池田信夫 blog

Part 2

UHF帯の周波数割り当てが見直される見通しになったので、これまで当ブログで書いてきた問題をまとめておこう。次の図は現在のUHF帯の周波数割り当て(クリックで拡大)だが、最大の焦点である770~806MHz以外にも多くの非効率な割り当てが行なわれている。

uhf

最大の無駄は、地デジに割り当てられる470~710MHzである。テレビ1チャンネルは6MHzなので、これは40チャンネル分だが、テレビ局の数は最大の首都圏でも10局しかないので、本来は470~530MHz(13~22チャンネル)ですべての放送ができる。それがこのように大きな帯域を占有しているのは、中継局に別のチャンネルを使っているからだ。

しかし地デジの変調方式(OFDM)では、このような配分は必要ない。ブラジルでやっているSFNという技術を使い、中継局を光ファイバーで結べば、10チャンネルには60MHzでよいのである。2012年からの移動で全国の局を22チャンネル以下に集めれば、530~806MHzの276MHzを空けることができる。

さらに710~730MHzは、ITS(高度道路交通システム)に割り当てる予定だが、その実証実験はほとんど進んでおらず、特に目玉となっていた「車車間通信」は実現していない。基地局と通信するなら、5.8GHz帯にITS用の周波数があるので、それを使えばよい。この割り当てはまだ正式決定していないので、政府が決めれば携帯に割り当てられる。

もう一つは、850~860MHzと905~915MHzに割り当てられているMCA無線である。これは「移動無線センター」という財団法人によって運営されており、常勤理事5人のうち3人は総務省(旧郵政省)からの天下りだ。利用者数は非公開だが、30万人を下回っていると推定される。これは200MHzを1億人以上が使っている携帯電話の周波数効率の1/40である。この用途は運輸業などの業務用無線で、携帯電話で代替できる(最大のユーザーだったヤマト運輸は、MCAから携帯に切り替えた)。

これ以外にも地域防災無線やパーソナル無線など、ほとんど使われていない帯域があるが、大きいのは以上の3つである。これらをすべて汎用の無線に開放するビッグバン的な再編を行なえば、530~950MHzの420MHzが利用可能になる。FCCの掲げる「5年以内に300MHzの電波を開放する」という目標は、日本では2年で実現できるのだ。このとき既存の免許人には、たとえばMCAにはMVNOとして携帯のサービスを行なう権利を与えるなど、移行措置をとればよい。

この改革には、税金はまったくかからない。むしろ周波数オークションや第二市場を導入すれば3兆円以上の国庫収入が上がり、テレビ局などの「引っ越し費用」をまかなって余りある。無線通信の実効速度は帯域に比例するので、400MHz以上あればFTTHと変わらない100Mbps級の高速通信が可能である。今後のブロードバンドの主流は無線であり、FCCをはじめ各国は競って電波の開放を進めている。「成長戦略」と称する産業政策より、このような規制改革のほうがはるかに成長率を高めるだろう。

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コメント一覧

  1. 1.
    • blindconsumer
    • 2010年05月02日 10:40

    電波を独占して一日中視聴率10%未満の番組を垂れ流している某放送局とか、国家的損失です。

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