「公害の原点」と称される水俣病公式確認から54年を迎えた1日、熊本県水俣市で「水俣病犠牲者慰霊式」が開催され、鳩山由紀夫首相が歴代首相として初めて参列。「公害防止の責任を十分果たすことができず、水俣病の被害拡大を防止できなかった責任を認め、あらためておわび申し上げる」と述べ、患者や遺族に直接謝罪した。式典後には、昨年7月に成立した被害者救済法に基づく未認定患者救済策の申請受け付けも始まった。
焦点となっていた未認定患者の救済策をめぐっては今年3月、国賠訴訟を続けてきた水俣病不知火患者会(原告2500人)と、1人当たり一時金210万円を支払うなどとした熊本地裁の和解案の受け入れで基本合意。被害者救済法に基づく非訴訟派の救済措置方針も4月に閣議決定し、1995年に次ぐ15年ぶりの政治解決が大詰めを迎えている。
慰霊式で鳩山首相は政府を代表する「祈りの言葉」で、「いのちを守るとの基本的な考えのもと、被害者を迅速に、あたう(可能な)限りすべて救済する」と強調。「水俣病問題はこれで終わるとは決して思っていない。教訓を世界に発信していく」と述べ、2013年ごろに予定する国際的な水銀汚染防止条約の採択会議を国内に招致し、「水俣条約」と名付ける政府の方針を表明した。
慰霊式には首相や患者・遺族のほか、小沢鋭仁環境相、蒲島郁夫熊本県知事、原因企業チッソの後藤舜吉会長ら例年を大きく上回る約1100人が出席。この1年間に届けがあった死亡患者27人の名簿を奉納、参列者が献花して冥福を祈った。
患者・遺族を代表する祈りの言葉では、水俣病資料館語り部の前田恵美子さん(56)と吉永理巳子(りみこ)さん(58)が「チッソが被害者より先に解放されることは、無念な思いを抱えて亡くなった父や被害者の気持ちを思うと許せない」と、救済法に盛り込まれたチッソ分社化を批判。後藤会長は水俣病発生の責任を謝罪し「患者への補償は変わることなく継続する」と分社化に理解を求めた。
小沢環境相は慰霊式後の記者会見で、国による不知火海沿岸一帯での健康調査について「最も有効な調査は何か検討したい」と、従来の見解を述べるにとどめた。
=2010/05/02付 西日本新聞朝刊=