2010年5月4日 2時30分 更新:5月4日 2時30分
高齢者らの乗るハンドル型電動車いす(シニアカー)に追突されて右足に全治3カ月の重傷を負い後遺症が残ったとして、東京都荒川区の男性(63)が運転していた男性(77)に440万円の賠償を求め、東京地裁に提訴していたことが分かった。男性はシニアカー用の損害保険に加入していたが、シニアカーには自動車のような強制加入の自賠責保険はなく、原告側の弁護士は「損害保険未加入だと、高額の賠償を余儀なくされる」と注意を呼びかけている。【渡辺暢、町田徳丈】
原告は無職、村田修さん。4月9日に提訴し、5月18日に第1回口頭弁論が開かれる。
訴状などによると、村田さんは昨年9月24日午後3時半ごろ、荒川区荒川1の交差点で信号が変わるのを待っていた際、近くの男性の運転するシニアカーに右後方から追突された。車体重量だけで約100キロあるシニアカーは右足の上にのしかかったまま停止し、村田さんは周囲の人に救出された。男性は現場で「歩道が下っていてブレーキが利かなかった」と話したという。
けがは右ひざ関節のねんざなど。後遺症に悩み、つえが手放せない。当時、都内の芸能事務所で運転手を務めていたが解雇されたといい、村田さんは「ゆっくり動くので安全だと思われがちだが実は危険」と話す。原告側の弁護士は「男性が損害保険に加入していたのは、不幸中の幸いだった」と指摘する。
警察庁によると、シニアカーなどの電動車いすは道路交通法上、「歩行者」に分類され、歩行者とぶつかっても歩行者同士の衝突事案とされる。交通事故ではないため加害例は把握できていない。
だが、東京消防庁によると、05年7月、立川市で接触によって母親の抱いていた1歳児が投げ出されるなど、05年4月~08年末に都内だけで少なくとも7件の加害例がある。損保大手6社はシニアカー運転者を対象とする保険を取り扱っているが加入率や支払件数は明らかにしていない。
一方で、運転者の危機意識は低い。シニアカー歴10年の新宿区の無職女性(67)は「買い物や通院などで毎日使っている。(事故は)注意しているから大丈夫。去年の夏買い替えた時勧められたので保険に入ったが、それまで未加入だった」と話している。
電動車いすは操作方法から、ハンドル型とジョイスティック型に大別され、このうちハンドル型を指す通称。大きさ(長さ120センチ、幅70センチ、高さ109センチ以内)、最高速度時速6キロ未満などの基準があり、道交法上は歩行者なので車道ではなく歩道を通行し運転免許は不要。80年代に商品化され、業界団体「電動車いす安全普及協会」(浜松市)によると08年までに40万台が出荷された。