コラム

2010年04月28日号

【検察と政治】
本誌編集長「小沢氏と検察幹部が「検察審査会の小沢氏は起訴相当に異議のあることで一致する怪」、法秩序維持を改正検察審査会制度に頼らざるをえないのは実に嘆かわしい」とコメント


●極めて重い検審の議決                               
 東京第5検察審査会は、資金管理団体の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件で、小沢一郎氏について「起訴すべきだ」と議決した。
 東京地検は今年2月、小沢氏を嫌疑不十分で不起訴処分にした。今回の議決を受けて再捜査し、小沢氏の刑事責任を判断することになるが、これは期待できない。幹部の1人が「われわれは、80%有罪でも20%無罪だと思えば起訴しない。証拠の評価が違うということだ」と言ったと時事通信が報じているからだ。「村木元厚労省局長の事案は100%有罪と信じて起訴したのか」と言いたくなる。

  しかし、検察が今後、不起訴にした場合でも審査会が再び「起訴相当」と議決すれば、強制的に起訴される。それだけに今回の議決決定は極めて重いといえる。

 小沢氏は「検察の捜査で不正がなかったことが明らかになった」と繰り返してきたが、国民だとて、良い、悪い、の分別くらいはできる。小沢氏の自己中心的説明に納得するはずがないではないか。
 敵の敵は味方で、検審の議決について小沢氏と検察幹部の評価が一致している。私はこの現象を不可解と評する。検察の1部幹部は造船疑獄の指揮権発動にいきさつについて長い間、国民を錯誤させてきた歴史と同じ現象と思うからだ。

●検審の重視したポイント
 検察審査会が重視したポイントは、小沢氏の元秘書で政治資金収支報告書を偽ったとして起訴された元会計担当秘書の石川知裕衆院議員らの検察官に対する供述だ。
 石川議員は土地代に充てた4億円の出どころを隠す目的で、04年分の収支報告書に記載しないことなどを小沢氏に相談した−との内容である。
 検察は小沢氏を聴取した結果、不正の指示などの共謀関係を立証できないとして不起訴とした。
 小沢氏は「収支報告書を提出前に確認せず、担当者が真実を記載していると信じて了承した」と供述している。しかし審査会は「極めて不合理で不自然で信用できない」と認定した。
 踏み込んだのは、土地代支払い後に金融機関から同額の4億円の融資を受けたことだ。「土地代を隠すための執拗(しつよう)な偽装工作」と認定した。そのうえさらに、土地代金を全額支払っているのに、土地の売主との間で不動産引渡し完了確認書(04年10月29日完了)や05年度分の固定資産税を陸山会で負担するとの合意書を取り交わしてまで本登記を翌年にずらしている。
 上記の諸工作は被疑者が多額の資金を有していると周囲に疑われ、マスコミ等に騒がれないための手段と推測される、とまで断じられた。

●検審審査員の公憤
 検察審査会は「絶対権力者である小沢氏に無断で、秘書らが資金の流れを隠ぺいする理由はない」とし、共謀関係が成立することは可能であると結論づけた。

 議決は「『秘書に任せていた』と言えば政治家本人が責任を問われなくていいのか。市民目線からは許し難い」とも付言した。田中角栄、金丸信氏から受け継いでいる小沢氏の金権政治に対する公憤であろう。

 小沢氏は議決を受けて、記者団に「何らやましいことはない」と幹事長を続投する考えを強調した。鳩山首相も、続投を容認する意向を明らかにした。無理が通れば道理が引っ込む。こんな2人を国民が支持するとは考えにくい。

 検察審査会は「秘書に任せていたと言えば、政治家の責任は問われなくて良いのか」「政治家とカネにまつわる政治不信が高まっている状況下、市民目線からは許し難い」と断じた。これらは多くの国民共通の思いである。

●実に嘆かわしい検察幹部の姿勢 
 時事通信の報じる「検察首脳の1人は「想定していた」とした上で、「共謀はあるとしても、罪を問えるほどのものなのか。どういう共謀なのか具体的な指摘がないのに、起訴できるという指摘ばかりしている。『小沢氏はけしからん』という気持ちがあるのかもしれない」と話した。」は国民共通の思いを無視するコメントである。
 検審は「共謀に関する諸判例に照らしても、絶大な指揮命令権限を有する被疑者の地位とA、B、Cらの立場や上記の状況証拠を総合考慮すれば、被疑者に共謀共同正犯が成立するとの認定が可能である。」と言っているからだ。
 どんな共謀か、というが、共謀したと判断されないように仕向けるため、「議員秘書の行動原理」が存在しているのである。
 議員秘書の行動原理とは、「議員が、『知らなかった。聞いていない。覚えていいない、秘書を信用して任せていた』という議員の釈明が通用するよう『秘書が束になって壁になる』という趣旨」の歯止め策だ。そんな原理があるほど我が国の政治は腐敗しているということだ。だから、鳩山首相のお母さんも心配したのであろう。

 陸山会事件のポイントは「議員と秘書の共謀」ではなく「解散時の帰属先の決まりのない政治団体陸山会が陸山会の資金で土地を購入した」ことである。検察首脳の1人は「議員秘書の行動原理」でどんな共謀をしたのか、は秘書は絶対に言わない、ことを知らないのだ、と私は思う。

 ともあれ、検察を信用できず、改正された検察審査会制度に頼らなければ「法秩序が護れない」というのは実に嘆かわし現象である。


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