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社説

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ギリシャ支援―ユーロ安定へいばらの道

 財政危機に陥っているギリシャへの支援策がまとまった。

 ギリシャが厳しい財政再建策を実行することを前提に、欧州連合(EU)のユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)が3年間で1100億ユーロ(14兆円)規模の協調融資を行う。

 ギリシャ国債を大量に保有している欧州の銀行経営がおかしくなれば、世界の金融界に影響が広がる。第2のリーマン・ショックとして、世界経済を混乱に陥れかねない状況だった。ただ、この支援策で当面の波乱は乗り切れても、欧州が抱える根本的な脆弱(ぜいじゃく)さが克服されるわけではない。

 ギリシャの財政削減は成果を上げられるか。ドイツなどユーロ圏諸国の連帯が崩れることはないのか。市場にそうした疑念はなお渦巻く。EUは、ギリシャが財政再建を果たすまで支え続けるほかに選択肢はない。

 この巨額支援に至るまで、欧州は苦悩し、迷走した。

 ギリシャの財政危機が深刻化したのは昨年末。当初から、支援を求められる側のドイツの反応は冷ややかだった。市場はそこを見透かし、ギリシャ国債は暴落。ユーロ全体の信用問題に発展した。2月のEU首脳会議での支援表明でも動揺はおさまらず、ギリシャ国債は大幅な格下げに。結局、IMFの関与まで仰ぐことになり、欧州だけで解決ができないことを露呈した。

 欧州中央銀行(ECB)という一つの中央銀行のもとで、ユーロという単一通貨を持つ。それは、加盟国の経済の実力に最初はでこぼこがあっても、次第に、収斂(しゅうれん)していくことを前提とした仕組みといっていい。

 ギリシャのような強い産業基盤を持たない国にとって重い課題である。通貨を安くして輸出を増やしたり、観光客を増やしたりできなくなるからだ。先行する国々に追いつくためには相当な改革が必要だった。ところがギリシャは努力を怠ったばかりか、統計の粉飾までして巨額の財政赤字を隠した。

 放漫財政で破綻(はたん)しそうな国が救われる。救うのは別の政府をもつ別の国民。一国の中で大都市が過疎地を救うのとは訳が違う。救う側の国民が、簡単に納得できるはずはない。

 だが、基軸通貨ドルに対抗する通貨に育ちつつあったユーロの信頼を保ちたいのであれば、メルケル独首相ら首脳が、ギリシャ支援の必要性を各国民に説得する以外に道はないだろう。

 当面、EUや各国の政治への信頼が、この危機の行方を決めるといっても過言ではない。また、長期的な安定についても、経済がここまで一体化し、後戻りができなくなっている以上、政治統合の進展がカギになる。

 ユーロが危機を脱出し、信頼を取り戻さなければ、日本を含む世界経済も再び大きく揺らぐ。正念場である。

派遣法改正―働き方を正す一歩として

 問題点は少なくないとしても、貧困や格差を是正していくための一歩として役立てる道を考えたい。

 国会で労働者派遣法改正案の審議が進められている。「派遣切り」で仕事を失うと、路頭に迷ってしまう。そんな姿に象徴される不安定な働き方を、どう安定させていくか。そこをしっかりと論じ合うべきである。

 改正案は、派遣労働者の保護と制度の抜本的見直しを掲げる。仕事があるときだけ派遣会社と雇用契約を結ぶ「登録型」は、不安定な働き方の典型だ。これは専門知識が必要な通訳など26業務を除き、禁止される。

 大量の「派遣切り」の背景となった製造業への派遣は、派遣元が1年以上雇う見込みのある「常用型」に限られる。偽装請負のような違法な働き方をさせた場合は、派遣先に強制的に雇わせる「みなし雇用」制度も創設される。「日雇い」も原則禁止だ。

 同法が1986年に制定されて以来、派遣労働の規制緩和が続いてきた。今回の改正は大きな転換である。

 だが、改正案には派遣労働者の側から「形だけで、効果は期待できない」との批判がある。派遣を規制しても請負など別の不安定な働き方に変わるだけだ、という指摘もある。法改正で禁止対象となる派遣社員は約44万人。このうち、18万人が失職する可能性があるという民間研究所の試算もある。

 こうした批判が生まれるのは、改正案が構造的な問題に切り込むことができていないことにも原因がある。

 日本の労働者は約5400万人。非正社員が3分の1を占める。派遣労働者は約200万人だ。

 必要なときに、安く使える非正社員の人たちは、経営側にとっては都合がいい。そこに寄りかかり、労働者間の格差が広がった。

 この状況を抜本的に是正するための議論こそ、国会に期待したい。めざすべき方向は見えてきつつある。

 同じ成果を生む働きについては正社員にも非正社員にも同じ賃金で報いる。そんな「同一価値労働・同一賃金」の考えに基づく賃金方式が欧州で広がってきている。

 日本の社会全体や個々の企業でもそうした方式を実現させていくには、どうすればいいのか。

 企業ごとに正社員の長時間労働を減らすと同時に給与体系を見直し、非正社員との待遇均等化を進める、といった覚悟も問われるのではないか。

 当面は、派遣先企業の使用者責任の拡大や規制強化にどう取り組むかが重要な課題だろう。

 法制化を見越して派遣から請負などに切り替える実態の把握も必要だ。

 すべての労働者が不当な扱いを受けることなく働けるようにするための課題は、山のようにある。

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