隠れた日本語熱は、大学の講座がないにもかかわらず一時期、ロシアの日本語能力試験で上位に来るほどであったが、入学から卒業までこの地にとどまって教えてくれる人がいなければ講座は開設しないという。慎重な姿勢からは真剣さがうかがえる。
サハリンに強制移住させられた子供たちの中には一時期、日本の人たちと一緒に遊んだ記憶をとどめている人もおり、その頃、サハリンにいた日本人と交流したいと何度も聞かされた。日本製の鋸を大事に使っていて見せてくれた人もいる。
また、現在は日本と仏教団体同士での交流も盛んに行われているようである。
400年の節目と展望
400周年のイベントで掲げられた「統一されたロシアの統一されたカルムイク(Единая Калмыкия в единой России)」というテーマは、一見、よく分からないが、プーチン首相率いる政党「統一ロシア(Единая Россия)」が意識されており、「統一ロシア(という政党が持つ政権)の中で統一されているカルムイク」と読めなくもない。
以前と比べて中央の権力が圧倒的に強くなった現状において、中央への媚びの表れと取ることもできる。
ソ連崩壊以降、世界に散らばったカルムイク人たちはコンタクトを持ち、盛んに交流を始めた。民族の伝統を復活すべく、言語の教師や音楽家が新疆からやってきたり、米国に住むカルムイク人から本国のカルムイク人への奨学金をはじめとした様々な援助がなされたり、自民族の価値観を知る花嫁を探しに各地のカルムイク人がやって来たりしている。
ただこれらの動きは、社会・文化的な動きにとどまり、経済的な動きにはなっていないのが現状である。
18~19世紀以後、ロシア・ウクライナ移民に侵食され、痩せた土地が残された彼らであったが、カスピ海沿岸の石油開発では恩恵を被ることになりそうである。2008年8月シェルとカルムイク共和国の間で包括的協力協定を結び、カスピ海上を含むエリアで探鉱、開発を共同で行うことに合意した。
かつてソ連とイラン2カ国の海であったカスピ海は、ソ連の崩壊でトルクメニスタン、カザフスタンができた。あまり認識されていないが、ロシア領のカスピ海岸はダゲスタン共和国、カルムイク共和国といった民族共和国が存在し、これらを除くと「ロシア人の土地」と思われているのはボルガ川両岸のアストラハン州の狭い地域のみである。
そのような土地で周りを圧倒的な数のイスラム教徒やキリスト教徒に囲まれながらも、400年間、カルムイク人たちはそのアイデンティティーを保ち続けた。その間多くの優れた軍人を輩出し続け、なおも武勇で名高いことを誇りとしている。
1943~57年の強制移住は非常に大きな危機をもたらしたが、逆にその共通の経験が今、彼らを強く結びつけている。イリュムジノフが出てきた背景にも恐らくこの経験があるだろう。復活した彼らが容易に融解するようには思えない。
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