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2010.05.04

 中朝首脳会談で支援要請へ 金総書記4年ぶり訪中 5回目 

カテゴリ北朝鮮出典 朝日新聞 5月4日 朝刊 
記事の概要
北朝鮮の金正日総書記が3日、中朝国境を特別列車で越え、中国を訪れた。中国国境の丹東市に着いたのち、リムジン型の乗用車に乗り換えて大連に入った。

今回の訪中で胡錦涛主席と首脳会談し、核問題をめぐる6者協議や北朝鮮への経済支援問題などを協議するとみられる。

金総書記の訪中は06年1月以来4年ぶりで、97年に総書記に就任してから5回目となる。

北朝鮮は昨年11月に実施したデノミ(通貨単位の変更)の失敗で厳しい状況に追い込まれており、6者協議の停滞などで、両国がどこまで問題解決の糸口を見つけられるか注目されている。

北朝鮮で権力の継承作業が進んでいる3男、ジョンウン氏が同行しているかも焦点だ。

北朝鮮は現在、中国やロシアと協力して、東北部の羅津港の近代化や、同港を含む羅先市への外貨誘致を進めている。金総書記が大連を訪問したのは、こうした経済開発の参考にする目的があるとみられる。

また、金総書記は今回の訪中で、中国が議長国を務める6者協議の予備会合案を支持する考えを伝え、北朝鮮の非核化を求める中国に配慮を示すとみられる。

その一方で、見返りとして中国から多額の経済支援を取り付けるを目指す。さらに国連制裁の事実上の緩和につながるような中国の支援を期待している。

韓国政府は3月末に起きた韓国哨戒艦の沈没で、北朝鮮の関与が明らかになれば、6者協議へのプロセス参加を拒否する方針だ。その場合、北朝鮮は今回の訪中で中国との良好な中朝関係を演出する思惑もありそうだ。
コメント
今回の金正日には北朝鮮の護衛部隊(500人)が同行しているとされる。これは金正日が3月末の韓国哨戒艇の報復を本気で警戒している可能性があると韓国の政府関係者が語っている。(この部分、朝日新聞 5月4日付け)

さらに私は、中国で金正日の様態が急変した時、中国の医療施設に収容されることを防ぐためとも推測する。すなわち医療を理由とした中国の拉致を防ぐためである。

今回の金正日の訪中は過去4回にはない危機感に満ちている。

核実験と核放棄の米朝交渉で、アメリカから多額の経済支援金を目論んでいた金正日にとって、アメリカとの交渉は失敗し、こんどは中国から経済支援金を奪うことになるからだ。これからは北朝鮮の瀬戸際外交の相手が中国となった。

中国の強い反対を無視して、核実験を強行した金正日に、中国は易々と北朝鮮の核軍縮(核放棄ではない)に大型経済支援を実施するだろうか。

すでに何度も書いているように、私は3月末の韓国哨戒艇への攻撃は北朝鮮軍部の独走と考えている。金正日の指導力が弱まったので、人民軍や労働党の独走が再開した。特に人民軍の中には、韓国軍を奇襲的に攻撃すれば、成果を上げられると考える軍人が少なくないと思う。それが自分の功績となると信じているのだ。

そのことが金正日を危険な訪中を行う理由に浮上した。これが独裁者の哀れな末期であろう。中国は金正日が援助を乞いに訪中する時を待っていた。

北朝鮮では、今、1年で最も厳しい飢餓の時期である。夏野菜などが収穫できる7月までに、緊急の食糧援助がなければ、大勢の人が飢餓で死ぬ。さらに昨年のデノミの失敗で国民は金正日に対する不信感を強めている。

私が今回の訪中で、金正日の亡命(治療目的と偽装)もあると考えるのは、北朝鮮の国内状況が今までにない最悪になっているからだ。

中国外交術はしたたかである。決して金正日の思うようには振る舞わないと思う。中国がどのように金正日を締め上げるか、その最終幕がいよいよ始まった。
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