農場に隣接する敷地では処分されたウズラを埋める作業が進められていた=2日午後2時28分、愛知県豊橋市、本社ヘリから、飯塚晋一撮影
どうしてウズラばかり――。愛知県の鳥インフルエンザ問題で2日、実際の症状はないものの、周辺のウズラ農家のウズラから、抗体検査や遺伝子検出検査で陽性が相次いで確認された。従来のニワトリに加え、初めて行った調査で発覚したウズラの感染。県も地元農家も、不安と戸惑いの中で手探りの対応が続いている。
「正直言って先が見えない」。鳥インフルエンザを担当する愛知県農林水産部の幹部は2日夜、この日2度目になった会見の後、ため息をついた。
2月27日に判明したウズラの鳥インフルエンザ感染は、国内では初の事例。なぜ、愛知県はウズラを調べたのか。
農林水産省によると、日本では養鶏場での感染が一般的だったが、06〜07年にかけて韓国のアヒル飼育場で感染が相次いだほか、日本では07〜08年、野鳥での発生が確認された。このため同省は08年、モニタリング調査の方法を改めた。
調査対象を従来の「1千羽以上の鶏の採卵農場」から、「100羽以上の家禽(かきん)を飼育するすべての農場から抽出」に変更。家禽は鶏だけでなく、ウズラやキジ、ダチョウ(10羽以上)と7種類に拡大した。愛知県の調査対象は全部で28戸。農水省と調整した結果、県が国内生産量の7割近くを占めるウズラ卵の農家3戸を2月25日に初めて調査した。
その結果、1戸でウイルス感染が判明した。愛知県にとって初めての経験だ。農水省と連絡を取り合い、国が定めた鳥インフルエンザに関する防疫指針を参考に、卵や肉の移動制限区域を定めたり、現場を洗浄したりと防疫作業を続けている。
これまでに移動制限区域内のウズラ農家8戸、鶏の卵農家10戸、鶏肉農家4戸、アイガモ農家2戸で様々な検査を実施してきたが、陽性が出たのはすべてウズラ農家。だが、「どうしてウズラばかりなのか分からないし、評価も専門家に委ねるしかない」(畜産課)。現場の対応に精いっぱいだ。
■「どう防げば」悩む農家
最初に鳥インフルエンザウイルスが検出された農場の経営者の男性(68)は「衛生管理や野鳥対策は徹底してきた。何が悪いのかまったくわからない」と首をかしげる。
飼育場全体を金網で覆い、野鳥やスズメも入れないようにしている。飼育場に入る際は必ず靴を履き替えさせ、飼育場は消毒液の噴霧などを徹底している。エサもほかの農家同様の市販品を使っている。
ウズラは通常、採卵のため1年間程度飼われる。男性は採卵が長くでき、体力の強いウズラになるよう改良を重ね、飼養期間を延ばすとともに大規模化を図ってきた。それだけ効率的な生産ができる半面、鶉舎(じゅんしゃ)内のウズラの「密度」は相対的に高まるという。男性は「(改良が鳥インフルエンザに)影響しているのかどうかはまったく分からない」と話す。
地域の模範的なウズラ農家として、昨年から県がモニタリングを始める際、率先して引き受けた経緯がある。ウズラが弱るなどの症状を呈しているわけではないだけに、割り切れない思いも残る。
「ウズラはニワトリより野生に近いし、生態も違う。一律の扱いはおかしいのではないか」とも話す。
2日に陽性反応が出た農場。経営者(63)は「まさかと思った。最終的に陰性という結果が出てほしいが」と肩を落とす。
この農場も同様に、対策を徹底してきた。ヒナから育てており、約20万羽を飼う上、周辺の農場などにヒナを供給している代表的な農場。雌雄の鑑別、飼料生産との一体化など先進的な経営で知られている。
「ウズラに広く常在しているウイルスが、何らかの理由で個体間を行き来するうちに、変異したのではないか。もしそうだとすると、どう防げばいいのか」と頭を抱える。
2日夜に県が「血清抗体検査は陽性で、ウイルス分離検査では陰性の事例があった」と発表したことについて、この経営者は「ウズラの感染の検査が難しいことを示唆しているのではないか。調べれば調べるほど、同様の事例が出てくる可能性があると思う」と話す。