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「『君は2ちゃんねらーか?』と聞かれ、金子被告はむっとした様子だった」
Winny裁判、京都府警のベテラン刑事が捜査の詳細を証言

 ファイル共有ソフトWinnyを開発・公開し、著作権法違反幇助の罪に問われた東大大学院助手・金子勇被告(34)の公判が京都地裁で続いている。著作権制度やP2P技術のあり方など、大きな問題をはらんだ裁判だが、具体的な捜査手順など、事件の本筋にかかわる証言はこれまでほとんどなかった。だが今年1月14日の第7回公判と2月4日の第8回公判で証言に立った京都府警の捜査員は、捜査のそもそもの端緒や容疑者の特定方法、金子被告との生々しいやりとりを克明に証言、捜査の流れの重要な一端が明らかにされた。(文・佐々木俊尚)



金子被告が開いていたWinny配布サイト。K捜査官の証言によれば、金子被告はK氏の目の前でこのサイトを閉鎖した。

■ ■ ■ ■ ■

 本誌は、昨年9月1日に開始された公判のほとんどを傍聴している。これまでに検察側の証人として10人近い捜査官が証言したが、大半は事件の核心や背景に迫るものではなく、ごく些末な細部の確認にとどまっていた。

 だが1月14日の公判では、捜査の中核にいた京都府警の刑事が登場し、捜査の端緒から容疑者特定の手法、その後の金子被告との生々しいやりとりを証言した。当日の法廷では、検察官による主尋問と、弁護側による反対尋問の一部が行われた。以下がその証言をまとめたものである。


経歴20年超のベテラン刑事
Winny配布サイト開設直後に察知


 その捜査官K氏は、1980年に警察官を拝命したベテラン刑事である。京都府警で生活経済課や生活安全特捜隊などに所属。01年、府警にハイテク犯罪対策室が新設されると同時に異動し、以降、ネット犯罪の捜査に専従してきた。

 Winnyの開発が2ちゃんねるで宣言され、配布サイトが開設されたのは02年4月。府警は同月内に早くもWinnyの存在に気づいていたようだ。

 「サイバーパトロールの最中、個人のサイトか何かで『Winnyは便利だ』と書かれているのを見つけ、『何だろう』と思った。すぐに配布サイトが判明し、実際にダウンロードして動作を確認。ユーザー間でどんなファイルが送受信されているのかも調べた」とK捜査官はいう。

 サイバーパトロールとは、捜査官がネットサーフィンし、違法行為が行われていないかどうか調べて回る作業のことらしい。K捜査官は「この種の捜査に携わる捜査官の日常的な仕事で、1日2時間程度はネットを見ている」と話した。

 だが、ここから実際の捜査に至るまでにはかなり時間がかかったようだ。

 「2ちゃんねるでは、映画やゲームなどの具体名を挙げ、『これをお願い』『落とせた。ありがとう』といったやりとりが頻繁に行われていた。検挙するには、誰がファイルを送信可能にしているのか特定する必要があるが、Winnyの特徴から、送信者が意図的に送信可能にしているのか、知らずにキャッシュしているだけなのか判別できなかった」(K捜査官)

 そのころK捜査官は著作権管理団体関係者と話す機会があり、「Winnyが広く使われるようになって、非常に困っている」と相談を受けた。こうしたやりとりの結果、「この問題は看過できないと考えるようになった」という。

 試行錯誤の末たどり着いたのが、WinnyBBS(掲示板)の書き込みから送信者を特定する方法だ。WinnyBBSのスレッドのデータは、スレッドを立ち上げたユーザーのパソコンに保存される。スレッドにアクセスすれば、IPアドレスがわかる。そこで、「これからファイルを流します」とBBSで盛んに告知している人物2人に目を付け、IPアドレスを基に居場所を特定した。

 「捜査態勢上、検挙できるのは2人が精一杯。3カ月にわたってWinnyBBSを見回り、最も長期間、多くのファイルを流している悪質な2人を選んだ」という。

 03年11月27日、2人の逮捕と同時に、金子被告の自宅を家宅捜索した。

 「捜索の目的はWinnyのソースコードの押収。主犯2人の起訴のため、Winnyに本当に公衆送信権を侵害する機能があるか確認する必要があった」(K捜査官)


家宅捜索段階ではあくまでも参考人
捜査官の目の前で配布サイトを閉鎖


 検証にはK捜査官のほか写真担当のA捜査官、警察庁の技官2人、警察庁近畿管区通信局京都通信部の技官1人が同行した。技官の役目は技術的サポートだ。以下、K捜査官の証言を基に構成する。

 東京都文京区にある金子被告の自宅マンションに入ったK捜査官は、
「どのパソコンでWinnyを開発していたの?」
 と聞いた。室内に複数のパソコンがあったからだ。
「これです」
 と金子被告は、ベッドのそばのパソコンを指した。K捜査官が電源を投入し、
「Winnyのプログラムソースはどこ?」
 と聞くと、金子被告はマウスを操作し、ソースのありかを画面に示したという。
「これまでに配布したWinnyの古いバージョンのバックアップはあるの?」
 と聞くと、
「バージョンアップしたものは、全部残してありますよ」
 と答えた。

 検証を続けるうち、横で写真を撮っていたA捜査官が何気なく、
「君は2ちゃんねらーなのか?」
 と金子被告に聞いた。
「金子被告はその質問に相当プライドを傷つけられたというか、むっとした様子だった」
 とK捜査官は証言する。
 K捜査官が、
「君は2ちゃんねらーから神のように思われているんだな」
 と付け加えた。金子被告は、
「あいつらは使うだけの人間ですから」
 と答えたという。
 K捜査官は証言台で、
「私は2ちゃんねらーと被告は仲がいいと思っていたのですが、少し見立てが違っていたようでした」
 と語った。

 現場でK捜査官はさらに聞く。
「君も何かWinnyでアップしてるの?」
「私のWinnyはアップロードできませんから」
「何でアップロードできないの?」
「私の理論ですが、人間には役割があるんです。私はプログラムを作る役割があり、使う人はファイルを共有する役割がある。もちろん自己責任ですけどね」

 K捜査官はやりとりを振り返り、
「ファイル共有という精神を広めるのは私にも理解できたし、考え自体はいいこと、いいアイデアだと思った。だから金子被告がそういう言い方をしたのは、非常に印象的でした」
 と証言している。

 この段階では、金子被告はあくまで参考人だった。K捜査官は
「このときは彼を被疑者にしようという考えは毛頭なかった。プログラム開発者と犯行は全く別で、プログラマーは悪くない、使った者が悪いと思っていた」
 と証言する。

 ただWinnyの開発が今後も続けば、違法行為が拡大する恐れがあった。
「現場検証の前から、金子被告にWinny配布ページの閉鎖を頼もうと思っていた」
 とK捜査官はいう。

 そして検証終了後、K捜査官は、
「Winnyのために著作権侵害が起こっている。配布は止めてくれないだろうか」
 と頼んだ。金子被告は、
「警察が来たら、どうせ止めるつもりだったんです」
 と言って、その場でWinny配布サイトを閉鎖したという。


「『著作権侵害蔓延狙う』の発言は
警視庁本富士署での聴取時」と捜査官


 K捜査官は金子被告に「調書を取らなければいけない」と告げた。金子被告は、
「被疑者としてですか? それとも単なる参考人聴取ですか。京都に行かなければいけないのでしょうか」
 と尋ねた。
「あくまで参考人だよ。それに京都ではなく、近くの本富士署で話を聞きたい。すまないが、本富士署まで来てくれないか」

 そうして金子被告を含む一行は文京区内の警視庁本富士署に向かい、約3時間にわたって調書の録取を行った。
 聴取は主にA捜査官が行った。目的はWinnyの機能の技術的説明を聞くことだったという。途中、A捜査官が取調室の外にいたK捜査官を呼び、
「『今後Winnyを開発しない』という誓約書を書くと言っています」
 と伝えたので、K捜査官は用紙を手渡したという。

 ところがその後、金子被告は、K捜査官らが想像もしなかったことを、聴取の場で語り始めたという。つまり金子被告逮捕の際に捜査情報として報道された、
「著作権を侵害する行為を蔓延させて、著作権のあり方を変えるのがWinny開発の目的だった」
 という論理を、このとき展開し始めたのだとK捜査官は証言する。K捜査官は驚いて京都府警に電話し、上司の警部らに相談した。
「こんなことを言い出したんですよ。どうしたらええんでしょうかねえ」

 だがその場で結論は出ない。K捜査官は「こんな前例のない事件を現場で判断するのは無理」と考え、あくまで参考人聴取として金子被告の言い分をすべて聞き取り、京都に帰ったという。

 証言台でK捜査官は振り返った。
「その日は技術部分などはあまり聞けなかった。被告本人が言い出した重大な内容をきちんと聞いておくべきだと考えたからです。彼の言い出した主張は、私たちにとっても驚くべきものでした」


「『著作権侵害蔓延』は刑事の作文」
弁護側は反対尋問で追及


 2月4日に開かれた第8回公判では、引き続き弁護側がK捜査官に対する反対尋問を行った。その中で、本富士署での事情聴取の際に金子被告が提出した申述書に「Winnyによって著作権侵害を蔓延させた」というくだりがあることが明らかになった。

 「申述書」というのは警察の取り調べの際に一般的に使われる文書様式で、事情聴取を受けた人間が考えたことをそのまま書き、提出する文書のことを指すそうだ。誓約書の書式がわからないと言った金子被告に対し、K捜査官は別室で見本の申述書を書き上げ、本人に手渡したのだという。K捜査官の見本の申述書は京都府警五条署長宛てになっており、冒頭に本籍・住所・生年月日・名前が書かれていた。

 弁護側が反対尋問で追及したのは、この申述書が果たして、本当に金子被告の真意を写し取ったものであるのかどうかということだった。つまり申述書はK捜査官が作成したサンプルをそのまま写させられただけで、金子被告の真意がそこに本当に含まれているのかどうかを疑問視したのである。

 弁護側は、申述書に「Winnyによって著作権侵害を蔓延させた」という記載がある点について、
 「これは金子被告の書いた言葉か?」
 と質問した。これに対してK捜査官は、
 「私がサンプルとして書いた文章です」
 と回答。そして「それまでA捜査官が行っていた金子被告の聴取にずっと立ち会っていたので、その時に彼が使った言葉だったと思う」と説明した。

 だが弁護側は、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)や映画著作権団体の供述調書に再三、「著作権侵害を蔓延させた」という言葉が出てくることから、この「蔓延」という用語はK捜査官の作文だったのではないかと追及したのである。

 K捜査官らは、金子被告宅でWinnyのソースコードなどを11月27日に押収し、参考人聴取した。そしてK捜査官に続いて証言台に立った同僚のT捜査官は、1カ月後の同年12月27日にはこの名目を「被疑者として」に切り替え、再度金子被告に対する聴取を行った、と証言した。

 この段階ですでに同府警は金子被告逮捕に向かって動きはじめていた可能性が出てきた。

 T捜査官は、
 「11月27日の家宅捜索ではあくまで参考人聴取だったので、これを被疑者として聴取した場合にその聴取内容がかわるかどうかを、調べる必要があった」
 と証言した。T捜査官によれば、この聴取の際の金子被告の発言には、
 「自分が(Winnyを)開発したのは、確信犯的だった
  私の狙っていた革命は成功した」
 といった内容が含まれていたという。そしてこの日に再度金子被告宅への家宅捜索も実施し、2ちゃんねるのダウンロード板のログや、その中の「47氏」名目の書き込みなどのデータを押収したという。

 金子被告側は初公判で「著作権侵害の手助けをする意図はなかった」と主張しており、今回の一連の証言と真っ向から対立する。こうした一連の証言に対する被告側の反論も含め、より詳しい事実関係が今後の法廷で明らかにされることを期待したい。本誌は今後も裁判の傍聴を続け、随時報告していく予定だ。


(ASAHIパソコン2005年3月1日号News&Viewsから)



▼京都府警のWinny突破の手法がついに明らかに http://www.asahi.com/tech/apc/040915.html

▼ユーザー置き去りの著作権攻防戦 http://www.asahi.com/tech/apc/040729.html



(2005年2月17日)





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