きょうの社説 2010年5月3日

◎「熱狂の日」 地域の魅力奏でる音楽祭に
 ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭は3年目を迎え、北陸の黄金週間を盛り 上げるイベントとして、すっかり定着したように思える。

 最初は覚えにくかったネーミングも、いつの間にか、多くの人が自然に口ずさみ、多彩 なプログラムから気に入った会場を選び、演奏を気軽にはしごする。機会があればクラシックを聴いてみたいという潜在的な層を掘り起こし、聴衆のすそ野も広がった。音楽を受け身でなく、積極的に楽しもうとする姿が印象的である。

 今回のテーマはショパンを中心に、同時代を生きたメンデルスゾーン、シューマン、リ ストを加えた4人である。今年はショパン生誕200年に当たり、ラ・フォル・ジュルネを開催する国内外の都市がショパンで足並みをそろえた。音楽界の天才をしのぶ世界的な節目を一流の奏者を迎えて共有できるのも感慨深い。

 金沢では開館間もない、しいのき迎賓館をはじめ、まちなかでの公演が充実した。能舞 や邦楽との共演など金沢の独自プログラムも評価が高まっている。新しいイベントに土地の色を加えて根付かせていくのも都市の力である。官民一体で支援し、地域の魅力を奏でる音楽祭に育てていきたい。

 仏ナント市発祥のこの音楽祭は、国内では2005年に東京、08年からは金沢を中心 とする北陸で始まった。金沢の成功を受け、今年は新潟や大津市も開催地に加わった。

 100万人規模の東京には及ばないものの、金沢は最初が8万4千人、昨年は9万3千 人と来場者を伸ばし、10万人規模の祭典に成長する勢いである。オーケストラ・アンサンブル金沢の拠点という知名度に加え、開催を重ねるなかでクラシックも金沢の文化というイメージも浸透していくだろう。

 金沢には東京国際フォーラムのような巨大な会場があるわけではない。都市全体を一つ の音楽ホールに見立て、街の景観や歴史的なたたずまいなども音響の仕掛けにする演出が欠かせない。

 音楽祭は3日から佳境に入る。クラシックの余韻に浸りながら新緑の街に繰り出せば、 地域の新たな魅力に気付くかもしれない。

◎国民投票法施行 いつまで続く政治の怠慢
 憲法改正手続きを定めた国民投票法が公布から3年を経て、今月18日に施行される。 国会が憲法の見直し案を国民に示すことが法律上可能となり、憲法論議は新たな段階を迎えるが、改正が現実的な政治テーマになる気配はない。

 法成立を受けて衆参両院に設置された憲法審査会は一度も開催されず、施行までに予定 されていた関連法の整備なども進んでいない。宿題の多くを積み残したまま、憲法を見直す重要な法的基盤が施行される状況は、政治の怠慢と言われても仕方ないだろう。

 民主党が目先の政権運営に右往左往し、政権交代とともに憲法問題はさらに政治の後景 に追いやられた印象がある。参院選を7月に控え、民主も自民も選挙に勝つことに必死である。63回目の憲法記念日が映し出すのは、憲法を論じ合うエネルギーも生まれない政治の停滞、混迷ぶりである。

 日米同盟や地域主権、地方参政権問題など、憲法の理念に沿って議論を深めるテーマは いくつもある。国民投票法の施行は、国会議員の憲法への考え方を問う大きな意味をもつはずである。懸案をいつまでも棚上げせず、施行を議論の前進につなげる努力がほしい。

 国民投票法の施行が3年後になったのは、関連法の整備などを進めるためである。投票 権は18歳以上になり、付則では成人年齢や選挙権年齢を18歳に引き下げる検討を求めた。公務員の投票運動の在り方や国政の重要課題も国民投票の対象にするかどうかも課題だが、議論は始まっていない。衆院は昨年6月、憲法審査会の委員数などを決める規程を自公両党が野党の反対を押し切って議決したが、参院は規程すらない。

 民主党の憲法調査会は国民投票法成立後に自然消滅した。護憲、改憲両派を抱える党内 事情や、連立を組む社民党への配慮もあるのだろうが、議論の場も設けずに責任政党と言えるだろうか。この3年間、何もできなかったわけだから、国民投票の環境整備は今後も先延ばしされる懸念が拭えない。与野党は施行という大きな節目に真正面から向き合う必要がある。