相手側は当初は鼻で笑っていたが、すぐに考えを大きく転換せざるを得なかった。

すぐに国中から使える者を集めて前線へと送り出す。

戦争の様相はこれまでの深夜に戦闘機で奇襲、から前世紀の大戦時のように総力戦へと変わっていった。

そうして、A.Tフィールドが使える者はますますその数を減らしていき、人類の数は更に減少していった。



国連には各国の紛争を抑える力はもはや無かった。

そこに目をつけたのがネルフ本部である。

日本政府、正確には名目上政府の傘下に入ったネルフ本部が各紛争へ介入を始めた。



日本、特にネルフ本部の周辺都市ではA.Tフィールドの存在はもはや周知の事実であり、ネルフの人間にはサードインパクトを比較的真実に近い形で理解している者もいたため、混乱は少なかった。

ネルフは直ちに戦自に停戦を申し入れ、日本政府と交渉を行った。

今後起き得る可能性をネタに政府に積極的に働きかけ、ゼーレを失った政府を相手に最終的にネルフに有利な形で停戦を勝ち取った。


交渉の後、ネルフは直ちにエヴァを回収、修復し、また、チルドレン、及び旧2−Aの生徒達を保護した。


世界が混乱に包まれている間、日本はわずかな混乱だけで済み、その間秘密裏により汎用性の高いコアの開発が行われた。

そして、紛争が始まったやや後に量産機と汎用コアの開発が終わったのである。


日本政府はかつてのアメリカと同じ道を辿っていた。

圧倒的な戦力を元に各国の紛争に介入、説得に応じなければ実力行使。

各国の紛争にエヴァという強大な戦力(内部電源だけで一時間の稼動が可能となっている)を背景に紛争を停戦に持ち込んだのである。

当然各国、特にアメリカは当事国では無かったが、日本の戦力に懸念を示して反発、当事国は日本に攻撃の矛先を向けようとした。

しかし、それが叶うことは無かった。

その前にエヴァによってその国の政府が壊滅に追い込まれたためである。

MAGIによって情報を操作し、気付かれることなくエヴァを空輸し、ほんの数分で徹底的に破壊されつくす。

仮に先にネルフに攻撃を仕掛けようとしても、また移動に気付きその隙をついて攻撃を仕掛けようとしてもネルフにエヴァが一機いれば防衛は事足りるため、ネルフに対抗する事は事実上不可能であった。



こうして世界はネルフおよび日本を中心としたネルフ支部の中心的な位置にあった国々を中心にして、2018年世界の一連の混乱は一応の終わりを告げた。

























第四話 陰りある予期



















紅い世界だった。

空は暗く、紅く、それ以上に目の前がただ、紅かった。

昼間なのに、雲一つ無いのに、何故か暗く、遠くには真白な人の顔をした像のようなものが見える。

視界を下に向ければ空の暗さとは対称なほどに白い砂浜が広がり、目下には一人の少女が真紅のプラグスーツを身にまとって横たわる。

目は虚ろで、かつては強き意志を抱いていたはずの蒼い瞳は今は濁り、何も映していなかった。

目の前に誰かがいたとしても。

その少女の白い肌の上に、ポタリポタリと何かの雫が零れ落ちる。

そっと首に添えられる右腕。

次いで添えられるもう一方。

細く、繊細な腕だったが、それは明らかに女性のものとは異なり、わずかながらに男性としての成長の跡が残っていた。

徐々に込められていく力。

わずかに少女は顔を歪ませるが、やがて、包帯で巻かれた腕をゆっくりと自分に向かって伸ばしてきた。

歪む世界。

もはや何も見えず、すべてが歪んで見えた。

その時、声が、聞こえた。


「気持ち悪い」


















レイナがうっすらと目を明けると白い光が飛び込んできた。

続いて目に入るのは真っ白い無機質な天井。


「………また、か……」


そう呟くと、ゆっくりと身を起こす。

部屋を見渡しながらここが何処で、どうしてここにいるのか思い出してみる。


(そっか……ケイジで倒れちゃったんだっけ……)


おぼろげながら意識を失う寸前のことを思い出したところで、ベッド脇でパイプ椅子に座り、船をこぐ人物を見つけた。

恐らく見舞ってくれたのだろう。

起こして自分が起きたことを知らせようかとも思ったが、気持ち良さそうにうたた寝をするのを見ていると、起こしてしまうのもなんだか申し訳ない気がする。

どうしようかレイナが迷っていると、病室のドアが開き、声が飛んできた。


「あ、目は覚めたみたいね。

 こら、鈴原!起きろ!なんでアンタが寝てんのよ!?」

「ん?おお、惣流か。何や、大きな声出して?」


アスカの罵声に対し、目を覚ましたトウジの間抜けな返事に、アスカは深い溜息をつく。


「もういいわ…

 それより、ミサトに伝えてきて。網谷さんが目を覚ましたって。」

「おお、分かった。じゃあ、その間頼むわ。」

「はいはい。」


病院にもかかわらず走って出て行ったトウジを見て、もう一度溜息をつくとレイナの方に向き直った。


「さて………

 また後ですると思うけど、簡単に自己紹介しとくわ。

網谷レイナさんね?初めまして、惣流=アスカ=ラングレーです。アスカって呼んでいいわ。」

「網谷レイナです。よろしくお願いします。」

「よろしく。

 で、さっきここでうたた寝してたバカが鈴原トウジ。

 ま、レイナの―――そう呼ばせてもらうわね?―――所属することになるチームの一応先輩になるわ。」

「ははは…分かりました。」


アスカの言い草に苦笑いを浮かべる。


「いきなり倒れたって聞いたけど、どうやら大丈夫そうね。

 全く、体調管理くらいしっかりしときなさいよ。」

「全くもって返す言葉が無いです……」

「来た早々いじめないの、アスカ。」


後ろからの声にアスカが振り向くとミサトとトウジが立っていた。


「ホンマやで。」

「別にいじめちゃいないわよ。でも早かったわね。」

「ちょうどこっちに来てたからね。

 レイナちゃん、どうかしら、具合は?」

「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました。」

「そう?

 じゃあ、早速で悪いんだけど、これから起動実験があるのよ。」


その言葉にアスカとトウジがミサトに食って掛かる。


「ちょっと!レイナはたった今目を覚ましたところなのよ!?」

「そうでっせ、ミサトさん!ここはもうちっと休ませてからの方がいいんや無いですか?」

「本当ならそうしたいところなのよね。でも結構ギュウギュウにスケジュールが詰まっちゃっててね。何とか今日中に起動だけでも済ませときたいの。一応お医者さんも異常は無い、って言ってるし。

 無理言ってホントにゴミン。」


両手を合わせて上目使いにレイナに謝るミサト。

レイナはその子供っぽい仕草に思わず笑ってしまいそうになるが、それを何とか堪えると明るくミサトに返事をする。


「大丈夫ですよ、ミサトさん。体のほうはもう全然問題ないですし、それに、予定が遅れちゃったのは私の責任ですし。」


そう言うと、レイナはベッドから飛び降りる。


「さ、ミサトさん。早く行って済ませちゃいましょう?」


笑顔でミサトを促すレイナ。

あっさりと承諾し、笑顔を浮かべるレイナにミサトも笑顔で答える。


「よし!じゃあ、行きますか!

 ………でも、とりあえずは下着つけたら?」


レイナは視線を自分の胸元に向け、次いでミサトの隣で鼻血を垂らしているトウジの方を見る。

にっこり笑うとアスカとアイコンタクトをとり、トウジに向き直る。


「Perversion(ヘンタイ!!)!!」


病室内に凶悪的な音が響き渡った。















「それでトウジ君は頬をあんなに腫らしてるんですか?」


本部実験室。

マヤはトウジの手形がついて真っ赤に腫れ上がった頬をチラッと見てミサトに尋ねる。

だがその間も手は休めず、キーボードを叩き続ける姿は前技術部長そのものである。


「ま〜ね〜。」

「フン!当たり前よ!!」


ミサトが適当に返事をするのとは対照的に、憤慨しているアスカを尻目に着々と実験準備は進んでいく。


「でも、ホントにレイナちゃんには申し訳ないですよね。」

「そうね。元々来た早々に起動させるって言うのも大変なのにね〜。大体こんなに急いで実験入れたのどこの要請よ!?」

「あ〜、ワシが伊吹くんに頼んだんだが……」


スケジュールに悪態をついていたミサトだが、その後ろから聞こえてきた声にギク、と体を強張らせる。


「ふ…副司令………」

「申し訳なくは思ってはいるのだがな。少し急ぎたい事情があってな。」

「も、申し訳ありません!!」

「なに、文句の一つも言いたくなるのが当たり前だ。甘んじて受けるよ。」


冬月に向かって頭を下げるミサトだが、冬月の言葉に頭を上げる。


「急ぎたい事情、ですか?」

「うむ。ちょっと雲行きが怪しくなってきてな。今裏付けをとっているが、またインドの方に行ってもらうことになるかもしれん。」


そう告げるとガラス越しの量産機の方へ視線を向ける。

技術部員が忙しそうに実験の準備を進めていたが、マヤのところに報告が上がる。


「実験準備、全て完了致しました。」

「分かりました。

 レイナちゃん、準備はいいかしら?」


報告を受け、マヤはモニターに映し出されたプラグ内のレイナに確認を取る。

レイナは顔を伏せ、目を閉じていたが、ゆっくりと顔を上げる。


「大丈夫です…問題ありません。」

(ん?)


モニターに映るそのレイナの顔を見たとき、アスカは何か引っかかりを感じた。


「?どうしたの、アスカ?」

「いや、何かアイツの顔が誰かに似てるような気がするのよね。」


ミサトにそう答えながら、アスカはじっとモニター越しのレイナの顔を見つめる。

そう、誰かに似ている。

それも一人では無く、二人に似ている。

それは分かるのだ。

でも誰と誰に似てるのか、それが喉元まで出掛かっていながらも分からないのだ。

う〜ん、と頭をひねるアスカだが、どうしても出てこない。

そうしているうちにモニターからレイナの姿は消え、実験がスタートした。


「脳波異常無し。脈拍が若干高いですが、許容範囲内です。」

「緊張してるでしょうし、それくらいはしょうがないですね。」

「A10神経接続完了。双方向回線開きます。」

「了解。ステージを第二ステージに移行。シンクロスタート。」

「起動まで後0.8、0.6、0.4、0.3、0.2……」


一同が固唾を呑んで見守る。

何度やってもこの瞬間は緊張するものだ。

どんなに練度をあげても100%起動が成功するとは限らない。

だから起動が成功した瞬間、誰もの口から安堵の溜息が零れ落ちた。


「実験成功。エヴァ七号機起動完了。」

「無事成功したみたいね。シンクロ率は?」


そう、上層部にとってそれが何より気になるところだ。

ミサトが乗り出すように技術部員に尋ねる。


「シンクロ率……っ!……12.8%です……!」


読み上げられたシンクロ率にミサトもマヤも、そしてアスカやトウジでさえも耳を疑った。

アスカとトウジの他に新たに二人が過去選出されたが、二人ともこのレイナの数字よりはるかに高い数字を示した。

少なくとも起動指数ギリギリ、ということは無い。


「……その数字に間違いは無いの?」

「はい、間違いありません。若干の誤差はあるかもしれませんが、それでもせいぜい13〜14%程度かと。」


ミサトが一応の確認をしてみるが、返ってきた答えは予想とは何ら違いのあるものでは無かった。


「………どういうことかしら?人選を間違えたのかしら?」

「分かりません。でもこれまでは例外無く、強いA.Tフィールドを張れる子供がシンクロ率でも高い数字を示しています。これはアスカやトウジ君にも言えることです。」

「ということは、初めての例外になるのかしら?」

「とりあえず、レイナちゃんのパーソナルデータに合わせて調整してみます。」

「レイナがA.Tフィールドを張れない、もしくは張れても弱いとか、そういうことなんじゃないの?

 実際にミサトもマヤもレイナがA.Tフィールド張るところを見たことがあるわけじゃないんでしょ?」


ミサトとマヤが原因を予想してみるが、そこにアスカが口を挟む。


「アスカの言う通り、実際にこの目で見たわけじゃないわ。

 でも、レイナちゃんがフィールドを展開できる奴らをことごとく潰してるのは事実だわ。」

「へえ、あいつそないに強いんでっか?」

「ええ、恐らく。体術の方もアスカと互角かも知れないわ。」

「とてもそんな風には見えないけどねぇ……」


そう言って、アスカはエヴァの方に視線を向ける。

かつての量産機とはデザインが一新され、それぞれの機体にはカラーリングが施されているが、レイナの乗る七号機はまだ塗装はされておらず、元の純白のままである。

それが嫌悪感を起こさせるのか、アスカはすぐに視線を外した。


「ともかく、今日はここまでにしましょう。レイナちゃんも無理させちゃいけませんし。」

「そうね。今日は後はここの施設の案内と、主要なメンバーの紹介だけして休んでもらいましょう。他の子たちももうすぐ帰ってくるでしょうしね。」


















NEON GENESIS EVANGELION



EPISODE 4




Unpredictable



















「たっだいま〜。」

「………ただいま帰りました。」


両極的とも言える挨拶をしながら作戦室内に入ってきた二人の少年と少女をミサト達が笑顔で出迎える。


「お疲れ様。日向君は?」

「日向さんならもうすぐここに来ると思うよ〜。」

「もう来てるよ。」


少年が返事をするとほぼ同時にその後ろから声がかかる。

マコトはいくつかの書類をミサトに手渡しながら帰還の報告をする。


「お疲れ様。どうだった?」

「特に何もありませんよ。到着した途端に抵抗をやめちゃいましたからね。無駄な血が流れなくて何よりですよ。」

「その分俺らは退屈だったけどね。」

「…何も起こらないのは何より喜ばしいこと。」

「分かってるって。でも退屈だったのは事実だからしょうがないじゃないか。」

「はーいはい。そこまでにね。」


二人の言い合いが始まりそうだったが、ミサトが手を叩きながら割って入る。

陰と陽と言えなくも無い二人だが、こう言った小さなことから言い合いになることは珍しくない。

もっとも、二人ともそれを楽しんでる節もあるのだが。


「それで、中東から戻ってきた早々俺らを呼び出した理由は?」

「わしらの仲間に入った奴がおるんや。」

「それでお互いの紹介、ですね。」

「そゆこと♪

 もうすぐシャワー浴びて来るはずだから。」

「へえ、男?それとも女の子?」

「女の子よ。それも飛びっきりの。」


ミサトからそれを聞き、男の子の方が小さくガッツポーズを取る。


「何せここにいる女はこの二人だけだもんな。」

「あら?それはどういう意味かしら?じっくり聞かせてもらおうじゃない。」


アスカが手の骨を鳴らしながら少年の方に歩み寄る。

少年は笑顔で迫り来るアスカに冷や汗を垂らしながら、慌ててフォローを口にした。


「い、いや、元気な女の子もいいけど、お淑やかな子もいいかな〜、なんて……」

「あら、残念ね〜。新しい子は多分アスカと同じくらい強いわよ。」


ミサトのその言葉に男の子はガックリと肩を落とす。

少女の方はそんな少年の様子を見て


「………バカばっか……」




プシュ


「すいません、お待たせしました。」


扉が開いてレイナが駆け込んできた。


「いや、大丈夫よ。今みんなそろったとこだから。

 じゃあ、紹介を始めましょうか。」


ミサトの言葉に少年が真っ先に手を上げた。


「よし、なら俺から。

 大木コウヘイ、14歳。中3です。趣味は体を動かすことです。」

「嘘おっしゃい。アンタの趣味はナンパでしょ?」


自己紹介を始めた途端にアスカが茶化し、作戦室内が笑いに包まれる。


「な!バカ!そんなことこんなとこで言うなよ!!」

「はいはい。次は?」


コウヘイの抗議をミサトは軽く流し、次を促す。

すると今度は先ほどコウヘイと口論になりかけた少女が手を上げる。


「柳井アカリ。16歳。以上です。」


あまりに簡潔な自己紹介にレイナが目をパチクリさせていると、アスカの噛み殺した笑い声が聞こえてきた。


「相変わらずねぇ、アンタは。私達の時と自分の歳以外全く変わってないじゃない。」

「名前さえ分かれば十分ですから。」

「ま、否定しないけどね。

 ついでだから次は私がするわ。と言ってももうレイナには済ませてんだけどね。

 惣流=アスカ=ラングレー、誕生日が12月だからまだ17だけど、学年で言えば高3になるわ。高校には行ってないけどね。」

「お前は別にいいやろ。すでに大学卒業しとんのやから。

 あっと、ワイは鈴原トウジ。第壱高校の高3や。こいつとはもう5年の付き合いになる腐れ縁や。」


その後も主に関わるであろうメンバーが次々自己紹介をしていき、レイナの自己紹介の後にミサトが締めた。


「以上がレイナちゃんの仲間になるわ。細かいことを言えば、レイナちゃんは作戦部所属となります。

 後、気を悪くしないでね。レイナちゃんにはここでの事に関してあらゆる事に守秘義務が生じ、常にレイナちゃんに護衛が付くわ。理解してちょうだい。」

「ええ、分かっています。しょうがないですよね。」


そう言ってレイナは笑った。

他のメンバーが流す中、アスカだけは何か違和感を覚えた。

まだ出会って数時間しか経っていないし、当然そんなあまりにも短い時間でレイナのことを分かるとは思えない。

でも、病室で見せた笑顔とは何か違う気がする。

「しょうがない」と言った時のあの笑顔は………


「……カ、アスカ。」


ミサトに肩を揺すられ、そこでようやくアスカは呼ばれているのに気が付いた。


「ん、何?」

「何、じゃないわよ。レイナちゃんにこの後ここを案内してほしいのよ。

 レイナちゃんにはもう何日か泊まってもらうことになるから最後に個室に案内してあげて。」

「ああ、別にいいわよ、それくらい。」

「レイナちゃんには、はい、これ。」


言いながらミサトはレイナに一枚のカードを手渡した。

カードにはレイナの写真が貼り付けられている。


「これがIDカードになるわ。これがあれば大体のところには行けるから。失くさないようにね。」

「はい。」

「今日はこれで終わりだから、案内された後は自由よ。そのIDで入れるところは自由に使っていいわ。

 でも、後で色々書類が行くと思うから、それには目を通しておいて。」

「分かりました。」


レイナが了承の意を伝えると、ミサトが解散を告げ、皆それぞれの仕事に戻っていった。

レイナもアスカに連れられて部屋を後にする。

マコトも先ほどの仕事の報告書を書くため、自分の部屋に戻ろうとしたが、そこをミサトに呼び止められた。


「日向君、報告書書いたら、私の部屋に来てくれる?」


報告書を書いたらそれをミサトに提出するのはいつものことだ。

にもかかわらず、わざわざそれを言いに来る、ということは何か他の用件があるということだ。


「了解です。すぐに書き上げてそちらに行きますよ。」









「ここが食堂。食券を買わなきゃいけないんだけど、さっきもらったIDを機械に通せば、それで買えるわ。

 代金は給料から天引きされるから。」

「はぁ、便利ですねぇ。」

「んで、そこを右に曲がってまっすぐ行くと、ちっさいジムみたいなところがあるわ。

 機材も少ないし、大した事できないけどね。ま、ダイエットくらいは出来るんじゃない?アンタは別に必要ないでしょうけど。」

「必要なのはミサトさんですね。」

「確かに。ミサトももう34だもんね。いい加減腹も出てきてんじゃない?」


二人で談笑しながら食堂を出て行く。


「そういえば、アンタ格闘技出来るんだって?」

「いや、そんな、出来るなんてもんじゃ無いですよ。」

「その内一回手合わせしてみたいわね。」

「そんなぁ…惣流さんには敵わないですよぉ………」

「なんつー情けない声出してんのよ、アンタは!
 
 それにアタシのことはアスカって呼べって言ったでしょ!さらに!何でアンタアタシにまで敬語なのよ!?」

「注文の多い人だなぁ。」

「何か言った!?」

「いーえ、何も。アスカ。これでいいでしょう?」


幾分投げやりに言うレイナだが、アスカは満足そうにうなづく。


(なーんかこいつにアスカって呼ばれるとしっくり来るのよね………)


何故かは分からない。

恐らく、レイナが似ている誰かに関係しているのだろう。

その誰かが未だに出てこないのが癪に障るのだが。


「アスカ。早く私の部屋に案内してよぉ。」


レイナの呼ぶ声に、アスカはそこで考えるのを止めた。

案内の途中だったのがすっかり忘れかけていた。


(ま、その内分かるでしょ。)


とりあえず問題を棚上げしてレイナの個室に案内するべく、アスカはレイナの前に立って案内を再開した。
















同時刻

本部内の長い廊下を二つの影が並んで歩いている。


「葛城さん、何処行くんですか?」




光速で報告書を書き上げ、マコトがミサトの執務室にそれを持って入る。

ミサトは椅子に座ってマコトを待っていたらしいが、部屋に入ると腰を上げた。


「日向君、ちょっと付いて来て。」


マコトにそう一言告げ、すぐに部屋から出て行く。

マコトの方も他に用件があるのは分かっていたことなので黙ってミサトに従う。

とは言え、どこに向かうのか位は教えてほしいところだ。


「葛城さん、何処行くんですか?」

「ん?言ってなかったわね。司令室よ。」

「何故僕も?」


司令室には基本的には佐官以上しか入れない。

以前ミサトは尉官で入っていたが、あの時は作戦課長として権限が与えられていた。

だからほとんどマコトにとって縁のない場所であるので、マコトの疑問も尤もなことである。


「ま、副司令直々のお呼び出しだから。それに日向君が入っても別におかしくは無いわよ?」

「そうですかねぇ………」


気乗りしないのも分からないでも無い。

かつては瘴気が満ちて、息が詰まりそうな部屋だった。

今は違った意味で呼吸が止まりそうな一室と化しているのだから………



「葛城です。」

「うむ。入りたまえ。」

「失礼します。」


冬月に招かれ、以前よりはるかに明るくなった司令室に入っていく。

相変わらず無駄に広い部屋の奥に掌を組んでゲンドウが待っており、その隣のソファにはユイが座って二人を待っていた。


「作戦部、葛城二佐及び日向一尉、参りました。」

「ごめんなさいね。忙しいところ呼び出しちゃったりして。」

「いえ、ちょうどキリのいいところでしたので。」

「日向一尉、報告を始めたまえ。」


ユイの言葉を遮るようにゲンドウは報告を促す。

マコトもここに来て何故自分がここに呼ばれたのかを悟り、先ほど書き上げたばかりの報告書を片手に報告を始める。


「はい。イラクで起きたクーデターに端を発した内戦ですが、エヴァンゲリオン五号機、六号機を用いて両陣営中心を制圧。以後国連軍治安維持部隊に指揮権を移行いたしました。

 現在は軍事政権が崩壊し、民政に移る見通しです。しかし………」

「何か気になることがあるのだろう?構わんから言いたまえ。」

「はい。

 実は、予想された攻撃ですが、全くと言ってよいほどありませんでした。」

「こちらの姿を見つけて戦意喪失、という簡単な話じゃなさそうね。」

「ええ、その上、両陣営の首脳と思われる人物の姿も見られませんでした。」

「つまりは………」

「こちらの情報が漏れているということだ。」


サングラス越しにゲンドウは苦々しく口を開いた。

次いで、ユイがマコトに問いかける。


「双方のアジトから何か見つかったのかしら?」

「いえ、一般的な武器以外、それらしいものは発見できませんでした。

 ですが、隅から隅までこちらで調べたわけではありませんので正確には……」

「確信はありませんが、恐らく奴らは何らかの兵器を持っていたのでしょう。

 だが、何らかの理由でそれを使用できなかった。

 そして、双方ともトップがいないとなると………」


思考をまとめるようにミサトが呟き、そしてゲンドウの方を見る。


「ああ、それらを手引きした奴がいる。」


その時のゲンドウの顔には先ほど以上の苦渋の色が見え隠れしていた。






















shin:もうすっかり秋だなぁ……

シンジ:そうだね。

shin:いつの間にか夏が終わってたよ………

シンジ:前回の更新、いつだっけ?

shin:………一ヶ月以上前

ミナモ:已むを得ない、とは言え、大分皆さんに迷惑かけたからねぇ。

shin:分かってるよ。色々ゴタゴタしてたけど、やっと落ち着いたし、また以前のように更新していくさ。




















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