2010年4月30日
中学生を前に戦争体験を話すワセック・ジャシムさん(左)と通訳を務めた高遠菜穂子さん=吹田市立第一中学校、竹花徹朗撮影
イラク戦争開戦後の2004年11月、6千人以上が死亡した米軍の「ファルージャ総攻撃」。連夜の空爆と砲撃で壊滅した街の住民で、市民団体の招きで来日中のイラク人中学教師ワセック・ジャシムさん(30)が27日、吹田市立第一中学校の国際理解の授業で体験を語った。ワセックさんは「戦争は憎しみしかもたらさない」と訴えた。
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「イラクの子供たちも皆さんと同じように夢を持っています」。ワセックさんは約650人の生徒たちに、教え子が描いた絵をスライドで見せながら思いを語った。通訳は、04年4月、イラクの支援ボランティア中に武装勢力に一時拘束された経験があり、その後も活動を続ける高遠菜穂子さん(40)が務めた。
血を流す我が子を抱く母。横たわる子どもの遺体。平和の象徴の白いハト――。「絵に描かれているのは、イラクの子らの心の中です」。ファルージャでは、住民の多くが親族を殺害された経験を持つ。英語教師のワセックさんは、憎悪を抱えた教え子たちに、あえて記憶を絵で表現することを勧め、平和的に物事を考える大切さを伝えていると語った。 ワセックさんは総攻撃直後、住民代表として遺体袋を米軍から引き取るため廃虚になったファルージャに入った。身元確認で目にしたのは、焼け焦げた無数の遺体。「1カ月間、食べることも寝ることもできなかった。こびりついたにおいを消そうと何千回も手足を洗った」。においの記憶は5年を経た今もよみがえるという。
吹田の生徒たちはイラク戦争開戦時は5〜8歳。戦争の経緯は事前学習で学んだ。
授業を聞いた1年生の大倉涼さん(13)は「怒りをぶつけるのではなく、苦しみを繰り返さないと願う気持ちが印象的でした」。3年生の長澤采佳(あやか)さん(15)は「どうすれば平和が実現するのか、一緒に考えたい」と話した。
この日の午後には和泉市立郷荘中学校でも授業をした。ワセックさんは「日本の中学生との素晴らしい出会いを、ファルージャの教え子に伝えたい」と話していた。(武田肇)
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《キーワード》ファルージャ総攻撃
2004年11月、イラクを占領下におく米軍が「反米抵抗活動」の拠点とみなした同国中部のファルージャで掃討作戦を展開。1週間で民間人を含む約6千人が死亡し、約3千人が行方不明になった。在沖縄海兵隊が作戦の主力となり、非人道的兵器として国際的批判のある「白リン弾」が使われたとされる。