取材に応じるカティヤ・サワディポン陸軍少将=4月29日、バンコク、藤谷写す
【バンコク=藤谷健】多くの死傷者を出したバンコクの騒乱で、衝突ごとに現れる武装集団がいる。目だし帽をかぶった黒ずくめで、銃を撃つ姿が確認されている。タイ政府はタクシン元首相派に加わるテロリストだとし、陸軍将校らの関与を指摘するが、名指しされた本人は事実無根と反論。実態は謎に包まれる。
「再び、黒シャツが現れた」。1人が死亡した4月28日の治安当局と元首相派の衝突の2日後、地元メディアは短銃を持った黒ずくめの男を一斉に取り上げた。衛星ニュース局が撮影した映像に、街路の茂みに隠れて銃を構える男の姿が映っていた。
黒シャツの存在が初めて注目されたのは日本人ジャーナリスト村本博之さん(43)ら25人が死亡した10日の衝突。混乱の中で撮影された複数のビデオに、防弾盾を持って群衆の中を移動し、電柱の陰から自動小銃を撃つ複数の男の姿が確認された。
治安当局は、黒シャツが元首相派に紛れていたとし、兵士らを狙い撃ちしたと非難、容疑者の顔写真を公開した。一方、元首相派は容疑者とされた男性を伴い記者会見を開き、でっちあげと反論した。
複数の治安当局筋によると、武装しているのはレンジャー部隊と呼ばれる民兵の出身者と見られる。陸軍に雇われた非正規兵で、国境地帯などの紛争地帯に配備され、小銃や砲弾など武器の取り扱いにたけている。
これを統率しているとされるのが、元首相派を支持するカティヤ・サワディポン陸軍少将。同少将は朝日新聞記者の取材に応じ、10日の衝突の際、武装集団が元首相派側にいて銃撃をしたことなどは認めたが、「(黒シャツの)存在はまったく知らない」と述べ、自らの関与を否定した。
ただ、同少将は武装集団が一昨年以降、反タクシン派を複数回攻撃してきたと指摘するなど、内情に詳しいことから、何らかの関係があるのはほぼ間違いないと見られる。