きょうの社説 2010年5月5日

◎こどもの日に 「武士の家計簿」に学ぶ家族愛
 わが子の虐待に走る若い親が増えている。今年に入って、暴力や食事を与えず死亡させ る痛ましい事件が相次いだ。死に至る事件を起こした親の口からは、「子どもの育て方が分からなくなった」「ストレスをためないためにやった」などと耳を疑うような言葉も聞かれ、家庭で親と子の結びつきが、これほどまでに薄れてきたのかと、暗たんとした思いにさせられる。

 こどもの日は、子育てを担う家族の日とも言い換えられるだろう。年末の公開を待つば かりとなった映画「武士の家計簿」の中には、困窮の極みにある加賀藩士の一家が支え合って生きる姿がリアルに描かれている。時代や社会の仕組みを超えて、現代とも重なる激動期を懸命に生き抜いた郷土の先達の熱い家族愛を、映画の制作を機に感じ取りたい。

 映画の原作となった歴史学者の磯田道史氏の著書の中には、藩内随一の財務家であった 猪山家が、江戸勤めなどで出費がかさみ、その借金整理のため、妻の婚礼衣装や茶道具、家具、書籍など家財のほとんどを売り払って返済に充てる様子が記されている。

 家族が一つになって困難に立ち向かう様からは、一つ屋根の下でも親子が干渉せずに生 活し、「孤食」が特別でなくなった感のある現代の家族の姿とは大きく異なる強じんさ、真摯(しんし)さが感じ取れる。

 猪山家では、生活を切り詰めて、あるじの小遣いを月5千円程度と少なくし、衣服も着 たきりスズメ状態だったにもかかわらず、生まれた嫡子に、立派な文箱、硯(すずり)など勉強道具のセットをそろえたとも記されている。藩の官吏としての家柄の維持という側面はあろうが、何を置いてもわが子を一人前に育て上げる、虐待などと無縁の親の責任の重さが伝わってくる。

 映画のメガホンをとった森田芳光監督が「北國文華」誌上で、すべてを売り尽くして何 もなくなったけれど、一番大切なもの、家族が残ったという点を強調したいと語っているように、もろさが際立つ現代の家族へのメッセージにもなるだろう。北陸ゆかりの映画をきっかけに、今一度「家族のきずな」を考えたい。

◎海底資源の探査 摩擦いとわぬ覚悟がいる
 政府の総合海洋政策本部が「海底資源エネルギー確保戦略」をまとめた。世界で6番目 の広さを誇る日本の排他的経済水域(EEZ)を最大限に生かして「海洋資源大国」の道を開く狙いであり、東シナ海などでレアメタル(希少金属)を多く含む「海底熱水鉱床」を本格的に探査し、2020年をめどに事業化をめざすことにしている。

 日本の経済成長維持のため、官民挙げて取り組むべきこの大事業を実行に移すには、中 国との摩擦をいとわない覚悟とそれを克服する外交力が必要である。中国とのEEZの境界線として定めた東シナ海の「日中中間線」付近で海底資源の探査を行えば、中国側が有形無形の圧力をかけてくるであろうことは想像に難くない。

 東シナ海の大陸棚の海底資源探査では、日本は苦い「失敗」をしている。国連機関が1 960年代末に石油資源埋蔵の可能性があるとの調査結果を発表して以来、国内の民間企業が鉱業権の設定を求めてきたにもかかわらず、政府は腰を上げず、2005年になってようやく試掘権を認めた。

 しかし、試掘はいまだに行われず、その間に中国側が日中中間線付近でガス田を開発し 、日本側の権益を侵害する恐れもある事態に至った。日本企業の試掘が進まない最大の理由は、中国の反発で政治問題化するのを恐れる政府の及び腰な姿勢にある。

 海底熱水鉱床には、マグマなどの熱で地下から噴出した金や銅、レアメタルのゲルマニ ウムなどが堆積している。レアメタルはハイテク製品に欠かせず、世界的な争奪戦が起きている。探査対象の海底熱水鉱床は約34万平方キロで、このうち尖閣諸島の北東海域と八丈島の南方海域の探査は15年までに実施する方針という。

 懸念材料は、技術面の問題よりむしろ中国側の出方である。尖閣諸島の領有権だけでな く、日中中間線より日本側の海洋権益まで主張する中国が、日本の探査を黙って見過ごすことは考えにくい。予想される中国の圧力をかわし、海底資源戦略を遂行する強い意思を政府に求めておきたい。