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この作品は、「ヨシュエスのための空の軌跡ラブラブ福音計画」の外伝にあたる短編です。原作とはかなりキャラの性格などが違うので注意してください。
2010年 4月1日記念ヨシュエス短編 エステルの告白
<王都グランセル 東区画 休憩所>

女王誕生祭でにぎわうグランセルの街。

エステルとヨシュアの二人も、午前中に早々と遊撃士協会の仕事を終え、祭りを楽しんでいた。

本来なら有事に備えて、協会の建物の二階で待機していなければならないと決められている。

「誕生祭の警備は兵士と親衛隊と特務兵のみなさんがやってくれるから大丈夫ですよ」

と、グランセル支部のエルナンはヨシュアとエステルの二人を笑顔で送り出した。

エステルはヨシュアの手を引いて、グランセル中を駆け回り、シュラブ釣りや、サンすくい、おもちゃの導力銃による射的などいろいろな店を回った。

そしていつしか、東区画の休憩所のベンチの近くまでたどり着いた。

「ずいぶん歩き回ったし、休憩しようか?」

ヨシュアがそう提案すると、エステルは軽く頷いて賛成の意を示し、ベンチに腰掛けた。

「はあ……あちこち歩き回ったから、さすがにちょっと疲れたわね」

エステルはそう言って大きく息を吐き出した。

「しばらくここで休もうよ。それにしても、僕達仕事をしなくていいのかな」

ヨシュアがそう呟くと、エステルはあきれた顔をした。

「そんなことまだ気にしているの? 父さんやシードさん、ユリアさんや、リシャール大佐までいるのよ? あたしたちが居ても邪魔になるだけじゃない。遊べるうちに遊べばいーのよ」

そう言い終わるとエステルはあっけらかんと笑った。

「はは、そうなんだけどね。何となく性分と言うか……」

ヨシュアがそう言って笑うと、エステルはまた溜息をつく。

「はあ、仕方無いわね。……それにしても……ついにあたしたちも正遊撃士になれるのね」

「そうだね、いい思い出ができたよ」

エステルとヨシュアは明日、エステルの母レナやヨシュアの姉カリンと兄代わりの存在であるレーヴェの到着を待って、遊撃士ギルドで正遊撃士の紋章を授与される事になっている。

「もう父さんに、ヨシュアと二人でやっと一人前だ、なんて言わせないんだから!」

エステルが満面の笑みを浮かべてそう言うと、ヨシュアも笑いながら同意した。

「うん、僕もそう言わせないよ。でも、僕はエステルから離れる気はないけどね」

ヨシュアがポツリと漏らした一言に、エステルはいつものように笑顔で答える。

「そうよね、気心はしれてるし、お互いのクセもわかってるもんね。このままコンビを組んだ方が良いに決まってる!」

「あ……遊撃士の仕事の話か……やっぱり気付いてくれないのかな」

ヨシュアはそう言って溜息をついた。

「それにしても、今日は暑いわね。あたし、アイス買ってくる!」」

「じゃあ僕が……」

「いいの、今日はお姉さんがおごってあげる♪」

エステルはそういって楽しそうに人気アイスクリーム屋のソルべの屋台へと向かった。

「もしかして、実験的な味のアイスを僕にまた食べさせる気だね……納豆イチゴ味とか……」

そう呟くヨシュアの側に一つの人影が姿を現す。

「いやあ、二人とも青春を謳歌していますね」

シンジがその声がした方向を見ると、そこには穏やかな笑みを浮かべた、少しくたびれた背広姿の青年が立っていた。

「アルバ先生……」

「やあ、しばらくぶりですね。そんなに暗い顔をしてどうしました?」

アルバは、カシウスとは旧知の間柄で、度々エステルとヨシュアの前に姿を現しては、七耀教会に関する遺跡の探検談などを話していた。

少し滑稽で大げさに自分がいかに魔物から逃げ回ったなどと話したりするアルバを、エステルとヨシュアは楽しみに待っている日もあった。

エステルはアルバお兄さん、ヨシュアはアルバ先生と呼んでいた。

「私も調査の仕事が一段落ついたので、故郷のノーザンブリアに帰ろうと思うのですが……はは、あんまり家を留守にすると、残してきた彼女が浮気していないか心配でね」

そう言って軽く笑うアルバの様子を、ヨシュアは羨ましそうに目を細めながら眺める。

「離れていても、信じて待っていてくれる恋人が居るなんて、いいですね……」

「おや、ヨシュア君はエステル君がいるじゃありませんか」

アルバがそう言うと、ヨシュアは表情を暗いものにして呟いた。

「エステルの気持ちが良く分からないんです……僕をただの弟としてしかみていないのかどうか」

ヨシュアの嘆きを聞いたアルバはあごに手を当てて納得した様子で頷いた。

「ふうむ。確かにエステル君はそういうところがありますね」

「僕は……何年も前からエステルを女の子として意識しているのに……」

「悩める少年なんですね、ヨシュア君は。それならさっさと気持ちを伝えてしまえばいいではないですか。……王国に居られる時間も残り少ないんでしょう?」

アルバの問いかけに、ヨシュアは瞳を暗くして、体を震わせながら答える。

「でも……告白して今の関係が壊れたりしたら……僕は」

「……ヨシュア君の方がまるでヒロインみたいですね」

アルバはヨシュアの呟きに苦笑を浮かべた。

「告白が上手く行って、両想いになったとしても、離れ離れになってしまったら……」

「彼女が他の男性と付き合ってしまうかもしれない、と?」

アルバがそう呟くと、ヨシュアは正面からアルバの両腕につかみかかった。

「先生! 僕はエステルを他の男なんかに渡したくない! 僕をずっと好きでいて欲しいんだ!」

そう叫ぶと、ヨシュアはさめざめと涙を流し始めた。

「ヨシュア君、そんなに泣かないでください……困りましたね」

アルバは泣いているヨシュアの背中を優しくさすると、何かを思いついたかのような表情を浮かべてポツリと呟く。

「こうなったら、私が手助けをしてあげましょう」

アルバはヨシュアにそっと耳打ちをする。

話を聞いたヨシュアは、目を丸くして叫び声を上げる。

「……ええっ!? そんなこと、僕には無理ですよ」

「そんなこと言わずに、頑張ってくださいよ」

アルバはそう言って視線を通りの方に向けると、エステルがアイスを持って歩いて来るのが見えて、笑いを浮かべた。

「あれ、アルバお兄さん? ヨシュアと何を話していたの?」

「ええ、久しぶりに会ったので会話が弾んだのですよ」

アルバは満面の笑みを湛えてそう答えた。

ヨシュアはエステルにばれないように慌てて顔の涙を拭った。

「アルバお兄さんってば、いつもより楽しそうじゃない? どうしたの?」

笑いをこらえていると言った感じのアルバを見て、エステルが不思議そうに尋ねた。

「……ふふ、わかってしまいましたか。実は遺跡の調査が一段落ついて、故郷に帰れそうなんですよ」

「へえ、確かアルバお兄さんの彼女って、凄く美人なんでしょ? 父さんが言ってたけど。……久しぶりに会えるんだから嬉しいはずよね~」

エステルはアルバの笑顔の理由に納得がいったようだ。

「それより、早くヨシュア君にそのソルべ屋の新作『大根おろし味』のアイスを渡したらどうですか? 溶けてしまいますよ」

「あ、そうね」

エステルは慌てて、ヨシュアにバニラとは違った白さのアイスを渡した。

「では、私はこれで」

二人の側から立ち去ろうとしたアルバを、ヨシュアが呼び止める。

「待ってください! 最後に一つ聞きたい事が!」

「なんです?」

アルバはヨシュアの方を振り向いて答えた。

「先生は、このアイスの味をご存知ですか?」

「……ノーコメントです」

アルバは二人に背を向けると、今度は振り返りもせずに歩き出した。

そして、二人からしばらく離れた後、堪えきれなくなったのか、声を出して笑いだす。

「……これはさっそくカシウスさんに報せなくては♪」

アルバは鼻歌を歌いながら軽やかな足取りでカシウスの元へと向かって行った。



<グランセル城 空中庭園>

その日の夜。

モルガン将軍によってアリシア女王との晩餐会に招かれたエステル達は、そのまま王宮の客間に泊まる事になった。

エステルが眠りに着こうとすると、外からのハーモニカの旋律の音がエステルの耳に届いた。

「……この曲は……もしかして、ヨシュアが吹いているの?」

エステルの知り合いでハーモニカで『星の在り処』を吹けるのはヨシュアとその姉カリンだけ。

カリンは明日の朝に王都に到着する予定だから、やはりヨシュアしかいない。

エステルがハーモニカの旋律が発せられる方に向かうと、空中庭園でヨシュアがハーモニカを吹いている姿が見えた。

ゆっくりとヨシュアの側に近づいて行くエステル。

「やあ、エステル。いい夜だね」

柵に腰かけていたヨシュアは、エステルに気がつくと、微笑んでそう言った。

「また、あの曲を吹いていたんだ。」

「うん、吹き収めにと思ってね。」

そう言って、ヨシュアはエステルに悲しそうな笑顔を向けた。
そしてヨシュアはエステルに背を向けて、かろうじてエステルに聞き取れるような弱い声で話し始めた。

「昔、あるところに男の子が居ました。その男の子はお姉さんがが手を焼くほど、わがままで甘えんぼでした。ある時、お姉さんが遠く外国に出掛ける時も、その男の子は駄々をこねてついて来てしまいました」

突然ヨシュアが言い出した話の内容に、エステルは驚いて目を丸くした。
エステルが呆然として黙って聞いていると、ヨシュアは淡々と話を続ける。

「ある日、男の子はとある遊撃士に命を助けられました。そして、その男の子はその人の家に連れてこられて、ひとりの女の子と出会いました……。その後、五年もの間男の子は幸福な夢を見続けました。でも、夢はいつか覚めるものです。現実に戻る時が迫っていました。」

ヨシュアはそこまで話してエステルの方に振り向いた。

「でも、その男の子はエレボニア帝国の住民……相手の女の子はリベール王国の住民。ずっと一緒にいられない。だから……男の子は女の子に別れを告げる事にしました。」

「……いいかげんにしなさいよ。夢なんて言わないでよ!」

エステルはヨシュアに向かって腕をなぎ払うように振りながら詰め寄った。

「あたしを見てよ、あたしの目を見てよ!あたしはずっと……その男の子の事を見てきたわ! 男の子がくじけそうになりながらも、頑張っている事を知っている。あたしはそんなヨシュアが好きになったんだからっ!」

エステルは告白してしまった気恥ずしさから、顔を真っ赤にしながら、さらに言葉を続ける。

「あたしの気持ちを置き去りにして行くなんて許さないからね!」

エステルが怒鳴るとヨシュアは驚いた顔をして、そしてエステルの肩を掴んで顔を引き寄せた。

そして、エステルとヨシュアの間で交わされるファーストキス。

すると、空中庭園に鳴り響く拍手の音。

「おめでとう」

アルバがヨシュアに向かって微笑みかけた。

「よかったな」

カシウスも手を叩きながら二人に向かって笑みを浮かべた。

「よかったわね」

いつの間に到着していたのだろうか、レナもカシウスの隣で微笑んでいた。

「いやー、めでたいわ」

「ふっ、愛の誕生だね」

「けっ、やっとくっつきやがったか」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おめでとうございますっ」

「お喜び申し上げますわ」

「めでたいことだな!」

「愛する事は正義だよ!」

「祝辞を申し上げよう」

今まで旅を共にしてきた仲間達も拍手をしてエステルとヨシュアを取り囲んでいる。

エステルとヨシュアはそろって笑顔を浮かべて、祝福の言葉に答える。

「「ありがとう」」

「……でも、せっかく両想いになれたのに、すぐ離れてしまうなんて……」

エステルがそう言って笑顔を曇らせると、レナは首を振って優しく微笑む。

「今度はエステルが帝国に行けばいいのよ」

レナの言葉にエステルとヨシュアは向き合って喜んだ。

「ふふ、帝国に着いたら手紙を書くのよ。……いってらっしゃい、エステル」

「うんっ!」

エステルはレナの言葉に笑顔で頷いた。



父にありがとう。

母にさようなら。

そして、エステルとヨシュアに、おめでとう。



fin.