かつては一種の瘴気とも呼べる物が立ち込めていた部屋だった。

薄暗い部屋にそこの主人の背後から光が差し込み、その人物の表情、仕草といったものを全て覆い隠していた。

狂気に支配された彼をその部屋が十二分に表していたと言ってもいいだろう。

天井には以前はセフィロトが描かれ、暗い部屋には不気味な空気をかもし出していた。

だが今はその絵は塗り潰され、部屋は明るく灯りが灯されており、かつての面影など何処にも残していない。

いや、いくつか以前と変わらぬものがあった。

前と変わらぬ位置に鎮座し続ける、良質の素材で作られた机と、そこに座し続ける人物である。

碇ゲンドウはかつては薄暗かった部屋の中に変わらぬ姿のままで鎮座していた。

部屋の様子がすっかり変わったのは彼の心変わりの所為では無い。

多少は彼の内が変わったとは言え、それで今までの部屋を全く新たにしようなどと考えはしない。

部屋の様子を正しく描写しよう。

ほとんど何も無かった部屋には明るい色のソファーや、本棚が追加され、少女趣味とも言えるかわいらしいぬいぐるみの類が所狭しと並べられていた。

挙句の果てには昔懐かしいアイドルのポスターまで貼られていた。

前日までは無かったあまりにも部屋の持ち主にそぐわない物に報告のために訪れた職員が盛大に引きつり、ゲンドウに睨まれる、といった一幕があったのは言うまでもない。

その人物はゲンドウが黙々と書類を片付けている机から少し離れたところで冬月と将棋を指していた。


「ふふ、これで詰み、ですわ。冬月先生。」

「・・・また負け、か・・・。これで10連敗だ。そろそろ勝ちが恋しくなってくるよ。」

「あら、今回は私も大分危なかったですよ。でもあの二八成桂のおかげで助かりました。」


仕事そっちのけで将棋に興じる冬月とユイ。

それをゲンドウはジト目で見つめていた。






















第弐話 途切れた時間























2016年


















ユイが発見されたのはジオフロント内にある湖のほとりだった。

何もつけていない状態で見つかったが、外傷などは何処にも無く、すぐさま発見した職員によって本部施設内の病院へと運ばれた。

運ばれた当初は精密検査の結果、何処にも異常が無いことからすぐに目を覚ますだろうと思われた。

しかし、見通しに反してユイは発見されてから一年近く眠り続けることとなる。



ユイ発見の報を受けてゲンドウはすぐさま収容された病院へと走った。

ゲンドウの長年の夢が叶ったのである。髭面でニヤニヤしながら走る姿は病院内の全ての人間に戦慄を与えたのだが。

病室でユイの姿を見つけたときは思わず駆け寄って抱きしめようとしたのだが、まだ意識が戻っていないとのことで担当の医師に慌てて止められる一幕もあった。

毎日忙しい合間をぬって病室に顔を出し、目覚める日を今か今かと待ち続けたがユイが目覚める日はなかなか訪れなかった。

そうして、いつの間にか一年近くの月日が経っていた。





「すまなかった。」

リツコの研究室を訪ねたゲンドウの第一声はこれであった。

これには流石のリツコも二度びっくりすることとなった。

一つはゲンドウが呼び出すのではなく、自ら自分の場所まで出向いたこと。

もう一つは何の説明も無く、部屋に入ってくるや否や突然謝罪の言葉とともに頭を下げたことである。

リツコはその様子に呆気に取られていたが、すぐにゲンドウの言わんとすることを察した。


つまり、自分との関係を断ち切ろうとしているのだろう。


ユイが発見されたとの報告は当然ながらリツコにまですぐに伝わった。

それとともにこういう時が来る事を予想することはそう難しいことではない。

むしろ、発見されてから2ヶ月。

その間こういった話が出てこなかった方がリツコにとって不思議だった。


……多分、そんな余裕が無かっただけね………


こういう状況なのに、意外なほど冷静に背景を予想している自分にも驚きだが、すでにリツコの中にはゲンドウに対する思いは残っていなかった。

憎しみさえも。

記憶に残っている最後の時、リツコはゲンドウの凶弾に倒れた。

薄れ行く意識の中、リツコは確かに憎しみを抱いた。


許さない!許さない!あの男も、母さんも!!


だが、気が付けば自分は最期の場所であるドグマ内の地底湖に浮かんでおり、撃たれたはずの胸には傷跡すらも残っていなかった。

そして何より、憎しみを抱いたことは覚えているのにその感情自体がかすかにしか残っていないのである。

だからと言って再び以前の様な感情は抱けはしないが。


リツコは恐怖した。

自らの感情の変化に。

何か特別なことが有った訳ではない。

にもかかわらず、この突然の変化。

今は幸いにも良い方向へ変化したからまあいい。

だが、今の状態はいつまで続くのだろうか?

一年?一ヶ月?それとも明日までだろうか?

こうやって考えている間にも心の奥から何かが湧き上がって来て、百八十度変えてしまうかも知れない。


ゲンドウは黙ってリツコを見つめる。

サングラス越しだが、目を逸らすことなく真っ直ぐに。

それに対してリツコは無言のまま、時間だけが過ぎていく。



「………分かりました。」


どれだけ時間が経過したか分からない。

だがリツコにとっても、ゲンドウにとっても長い時間だった。

うつむいたまま小さくそう言うと、ゲンドウは珍しく多く話しかけた。


「君には本当に感謝している。

 君の協力が無ければ私はユイに会うことが出来なかっただろう。

 計画自体は最後はうまく行かなかったが………

 それでも君がいなければ途中で全ての計画が無に帰していただろう。

 だが、私は最後に君にとんでもないことをしてしまった。言い訳をするつもりも無い。

 そして終いには更なる追い討ちをかけるようなことをしていると自覚している。
 
 無論、出来る限りの保証や今後の便宜は図らせてもらう。

 本当にすまなかった。」


長いセリフを終え、再び頭を下げたゲンドウに対し、リツコはゆっくりと頭を振った。


「……いえ、結構です。

 目が覚められたらユイさんと……末永くお幸せに暮らしてください。」

「……そうか。」


短く返事を返すと部屋を出て行こうとゲンドウは踵を返した。

それをリツコは呼び止めた。


「一つだけ、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「あの後…何が起こったのです?」


後ろを向いたままゲンドウは答えた。表情を見せぬために。


「……恐らく、サードインパクトが起きた。だから現在の我々がいる。」

「…そうですか………」

「こうして私達がいられるのも、シンジのおかげだろう。」

「まだシンジ君は見つかりませんか?」

「ああ。」


プシュ、と音が響き、会話はそこで打ち切られた。

一人残された部屋の中で、リツコは考える。



ゼーレの補完計画は成功でもあり、失敗でもあるのね…

本来なら存在するはずの無い私達が今こうして再び不完全な群体として存在できている。

けれど、人類としては不完全ながらも進化はしたのかしらね……

これを進化と呼べるのかは分からないけれど……



リツコは自身の腕を前に伸ばす。

その先には部屋の明かりに照らされて心の壁が弱々しく輝いていた。












ゲンドウの執務室の電話が鳴ったのはユイが見つかって約一年が経過した頃だった。


碇ユイが目を覚ました。


その連絡はすぐさまゲンドウに伝わり、机の上にあった書類を放り出してゲンドウは病室に走った。

背後から冬月がなにやらわめいていたが、ゲンドウの耳にはそんなものは全く入らない。

病室の扉を開ける。

そこには当時と全く変わらないままの一度は失った妻の姿があった。

気を利かしたのだろう。

医師や看護師の姿は無く、淡い窓からの光に照らされてその女性は微笑んだ。


「ゲンドウさん、久しぶりね……」

「ユイ………」


言葉はそれ以上要らなかった。

二人はただ静かに抱きしめあう。

お互いの存在を確かめ合うように。



たっぷり十分は抱きしめあっていただろうか。

その間一言も話さず、やっとその身を互いに離した。


「ゲンドウさん……今はいつなの?」

「2017年になる。お前はここで一年近く眠っていた。」


ユイの腕に目を遣る。

昔から細かった病衣からのぞくその腕は、更に細く、白くなっている。


「……どこまで覚えている?」

「…はっきりと覚えているのは取り込まれてから……多分数日くらいです。

 それからは何処ともつかないような場所に居て…ずっとボンヤリとした感じでした。

 どれ位時間が経ったのか、自分が何処に居るのか、全てが曖昧な世界で……

 ただ………あの子が…シンジがいつの頃からか近くに来て泣くことが多かったことは覚えています。」

「そうか…。」

「教えてください、ゲンドウさん。

 私が居なかった間に何があったんですか?どうして…どうしてあの子はあんなに悲しそうに泣いていたんですか!?」


涙目に問いかけてくるユイだが、ゲンドウはこの問いかけに窮した。

ユイが消えてからの自らのしてきたことはとても聞かせられるものではない。

目覚めたばかりのユイに精神的な負担などかけたくは無い。

何より…ユイに嫌われたくは無かった。

折角取り戻した最愛の女性。

目の前から消えていった瞬間、全身を瞬く間に覆いつくした喪失感を二度とは味わいたくは無かった。

それ故、ゲンドウの口から出てきたのは、姑息な言葉だった。


「………まずは体を回復させろ。全てはそれからだ。」


表情を全てサングラスの奥へと閉じ込め、ユイへと背を向ける。

ユイはそんな夫に更に詰め寄ろうとしたが、長い間のベッド生活で弱った体は言うことを聞かない。

危うくベッドから落ちそうになり、已む無くそれ以上の追求を諦めた。

だが、最後にユイは一つの質問をゲンドウにした。


「あの子は……シンジは今どうしていますか…?」

「………あいつは………今は疎開させている。」

「疎開?」

「詳しくは回復した時にまとめて話す。」


それだけ伝えると、ゲンドウはその場を逃げるように去った。













NEON GENESIS EVANGEKION



EPISODE 2




Pseudo History

















2017年












「そう……そんなことが…」


目を覚ましてからのユイの回復は早かった。

元々体自体に異常は無かったのだが、リハビリに積極的に取り組み、2週間が過ぎる頃には、体力的に問題は無くなり、ゲンドウの執務室に行けるまでになった。

ゲンドウは部屋にたどり着いたユイに席を勧めると、自身はいつもの机に就き、掌で口元を覆い隠して語り始めた。



ユイが取り込まれている間に予想された通り使徒が襲来したこと。

初号機にシンジが乗り込み、それらを撃退していったこと。また、何故シンジでならなければならなかったか、その理由。

恐らくはサードインパクトが起き、どういう原理かは分からないが、それにより、ユイが戻ってきたこと。



そう言った事を手短に話したが、隣の冬月は二人に気付かれないように顔をしかめた。

ゲンドウがユイに話した内容はゲンドウが病室から戻ってきた後、冬月と一緒になって考えた話だった。

嘘は言っていない。

しかし、その内容は真実とは遠かった。

事実だけを取れば正しいのだが、シンジは自分の意志で初号機に乗ったり、辛いこともあったがそれなりに楽しく過ごせていたなど。



教え子を騙すのは辛いものだな……



そう呟く冬月だったが、幸いにも二人に気付かれることは無かった。

ユイは聞いた内容を咀嚼しているのか、しばらく黙っていたが、消化しきれたのか、病室での問いを再び口にした。


「それで、シンジは今どうしていますか?冬月先生。」


突然話を振られてわずかにうろたえた冬月だったが、ゲンドウに睨まれて、コホン、と咳払いをすると気を取り直して質問に答える。


「そのことなんだがね、それには現在の情勢を話しておかなければならんのだよ。」

「現在の情勢?」

「うむ。サードインパクトの影響で現在世界ではあちこちで内戦、紛争が起きている。

 ここはそんなことは無いのだが、アジアも当然情勢は不安定でな。いつそれらがこちらに飛び火するか分からんのだ。

 実際、いくつか未確認ながら不穏な情報も入ってきている。」

「それで疎開、ですか………」

「ああ、日本の中心となっている第三新東京市は格好の的だからな。

 シンジ君はよくやってくれた。後は大人の仕事だからということで、彼には避難してもらったのだよ。」


内心とは裏腹に表情はにこやかなまま。

こんな技術ばかりがうまくなっていく自分に、こっそりと冬月は溜息をついた。


「シンジとは連絡を取れませんか?」

「……何故だ?」

「…結果がどうあれ、私はあの子が一番大変な時にそばに居てやれませんでした。その上、私のせいでシンジが戦うことになってしまいました。

 そのことを謝りたいんです。」

「そうか…。しかし………」

「ダメだ。」


ユイの頼みに冬月は逡巡を見せるが、それをゲンドウはにべも無く却下した。


「碇………!」

「お前はまだ分からないだろうが、ここは機密の塊だ。情報が洩れることは絶対に避けねばならん。シンジにも監視をつけている。シンジの情報は公開していないが、連絡を取ることによってシンジとここの繋がりが外部に判明したら奴らはシンジに手を伸ばしてくる。機密とシンジの安全上連絡を取ることは出来ん。」


冬月の諌めるような声を無視し、ゲンドウは一気に、かつ静かにまくし立てる。

そこには反論を許さない、普段のゲンドウの姿があった。

ユイもこうなった夫が何を言っても聞かないことが分かっているのか、それ以上何も言わず、顔をうつむかせる。

そうして肩を震わせるのを見て、冬月はオロオロし、ゲンドウも表面上は仏頂面ながらも、心の内では冬月以上に狼狽していた。

だが、ユイは不意に顔を上げた。

目尻にはわずかに涙が溜まっていたが、力強いまなざしを湛えている。


「分かりました。なら、私は私に出来ることをします。」

「出来ること、とは?」

「シンジに会う事を妨げている、その原因を取り除くまでですよ、冬月先生。」


そう言ってニッコリ微笑むユイにゲンドウと冬月は抗う術を知らなかった。









だが、その笑顔は長くは続かなかった。

ユイはあの後、技術部の新しい班に配属され、エヴァの修繕、及び汎用コアの開発に力を注いだ。

配属、とは言っても強引にユイが入り込んだのだが。

それまでもそれらの研究は最優先で行われていたが、ユイが加入したことによりそれは更に加速した。

リツコとの対面により、技術部内の軋轢をゲンドウは心配したが、何も起こることは無く、これまで通りスムーズに仕事は回っていた。

リツコが大人だったのか、それとも、ユイがゲンドウとリツコの関係を知らなかった故か。

どちらかは分からないが、研究はこれまで以上に進行していった。

ユイはそれこそ鬼気迫る様相で、連日徹夜で研究し、ゲンドウから無理やり止められるまで取り組んでいた。

しかし、あと少しで実用化、といったところでペースは急激に落ちることになる。



眠そうに目をこすりながらユイは廊下を歩いていた。

眠気を覚ますためトイレで顔でも洗おうと思い、ユイがちょうど角を曲がったところだった。

普段はあまり気にしない他の職員の会話だったが(最近の話題についていけない)その時ばかりはある単語がユイの気を引いた。


「………ドチルドレン、まだ見つからないらしいぜ。」

「マジで?もう一年以上探してるんだろ?もうダメなんじゃないか?」

「ああ、多分な。どこかで元気で暮らしてるんならいいけど…」

「その話、詳しく聞かせてもらえないかしら。」


背後から聞こえた震える声に、話に集中していた職員が振り返ると、そこには顔を青ざめさせ、今にも倒れそうな様子のユイが立ちすくんでいた。








「ゲンドウさん!!!」


ゲンドウと冬月が執務室で茶をすすっていた時、そこにユイが走りこんできた。


「ユイ君、まだ君の体は完調ではないのだから……」

「そんなことはどうでもいいんです!

 それよりもゲンドウさん、冬月先生!シンジが…シンジが行方不明というのはどういうことなんです!?

 嘘ですよね!?」


迫り来るユイに冬月は顔をしかめ、ゲンドウを見遣る。



やはり無理があったのだ。


人の口に戸など立てられるはずも無い。

恨みがましい視線で冬月はゲンドウをにらみ付けた。


「やっぱり嘘ですよね?ね、ゲンドウさん?

 ……嘘だと言って下さい………」


だがゲンドウはサングラス越しにユイを見つめるだけで何も言わない。

見つめるその視線は何を見ているのか。

沈黙は肯定の証。



ユイは壊れた。





























「イヤああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」






















2019年















「二人で将棋を楽しむのは構わんが、冬月、そっちの方はどうなっている?」


一戦終わったばかりなのに再び盤上に駒を並べている冬月にゲンドウは幾分疲れた声で尋ねる。


「ああ、特に大きな動きは無いようだ。それよりもアメリカの方が怪しい動きをしているぞ。」

「あの国は昔からそうだ。他国が自分達より大きな力を持つことが気に入らんのだ。」


報告をしながらも駒を並べる手を休めない冬月。

ユイの方はすでに並べ終わって冬月の準備が整うのを待っている。


「今更だが、ユイ君の方はどうだね?ここに居ていいのかね?」

「あら、先生。もう私の仕事は終わりましたもの。後は私が居なくても新しくてかわいい技術部長さんがやってくれますわ。」

「確かに伊吹君なら君が居なくても仕上げてくれるだろうな。」


そう言って部屋の中を冬月は見回した。

すっかり変わってしまった執務室。

その原因たる様々な少女趣味のものはユイがマヤからもらったのがほとんどである。


「しかし、これで新たなパイロットを選出せねばならんな…」


そう冬月が呟くと正面に座するユイの表情がわずかに曇る。


「本当は大人が乗れればいいんですけど…

 やはり子供達に負担をかけなければならないのは辛いですね……」

「君が気にすることではない。」


ゲンドウの低い声が響く。


「以前と比べれば危険度は少ない。」

「しかし…」

「碇の言う通りだよ。君が気にすることではない。

 それに汎用コアが完成したおかげで子供達の負担が減ったのも事実だ。」


ゲンドウに続いて冬月もユイを宥める。

二人の様子にユイは微笑んで答える。

折角ここまで回復したのだ。

二度とはユイに心を病んでほしくなかった。

ユイに気付かれないよう二人は安堵の溜息をついた。

その時、ゲンドウの机の上の電話が鳴る。


「……ああ、わかった。………そうか。それはそちらに一任する。」


カチャ、と音を立てて受話器を置くゲンドウ。


「たった今、終了した。」


短くそれだけを伝えるとゲンドウは立ち上がって部屋を出て行く。

冬月、ユイもそれに従って部屋を後にした。

後には並べられる途中であった将棋の駒だけがやや乱雑に残っていた。















「はあぁ………今日も雨かよ…」


ホーリーブレスト店内でいつぞやと同じようにトオルはカウンターに突っ伏してぼやいていた。

トオルは雨の日というのが本当に苦手であった。

嫌いではないのだが、どうにも耐えがたかった。

自分と同じような人間はたくさん居るだろうし、だからこそ、雨の日というのは今みたいに客も居ないのだろうが、自分は恐らくその中でもかなり特殊だと自覚していたし、事実その通りであった。

雨の日というのはトオルにとってはうるさくてたまらなかった。

晴れの日ならば力を制御して「声」を遮断することが出来た。

だが、雨の日になると途端に制御は不安定になり、あちこちから声無き声がトオルの中に響く。

暗い声ではないのだが、ひっきりなしに響く声は無視できるものでもなく、気を滅入らせるには十分なものである。

レイナはそんなトオルの事を理解してはいたが、雨の度にずっと近くでぼやかれるといい加減我慢の限度も超えてしまう。


「はいはい。分かったから仕事の準備をして。今日はお昼から晴れ間がのぞくらしいわよ?」

「本当か?」

「ホントよ。だから、早く起き上がってよ。」


ゆったりと気だるそうに起き上がるが、その時入り口のドアに取り付けられた鐘が鳴った。

トオルはどこかで似たような状況があった気がしたが、頭を一度振ると気を取り直して振り返った。



……多分気のせいだろう、うん、そうに決まっている。



だが、希望は得てして簡単に打ち砕かれるものである。


「あら、カズキさん。いらっしゃい。」

ゴスッ!

「………」


レイナの声と同時に殺人的な音を立ててトオルがカウンターに頭を打ち付ける。


「…何してんの?」

「さあ?大方俺に会えて嬉しくてたまらねえんだろ?」

んなわけあるかぁ!!


あらん限りの力で突っ込むトオルだが、レイナはそれを普通にスルーして話をカズキに振る。


「で?やっぱりまた私?」

「………おひ。」

「ああ、また頼むよ。」


カズキの頼みに軽くレイナは溜息をつくと、前と同じように部屋の奥へと向かっていく。

と、その途中でトオルのほうへ向き直り、うずくまってイジケテいるトオルに声を掛ける。


「じゃ、ちょっと出てくるから、ちゃんと開店の準備しといてね〜。」

「……は〜い。」












「……じゃあ、行って来ます…」

「ああ、気をつけてな。」


快活な少女は鳴りを潜め、レイナは黒装束に身を包むとカズキとともに店を後にした。

トオルは二人を見送っていたが、不快な感覚に眉をひそめる。

ちらりと相手に気付かれないよう横目で相手を確認するが、その人物を見ると、踵を返して店の中へと戻った。

だが、その距離はあまりに遠く、ミサトは自分が気付かれていたことに気付かない。

真っ黒な服で遠ざかるレイナを見ると、手元にある写真と何度か見比べる。


「あの子ね………」


その手には店内で明るく笑うレイナの姿が映し出されていた。




















shin:ふう、やっと終わった……

ドゲシッ!!

ミナモ:いつまで待たせてんのよ!

shin:何処からタライなんぞを…

シンジ:まあまあ、ミナモも落ち着いて

ミナモ:折角こっちのお話まで出張ってきたのに、なんでアンタから登場なのよ!

shin:お前、そんなキャラだったか?

シンジ:人物のキャラが変わるのは珍しくないよ

shin:それもそうか

ミナモ:それで、今回はほとんどが過去話なのね?

shin:急に話を変えるな

シンジ:まあまあ

ミナモ:シンジが全く今回も出てきてないけど?

shin:この話ではシンジは出てくるとも言えるし、そうでないとも言える

ミナモ:何それ?

shin:詳しいことは言えない

シンジ:それにしても…父さんの部屋どんななんだろ?

ミナモ:見てみたいわね…

shin:多分見ない方が身のためだと思うが…





















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