西暦2019年



世界はようやく復興の兆しを見せ始めていた。

2016年に起こったサードインパクト。それにより全ての生命が失われたはずであった。

失われた、というのは少し違うだろう。

全ての命が一つに溶け合い、他人と自分との境界がなくなった世界だったのだから。

諍いの全くない、傷つけ合う事もない、甘美な世界。

だが、人々は気が付けば以前いた場所に横たわっていた。

まるで、世界を逆回ししたかのように、人々が消えるその瞬間の状態に。

何が起こったかはわからない。


一部の人間を除いては


―――自分は夢を見ていたのだろうか?

覚えていないが心地よい世界にいた気がする。
世界中の誰もがそう思った。胸に一抹の寂しさを感じながら。

しかし、自分の周囲を気にする余裕が生まれるとすぐに何かが起こったのだと気付くことになる。


原因は三つあった。


一つ目は物に時間の経過の後が見られることである。

建物の中はあたかも何年間も使われていなかったかのように大量の埃がたまり、機械類は全て停止して相当の時間が経っているようであった。

機械類の停止した原因は至極単純で、ただ単に電気の供給が止まったから。

発電所が再び操業を開始して、止まっていた機械に電気が再供給され始めた時、何故か日付の表示はどれも一年以上進んでいた。

それらの状況をあわせて考えてみると、人類全体が長きに渡り意識を失っていたのは明白であったが、誰もそのことに気が付かない。

どうして誰が人類全体が同じように意識を失っていたなどと想像できようか?

不思議なことに食物の類は全く腐敗の跡が見られなかった。生ものに関しても同様である。

それでも、だ。

しかし、先進各国首脳―――特に日本政府は真っ先にそれに思い至ることとなる。





二つ目は死んだはずの人間が生きていたことである。

寿命や、死後一日以上経った人間はそのままだったものの、死して数時間以内のものは何事もなかったかのように生きていた。

怪我をしていた者は癒え、病気だった者は完治した状態で。

本来ならばありえないことであるが、そんな事はその者の帰還を切望していたものにとっては些細なことに過ぎない。



これは神が用意してくれた奇跡なのだ



宗教などどうでも良い。

皆歓喜してその者に近づこうとした。




そこで第三の原因が出てくるのである。



















第参話 噛み合い始める歯車

















カランカラン………


「いらっしゃい。」


雨の日にしては珍しく、本日二人目の来客にトオルは挨拶をする。

見た目には普段通りのトオルである。

トオル自身も普段と相違ない対応をしたつもりであるし、普通の客であるならば何も気付かないだろう。

だが、長いことこの店に通っている常連客や、レイナならば気付いたかもしれない。

トオルの放つ空気に剣呑なものが微量に混ざっていたことに。

勿論そんなことは初めてホーリーブレストに入ったミサトが気付くはずも無い。

店内に入ったミサトは店内を一通り見回して、入り口から最も離れた壁際のボックス席に陣取った。

カウンターから離れたその席に注文を取りに行くのは多少面倒だったが、他に客もいない以上、何処に席を取ろうとそのお客の自由である。

ミサトのところまでカウンターを出て近づき、出来る限りニコヤカに注文を尋ねる。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ん〜……コーヒーの種類って良く分かんないから、何かお勧めをお願い。」

「かしこまりました。」


トオルとしてはこういった注文が一番困るのだが、今までこういう客がいなかった訳でもない。

それにミサトが純粋にコーヒーを楽しみに来たわけでは無いのは最初から分かっていた。

コーヒーを店の奥で入れながら、トオルは溜息を禁じえない。

本来ならばこういう日に客が来たことに喜ぶべきなのだろうが、如何せん、来た客が悪かった。

先ほどから「うるさい」のだ。

それでもまだ明るいうるささならば我慢も出来るのだが、先ほどからトオルの「中」に入り込んでくるのは溜息と暗い考えばかりなのだ。

つられてトオルの口からも溜息が洩れ出るのも仕方ないことか。

だが、相手が相当悩んでいるのも分かるのだ。

やりたくは無い仕事なのだが、やらざるを得ない。

だからいつもならトオルが口を挟むことは無いのだが、用のある相手がレイナとなると話は別だ。

それに加えて今日が雨であったことも原因の一つかもしれない。

コーヒーを持ってミサトの席へ運ぶ。


「お待たせいたしました。」

「え?ああ、どうも。」

「……レイナに用ですね?」


その言葉と同時にミサトがトオルに素早く向き直り、店内に緊張が走る。


「……どうしてそのことを?」

「貴女の声はうるさすぎるんですよ、先ほどから。」

「そんな………!!こっちでガードしてるはずなのに…!?」


驚きを露にしてミサトはトオルの顔を見つめる。

警戒して睨みつけるミサトだが、トオルはそれを無視して続ける。


「難儀な力でして、雨の日は勝手に周りの声が私に聞こえるんです。表面的なものだけですがね。

 本来ならこうしてお客様のことに口を出すべきではないのでしょうが、どうもレイナに関することのようなので。

 それにレイナにとっても、私にとってもあまり面白く無さそうな話のようですしね。」


コトリ、とテーブルにカップを置く音だけが響く。



皆が目を覚ますと多くの者が「声」を聞くことが出来る様になっていた。

喜びの声、悲しみの声、妬みの声。

様々な声が自分の中を満たしていった。

その後、短くは無い時間をかけて人類はそれらの制御の術を手にしていく。



「どうも貴方には全て筒抜けのようね。」

「それだけ、貴女の中で葛藤が大きい、ということですよ。」


三つ目のカップをテーブルの上に置くとトオルはその場を離れ、入り口の方へ足を運ぶ。

つい先ほど掛け直した「OPEN」のボードを「CLOSED」に再び掛け直すとミサトの正面の席に腰を下ろした。


「これで他のお客が来ることはありません。安心して話せます。」

「お気遣い、感謝します。」

「構いません。どうせこんな日は他にまともな客なんて来ませんから。」


そして自分の入れたコーヒーに口をつける。

ミサトもつられるように目の前に置かれたコーヒーを口に運ぶ。

熱すぎず、仄かないい香りがミサトの鼻腔をくすぐり、やや冷えていた体を芯の方から暖めた。


「美味しい……」

「もうすぐアイツも帰ってくるでしょうから、それまでに気持ちを落ち着けていて下さい。」

「……止めないのですか?」


何を、とは口に出さない。

すでにお互いの中で十分に話す内容は伝わっているのだから。


「さっきまではそのつもりでしたがね。どうも私も少々イラついていたようです。恐らくはレイナを傷つけることになるでしょうから。

 ですが、どうするかはアイツが決めることです。そのことを理解したうえでアイツがもし乗る、と決めたのなら私はアイツを支えていくだけですよ。父親として。」


そう言うと、ニッカ、と歯を出して笑うトオル。

トオルとレイナ。

30歳と17歳の二人が血がつながっていないことはネルフの調査以前に明白である。

それでもトオルは父親、と言い切った。

かつて自分を庇って逝ってしまった父親。

決して短くは無い年月は自らの中の記憶像をも風化させていく。

それでも自分が幼い頃に見ていた父親の姿を何故かミサトに思い起こさせた。



「ただいま。」


その声でミサトは我に返る。

どうも物思いに沈み込みすぎていたらしい。

いつの間にか心の内に溜め込んでいた不安も苛立ちも全てが霧が晴れるように消えていたが、ミサトがそのことに気付くのは店を出た後であった。


「ああ、お帰り。」

「お帰りじゃないよ。何店も開けずに…てあら、お客さん?」

「そう、お前にな。」

「私に?」


店を出る前とは異なり、纏う黒衣装とはアンバランスに明るく振舞うレイナ。

裏口から入ってきたため、トオルの正面に座っている客の顔は見えない。

トオルとの関係を微妙に疑いつつも、自分に用があるとの事で、相手の正面に座って改めて女性客の顔を見る。

そこでレイナの表情が変わった。

変わった、というのとは少し違うかもしれない。

カズキと仕事を終えた後というのはレイナは殊更に笑顔で店に帰ってくる。

つい先ほども普段以上の笑顔で帰ってきたのだが、ミサトの顔を見た瞬間、レイナの顔から全ての表情が消えた。

感情に富んでいた目は濁り、嬉しそうに開いていた愛らしい唇は真一文字に。

豹変したレイナにミサトは驚いたものの、話を進めるべく姿勢を正す。

早速本題に入ろうとしたが、先ほどのことに思い至り、先にトオルに確認する。


「すみません、えっと、彼女は……?」


歯切れの悪いミサトだったが、トオルには十分に伝わったらしく、小さく頭を横に振る。


「ああ、レイナは聞こえませんよ。

 …と、そういえばお互い自己紹介がまだでしたね。

 私は高屋トオルです。こっちは娘の網谷レイナ。まあ、貴女には紹介は不要かもしれませんが一応。」

「初めまして。ネルフ本部作戦部作戦部長葛城ミサトです。

 よろしくね、レイナちゃん。」


最後はわざと崩した挨拶をし、笑顔でミサトは手を差し出すが、レイナは無表情のまま黙って手を握り返す。


(あっちゃ〜、これはダメかしら〜?)


傍目からどう見てもコミュニケーションが順調には見えない。

内心でミサトは頭を抱えたが、そんなことはおくびにも出さず本題に入る。


「…では、本題に入らせていただきますね?

 なお、これから話すことは極秘事項に当り、お二人には口外しない義務が生じます。

 と言っても、何も特別なことをする必要はありません。ただ他の人に言わなければいいだけですので肩の力を抜いて聞いてくださっても大丈夫ですので。」


言葉の途中でレイナの肩がわずかに揺れたのを見て、ミサトは安心させるべく補足を入れたが、レイナの表情は変わらない。


「ネルフは現在積極的に各国の内戦・紛争に介入しております。

 これは戦争によって尊い命が失われるのを少しでも減らそうとの考えからです。このことはニュースでも報道されているのでご存知のことと思います。」


確認するように二人の顔を見回すとレイナは依然変わらないが、トオルは小さく頷き、続きを促す。


「その原動力たるのが我々の保有するエヴァンゲリオンですが、つい先日新たに一機が完成いたしました。

 それに伴い、新たにパイロットを選出しなければなりません。

 今日はレイナさんにそのパイロットになって頂こうとこうして参りました。」


トオルにとって最早既知の事実であり、何も面白い話では無かったが、ちょうどいい機会だと思い、質問をぶつけてみる。

それが相手にとって辛い質問だとは知っていたが、こちらも娘が関わっているのだからと割り切って訪ねる。


「………どうして子供達がパイロットなのですか?」

「……エヴァンゲリオンはパイロットを選びます。以前よりは選出の幅は広がりましたが、それでも大人では起動できません。出来るなら私達が乗るのが良いのでしょうが…」

「そうですか………」


顔を曇らせてそう答えるミサトに、トオルは短く返事を返すとそれきり黙る。

微妙に気まずい空気が流れる中、レイナが初めて口を開いた。


「……分かりました。私でよければお手伝いさせていただきます。」


静かにそう答えるレイナだったが、この言葉にはミサトだけでは無く、トオルも驚いてレイナを見る。


「…いいのか?」

「ええ、構わないわ。建前はどうあれ、やってることは素晴らしいことよ?

 それに……拒否権は無いでしょうしね。」


途中はともかく、最後の言葉にミサトは反発しようとしたが、それが音となって出てくることは無かった。

折角やる気になってくれているのに、それをそぐようなことはする必要は無い。


「それで、私はどうすればいいんでしょうか?」

「え?ええ、これからネルフ本部に行って試験を受けてもらうんだけど、しばらくは泊り込みになると思うからその準備をお願い。

「分かりました。では失礼して、準備してきますのでその間コーヒーでも飲んで待っていてください。」


二人にそう告げると、席を立って、奥の自宅の方へ向かうレイナ。

それをトオルは慌てて止める。


「何?」

「ちょっと来い。」


怪訝そうなレイナをよそにミサトに軽く会釈して、トオルも席を離れる。

店の奥にレイナを連れてくると真剣なまなざしでトオルはレイナに問い直す。


「本当にいいのか?」

「何よ?私がOKしたのがそんなに意外?」

「いや、普段のお前だったらそうでもないんだが、今日のお前はなんだがいつもと違ったからな。」

「…そうね、確かにそう見えたかもしれないね。でもそれはあの人―――葛城さんが苦手だったから………」

「お前、あの人と知り合いだったのか?でも葛城さんの様子じゃあ…」

「ううん、私が一方的に知ってるだけ。多分あの人は資料以上のことは私のことは知らないと思う。」

「じゃあなんで………」

「ゴメン、それ以上は聞かないで…」


いつの間にか戻ってきた表情で、今度は辛そうに話すレイナにトオルはそれ以上の追求を諦めた。

恐らくはレイナが語らない自分と出会う前と関係しているのだろう。

そう結論付けると、トオルは頭をバリバリとかきむしると、レイナを解放した。


「そうか。悪かったな。じゃあ早いとこ準備して来い。その間俺が葛城さんの相手してるから。」

「うん。よろしくね。」


重くなりかけた空気を吹き飛ばすようにレイナは明るくトオルに声を掛けると部屋の奥へ消えていった。

それを見送ると軽く溜息をつき、ミサトのいる席へと戻って声を掛ける。


「コーヒーのお代わりはいかがですか?」

















NEON GENESIS EVANGELION



EPISODE 3




PROT TYPE



















トオルがコーヒーのお代わりを出してきた理由をミサトは痛いほど感じていた。

美味しい上に何種類も出してくるので飽きることは無かったものの、すでにミサトの胃の中はコーヒー色に染まっているだろう。

たっぷり2時間待たされた待たされ、ミサトもイライラしてきたころ、ようやく奥からレイナが姿を現した。


「ごめんなさいね。待たせちゃいまして。」


あまり悪びれた様子も無く謝るレイナだが、その両手には大きな鞄が握られていた。

こめかみの辺りをヒクヒクさせながらミサトはその大きな荷物を眺めているが、トオルはそれを笑いながら見ている。


「……いつもこうなんですか?」

「ええ、どこか泊まりで出かけるときは大体こうですよ?」

「………」


目の前に積まれた荷物を意識的に視界の外に追いやりながらミサトは声を掛ける。


「じゃ、じゃあそろそろ行きましょうか?」

「ええ、お願いします。葛城さん。」


すでにミサトに対してもいつもと同じように笑顔を振りまくレイナ。

初めてちゃんと見るその姿にミサトは気圧されながらも、先ほどの苛立ちも消えていった。








ミサトの運転する車に揺られること十数分。

途中レイナが鞄ごと後部座席で右へ左へ転げまわる場面もあったが、無事第三新東京市中心部にたどり着いた。

カートレインのわずかな振動が伝わり、運転から解放されたミサトは疑問をレイナに問いかけてみた。


「レイナちゃん、ちょっといいかしら?」

「なんでしょう、葛城さん?」

「あっと、その前に。

 私のことはミサトでいいわ。堅苦しいの苦手だから。」

「分かりました、ミサトさん。

 これでいいですか?」


ニッコリ笑って聞き返すレイナにミサトは親指を立てる。


「OKよん♪」

「それで、なんでしょうか?」

「えっと、何でさっきはあんなに不機嫌だったのかな〜、なんて思ってね。」


明るく尋ねるミサトに、レイナは本当に申し訳無さそうに頭を下げる。


「すいません。不愉快でしたよね?ちょっと気持ちの整理が出来てなくて…」

「あ、いや、いいのよ、別に。ちょっと気になっただけだから。」

「いえ、初対面の方にとる態度じゃなかったですよね。すいませんでした。」


そう言うと、レイナは更に頭を下げるので、ミサトは話を逸らすべく一つのファイルを取り出した。


「これは?」

「アタシが所属してる組織―――ネルフのパンフレットみたいなものね。

 一通り目を通しておいてちょうだい。」

「分かりました。」

「それからこれが仮ID。本部内ではこれが出入りに必要だから失くさないでね?」

「了解です。」


カートレインが無機質な鉄の壁からガラス張りのエリアに差し掛かる。

眼下には外とはうって変わって明るい地底空間が広がりを見せていた。

レイナは窓越しに目を細めて、ピラミッド型の建物を見つめる。


「ジオフロントは初めて?」

「そうですね…。知ってはいますけど、この目で見るのは初めてですね。」

「中々のもんでしょ?」

「そう…ですね……」


歯切れの悪いレイナにミサトは怪訝な顔をするも、外に広がる景色に見入っているのだろう、と深く考えずにそこで会話は途切れた。


(ここが全ての始まりの場所、か………)


懐かしそうに、そしてどこか辛そうに眺め続けるレイナの瞳にはピラミッドの頂上のみが映っていた。














「えっとぉ………ミサトさん?」

「ん?何かしら?」

「私達、今どこへ向かってるんでしたっけ?」

「え?エヴァがあるケイジだけど?」

「じゃあ何で同じところを三度も通るんですか?」


そう言い放つとレイナは冷たくミサトを見つめた。

最初は似たような通路を通っているのだと思った。

事実、ここにはゲリラなどに占拠された時のためなのだろう、同じようであり、かつ複雑な作りになっている・・・・・


「えっと〜………」

「…迷いましたね?」

「たはは〜。バレた?」


頭をかきながら笑い飛ばすミサトにレイナは溜息をつくと、くるりと向きを変えた。


「ちょ、ちょっとぉ。そんなに怒らなくてもいいじゃない。」

「怒ってませんよ。さっきこっちって書いてましたよ。」


そう言って指差す先にはケイジの方向がはっきりと記されていた。


「あら、ホント。

 ごめんねぇ。こないだここら辺の改修工事が終わったばっかでまだアタシもどう変わったか良く覚えてなくて。」

「もういいですよ。気にしてませんから。

 ここからは分かりますか?」

「ええ、大丈夫よ。ありがと。」


そのまましばらく他愛の無い会話を交わしながら二人はケイジへと続く道を歩いていった。

だが、その間、レイナは自らの鼓動が速まるのを感じていた。

それは不安から緊張しているのだとレイナは思い込もうとした。

それでも頭のどこかでは理解していた。

ともすれば胃の中を全て吐き出してしまいそうになるほどの不快感の原因に。

















「あ、葛城さん。ちゃんとたどり着けたんですね。」


姿を見せたミサトにいきなり失礼な言葉をかけたのは去年技術部長に就任したばかりの伊吹マヤである。

以前の様な制服ではなく、私服の上にかつての技術部長が常に着ていた白衣を羽織り、最近はどこか貫禄も出てきた。

童顔の口から出てくる言葉もリツコに似てきてミサトにからかわれるのだが、逆にマヤは頬を染めて「先輩と同じなんて光栄ですぅ」とのたまうのには流石にミサトも閉口した。


「しっつれいねぇ。道くらいちゃんと分かるわよ。」

「でも、どうせ誰かに聞いたんでしょう……と、その子…ですか………?」


軽口を叩くマヤの口がミサトの後ろのレイナの姿を認めた途端、重くなる。

ミサトとしてはマヤの気持ちは分かるのだが、レイナの前であるため、誤魔化すように明るく返事を返した。


「そうよん♪

 レイナちゃん、こっちがこう見えても技術部長をしてる伊吹マヤちゃん。

 見た目は若いけどもうすぐ三十路だから。」

「何言ってるんですか!?私はまだ28です!」

「似たようなもんじゃな〜い。そこまで来たら30なんてあっという間よ?」


馬鹿を言いながらそっと横目でレイナの様子を見る。


(良かった……)


別にこちらが特別暗くなる必要は無い。

エヴァに乗ったからと言って死ぬわけでは無い。

だが、ミサトの頭からは離れなかった。

エヴァンゲリオン

福音を意味するその機体。

しかし、ミサトにはどうしてもその機体が幸せを奪っていっているとしか思えなかった。

アスカ、レイ。

そして、シンジ。

他の職員も、特にチルドレンと密接に関わっているものはそう感じているのだろう。

だからこそ、ついチルドレンに対して弱気な面をのぞかせてしまう。

それでも、チルドレンにはそんな面は見せてはならないと思う。

だからミサトは誤魔化した。

幸い、レイナにはそんな様子は伝わっていないようで、思わずミサトはホッと息を吐いた。


(いえ、幸せを奪っているのは私達ね………)


子供達も大人達もエヴァに関わってきたものは大小はあれども心に傷を持っている。

そんな暗い考えを吹き飛ばそうとミサトは一際明るい声でレイナに話しかけた。


「ま、そんなわけでこれから多分一番お世話になる人だから仲良くね。」

「レイナちゃん、これからよろしくね。」

「あ、はい。よろしくお願いします。伊吹さん。」

「私もマヤ、でいいわよ。」

「分かりました。改めてよろしくお願いします、マヤさん。」


言い直すとレイナは手を差し出してきたマヤと握手をする。

その手はしっとりと汗ばんでいたが、マヤはあまり気にも留めなかった。













ケイジの入り口からはマヤを先頭にし、改修されて広くなったケイジ内を進んでいく。

暗いケイジで足元すらはっきりと見えないが、慣れた足取りでマヤとミサトは歩いている。

その後ろでレイナははっきりと自らの体の異常を自覚していた。

全身に冷たい汗を掻き、衣服がべっとりと肌に張り付いていたが、それすらも気にする余裕が無かった。

呼吸は荒いが、足音にかき消され、少し間を置いて歩くマヤとミサトは気付かない。

はあ、はあと荒い呼吸音をかき消すようにコツコツと靴音が響く。

どれ位歩いたかは知らないが―――恐らくはそんなに歩いていないだろう―――先を歩くマヤの足が止まる。

ミサトがマヤの隣につき、レイナの方へ向き直る。


「現在稼動可能なエヴァは全部で四機。そして、つい先日新たに一機がロールアウトしたの。

 それが………。」


そこまで言ってマヤが手元にあったレバーを上げる。

大儀そうに顔を上げるレイナの目に飛び込んでくるのは新たなケイジに満たされる紅い液体。

そこに胸までつかる白銀に輝く巨体。

かつては生理的嫌悪感を感じさせたその顔は全く新たなものに改修され、二つの目を持ち、口元は完全に拘束具で覆われている。

だが、そのフォルムはレイナの目にあの時の光景を映し出させた。





切り飛ばされる頭

切り飛ばされる腕

へし折られる胴体

切り裂かれる顔

再生する骨

復元する肉

立ち上がる白いからだ

ニヤリと哂い、歪む口元






そして………






「詳しいことは後で説明するけど、これがレイナちゃんの…って、レイナちゃん!?大丈夫!?」


マヤと入れ替わって説明していたミサトだが、ここでようやくレイナの異変に気付いた。

レイナはミサトの呼びかけに答えず、ただ下を向いている。

顔は青ざめ、ともすれば倒れそうな体を細い足でかろうじて支える。



気が遠くなりそうな中、レイナの視界は暗闇に閉ざされようとしていた。

そんな中、かすかな物音がわずかに聞こえる。

誰かが遠くで叫んでいる。

どこかで聞いたことのあるような声。

だけども、声は小さすぎてよく聞き取れない。

だからレイナはその人に届くように必死に呼びかけた。

あらん限りの声で。



「アスカ………」


意識を失う寸前に小さな口から零れ落ちたのはそれだけだった。

その時、地下で永い眠りにつく巨人の胸がかすかに光ったことに当然ながら誰も気付くことは無かった。



















shin:何とか無事に第参話を書き上げることが出来ました。

ミナモ:ホント危なかったわね。

    データが無事でよかったわ。

シンジ:一旦データが消えちゃうとやる気の面でも大きなマイナスだもんね。

shin:いや、あの時は本気で焦った

ミナモ:ま、これに懲りたら今度からこまめにバックアップを取ることね。

シンジ:そうだね

shin:今回のことで思い知ったよ。

   運が良かったからいいものの、最悪の場合下手したらHPの運営すら危うかったかもしれん。

シンジ:今回の話に戻るけど、結局レイナって何者?

ミナモ:話を読んだ限りではTS物な感じがするんだけど……

shin:詳しいことは前回も言ったように明かせないんだが、単なるTSじゃ無いことだけは言っておこう。

ミナモ:ってことはレイナはシンジじゃないってこと?

shin:さあ、どうだろうな?























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