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※この物語では、物語の配役と都合上、ゲンドウさんとユイさんが少し悪者になってしまっています。原作のファンのかたにご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。作者は優しいゲンドウさんとユイさんが好きなのですが、今回だけは悪者になっていただきました。本当にごめんなさい。
2010年 節分記念LAS短編 新世紀エヴァンモモタロウ
むかしむかしあるところに、碇ゲンドウと碇ユイというお百姓さんの夫婦がおりました。

その二人の間に生まれた一人息子シンジは、百姓の息子でありながら、とても剣の腕が優れていると村でも評判だったそうな。

碇の家には大きな桃の木があったため、村人には桃太郎と呼ばれて親しまれていた。

貧しい家に生まれながらも、すくすくと立派な少年に成長して行ったシンジに、お城の殿様から仕官の申し出がある程だった。

しかし、当のシンジはそんなことには興味が無く、親の農作業を手伝うような穏やかな少年だった。

そんなシンジを父親のゲンドウは内心、情けなく思っていた。

とある日、ゲンドウの耳に殿様のお触れが飛び込んで来たのはそんな事情があるときだった。



新世紀エヴァンモモタロウ


『西方の島に鬼が現れ、人々を苦しめている。

鬼を退治したものは鬼の持っている財宝と、姫のレイを褒美として与える』

ゲンドウはそのお触れを見るや否や、すぐにシンジに鬼退治に行くように勧める。

「今すぐ鬼退治に行け、出なければ家を出て行け!」

「ちょっと、父さん、何でそんな話になるんだよ!」

突然のことにシンジがゲンドウに向かって言い返すと、ゲンドウはシンジの肩に手を置いて話し始めた。

「いいかシンジ、我が家は今でこそ百姓に身をやつしているが、先祖は立派な殿様だったのだ。今ここで綾波家の姫と結婚して家名を盛り返せば、碇家の先祖に対して申し訳が立つ」

「僕は……ここで父さんと母さんと幸せに暮らしていければそれでいいんだ」

ゲンドウが説得しても嫌がるシンジに、ユイが優しく諭す。

「シンジ、こうしている今でも鬼のせいで苦しんでいる人が居るのよ。その人たちを助けてあげて」

「それに、綾波家の姫は月から舞い降りたみたいに美しい娘だと聞いている。お前もきっと気に入るだろう」

ユイとゲンドウの二人がかりの説得に、シンジは渋々頷いた。

「わかったよ。……僕は鬼退治に行くよ。でも、家名のためや姫様や財宝のためじゃないからね。困っている人を助けたいだけなんだ」

「……それでもいい、行ってくれるのか、シンジ!」

シンジの言葉にゲンドウとユイは激しく喜んだ。

そして、ユイの作ったきび団子をたっぷりと持ってシンジは鬼退治に出発した。

さっそうと家から出て行くシンジを見送った後、ゲンドウとユイは顔を見合わせてほくそ笑んだ。

「これでやっと百姓生活から抜け出せるな」

「ええ、もうこんな貧乏生活はうんざりですわ」

家を出て行った振りをして玄関の前に留まっていたシンジは、家の中を覗き込み二人の言葉を聞くと、悲しそうな顔でポツリと呟いた。

「父さんと母さんにとって、百姓の息子の僕は要らない子なんだ……」

シンジは涙を振り切るように西へ向けて街道をひた走ると、道端で倒れこんでいた人影にけつまずいてしまった。

「き、キミ、どうしたの?」

「お、おいらはケンスケ。ここのところ何も食っていないから腹が減って動けないんだよ……」

その言葉を聞いたシンジは、ケンスケに持っていたキビ団子を渡す。

ケンスケは差し出されたキビ団子にむしゃぶりついた。

「ふー。おかげで人心地がついたよ。……ところで、お前はそんな大きな刀を持って何をしに行くつもりだったんだ?」

「西の島に鬼退治に」

シンジの答えを聞いたケンスケは慌ててシンジを止めようとする。

「おいおい、鬼は身の丈13丈を超える目が四つある巨人だって話だぜ。そんなやつにかなうわけない」

「……それでも、僕は行かなくちゃいけないんだ」

ケンスケはシンジの悲しそうな目から、彼は死んでも構わないと思っている事を感じ取った。

そしてケンスケは目ざとく、シンジの持っている刀が伝統のある家に伝わる高価なものだと言うことに気がついた。

没落した商人の息子だったケンスケは素早く計算し、シンジに話しかけた。

「なあ、俺もお前の鬼退治に協力させてくれないか?」

ケンスケがそう申し出ると、シンジは疑いの眼差しでケンスケを見る。

「そんなことを言って、またキビ団子が目当てなんだろう?」

ケンスケはシンジが寝たすきに刀を奪っておさらばしようと思っていたのだが、そんなことはおくびにも出さなかった。

「実はそうなんだよ。なあ、ここら辺の道はおいらが良く知っている。しばらくの間、道案内をさせてくれないか?」

「……そう言うことなら」

シンジは少し考えて、ケンスケの申し出を受けた。

道案内の代金がキビ団子なら安いものだと考えていた。

「なあ、その刀、立派だよな」

シンジの仲間になったケンスケが歩きながらシンジの持っている刀を褒めると、シンジは大して面白くなさそうに答える。

「なんでも、碇家に伝わる由緒正しい名刀なんだってさ」

シンジの言葉を聞いたケンスケは心の中でほくそ笑んだ。

二人が道中を進んでいると、前方で男女の二人連れの旅人が山賊に取り囲まれているのが見えた。

「おらおら、命が惜しかったら身ぐるみとその女を渡して逃げな!」

「いやや、ヒカリは絶対にお前らなんかに渡さへん!」

山賊の頭の言葉を若い男が拒否すると、山賊の男はいやらしい笑いを浮かべる。

「そうか、じゃあ死ね!」

「いやあっ!トウジ!」

ヒカリが悲鳴を上げた直後に、取り囲んでいた山賊たちは痛さにうめきながら地面に倒れ込んでいた。

「峰打ちだ、安心して」

シンジが目にも止まらぬ速さで山賊の群れを斬り伏せていたのだ。

「あ、ありがとさん」

「ありがとうございます、旅の剣士さま」

トウジとヒカリがお礼を言う後ろで、ケンスケはシンジの活躍を見て興奮していた。

「凄い、凄いよシンジ!お前なら鬼を倒せるかもしれないぜ!」

「何や、鬼を倒すやと!?」

シンジから鬼退治の旅の途中だと言うことを聞くと、トウジは心底驚いた様子だった。

「……そうか、そこまで決意が固いちゅうんやったら、ワイもついて行く」

トウジがシンジに鬼に対して城の兵隊が総がかりで攻めてもかなわなかったことを告げても、退かなかったシンジの態度を聞いてトウジはシンジの鬼退治に同行することを決めた。

ヒカリも戦いのときは安全な場所まで離れているという条件で、シンジたちの旅について行くことになった。

ヒカリは呉服屋の令嬢で、幼馴染の侍のトウジとは駆け落ちして家を出てきた旅の途中だったとシンジは説明を受けた。

家を出た時、ヒカリはある程度の旅費を持ちだしており、命の恩人であるシンジに対して彼女は旅費の援助を申し出た。

ヒカリが援助をしてくれたおかげで、シンジたちの旅は金銭的に苦しい思いもせず、楽しい旅を送ることができた。

最初は逃げ出そうとしていたケンスケを含め、旅をしている間に四人は次第に打ち解けて行った。

「そうか、ケンスケも、シンジも、ワイらも、親に見捨てられた存在なんやな……」

四人は鬼退治をしたら、その財宝で四人だけで幸せに暮らそうなどと、冗談を言い合うようになっていた。

そして、いよいよ楽しかった旅も終盤を迎え、ヒカリを港町に残してトウジたち三人は鬼の住むという島へと向かった。

シンジたち三人が島に上陸すると、程なくして、大きな地響きがして噂の鬼とされる大きな巨人が近づいてきた。

トウジとケンスケは慌てて岩の陰に隠れる。

しかし、シンジはその場から逃げなかった。

「何よ、アンタもこのアタシを退治しに来たわけ?このエヴァンゲリオン弐号機に蹴散らされて怪我をしないうちにさっさと島から出て行きなさい!」

少女の大声が辺りに響き渡ると、シンジは首を振って刀を投げ捨てた!

「おいっ!あいつ何を考えているんや!」

岩陰から様子を見ていたトウジはたまらず叫んでしまった。

「僕はキミを傷つけたくない」

「はぁっ!?アタシに降参しろって言うの?」

「違う、僕はキミに殺されに来たんだ」

シンジがそう言うと、弐号機は戦闘の構えを解き、動きを止め、シンジの言葉を待っているようだった。

それを見たシンジは泣きながら生まれてからのこと、殿様のお触れを聞いて両親が心変わりしてしまったことなどを話した。

すると弐号機のスピーカーからすすり泣く声が辺りに響き渡り、エントリープラグが射出され、中からプラグスーツを着た金髪蒼眼の少女、アスカが泣きながら降りてきた。

「アンタ、なんでそんな下らない事で死のうとするのよ!」

アスカはそう言ってシンジに抱きついてきた。

「でも、僕が逃げたら父さんと母さんはきっとひどい目に遭わされるんだ……」

「この……バカシンジ!なんでアンタみたいなのが、そんなひどいヤツらのために死ななきゃならないのよ!」

アスカはシンジから離れて思いっきりシンジに平手打ちをした。

そして、シンジの投げ捨てた刀を強引にシンジの手に握らせて叫ぶ。

「恐れられた鬼の正体は、こんなちっぽけな女なのよ!今のアタシならあっさりと殺せるでしょう?他の人みたいにアタシを殺そうとしなさいよ!アタシはアンタと目の色も髪の色も違う、妖怪なんだから!」

しかし、シンジは首を振って再び刀を投げ捨てた。

「できないよ!キミは妖怪なんかじゃない!だって、僕の話を聞いて涙を流してくれる、優しい女の子じゃないか!」

シンジの叫びを聞いたアスカは嬉しそうな笑顔になってまたシンジに飛びついて抱きついた。

そして、抱きついたままアスカは嬉し涙にむせびながらシンジの耳元で囁くように話し始める。

自分がエヴァンゲリオンのパイロットであること。

ヴィルヘルムスハーフェンを出航して沖合で使徒を倒した後タイムスリップしてこの時代に来てしまったこと。

村人は鬼と恐れて宝物を勝手に放り出して逃げて行ったり、城の侍たちが命を狙って押し寄せてきたこと。

シンジには話の内容の半分ぐらいは理解できなかったが、孤独に陥っているアスカの寂しい心の内は理解できた。

「シンジ、エヴァのエントリープラグにはアンタを乗せられるだけのスペースがあるわ。エヴァで人から遠く離れた場所で一緒に暮らしましょう」

シンジはアスカの言葉に笑顔で頷いて、岩陰で見ていたトウジたちに声をかける。

「……と言うわけで、僕たちは行くことになったんだけど」

アスカに思いっきり肩を抱かれ、赤い顔になりながらそう言ったシンジを、トウジとケンスケは祝福する。

「お二人さん、お幸せにな!」

「町や城の人たちには上手く言っておいてやるよ」

トウジとケンスケに見送られた二人は、赤いエヴァンゲリオンに乗り込んだ。

そして、二人の乗ったエヴァはゆっくりと海の中へと姿を消して行った……。

トウジとケンスケとヒカリは、島にあった財宝を持って、城へと凱旋した。

シンジは鬼と相打ちになって、海へ沈んだとケンスケは綾波の城の殿様に報告をした。

その話を聞いた綾波姫は悲しんで、結婚はかなり遅くになってからだったと言う。

綾波姫はシンジの評判を聞いて、是非付き合ってみたいと思っていたそうだ。

「ちぇっ、おいらが姫さまと結婚できると思ったけど、そうは上手くいかないか」

ケンスケは財宝を元手に商売を成功させ、呉服屋の霧島家の娘、マナと結婚し、トウジとヒカリも呉服屋で働くようになり、それなりに幸せな人生を送ったそうな。

三人は島で別れて以来、シンジとアスカに会うことは無かったが、遠く離れた場所で二人の楽園を作って幸せに暮らしていると信じているのだった。



めでたしめでたし。
多分、弐号機にはS2機関が搭載されていたんでしょう。そう言うことでお許しください(汗