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文/石平(作家・評論家)
4月23日放送のNHKの『Bizスポ・ワイド』という番組を見て、思わず噴き出したことがある。
中国経済の行方を討議するような場面で、ゲストである元財務官僚の榊原英資氏の口から、あまりにも「面白い」珍説が聞かれたからである。
番組は現在の中国の「経済繁栄」を大いに喧伝した後に、不動産バブルの問題を取り上げてその実態を報じた。その時、キャスターを務める女性の一人は、「榊原先生はどう思いますか」と、質問を榊原氏に振ったのである。 榊原氏はいつものような物知りの顔をして「これは完全にバブルですね」とコメントした後に、次のようなことを付け加えた。「しかし中国には、バブルがあっても良いですよ。バブルをやりながら経済を成長させることができるから、これからもどんどん成長しますよ」と。 テレビの前でこのコメントを聞いて、私はもう呆れた思いである。榊原氏はここではまず、中国の不動産バブルを評して「これは完全にバブルですね」との認識を示した。ならば、彼は経済の専門家としては本来なら、中国のバブル経済の問題点やバブル崩壊の可能性などについて論評しておくべきところであろう。が、榊原氏はこのようなコメントをいっさいせずにして、むしろ「中国にバブルがあった方が良い」といった意味不明の「バブル擁護論」を吐いたのである。 それはいかにも可笑しな論調であろう。バブルを一度やった日本の苦い体験からしても、リーマンショックの後のアメリカの失敗からしても、不動産バブルというのは一国の経済にとっての癌であることは明らかである。バブルが必ず崩壊するというのは歴史の法則でもある。だから、どこの国にとってもバブルは決して良いものではない。バブルに走ってしまった経済は必ず躓くものだ。勿論、中国にとってもそれが例外であるはずもない。悪いものはやはり悪いなのである。 しかしどういうわけか、榊原氏の論においては、日本や米国では「悪いもの」であるはずのバブルは、それが一旦中国のものとなると逆に「良いもの」だと評価されてしまうのである。この日本国の元財務官僚の目には、中国のバブルでさえ可愛く見えてくるのだろうか。 実はそれは榊原氏だけのことでもなく、むしろ日本のマスコミによる中国報道の一般的傾向である。とにかく中国のこととなると、悪いものでも良いものであるかのように褒め讃えられ、悪いことでも良いことのように吹聴されるのである。「中国は良い、中国は素晴らしい!」といったところの中国賛美論を流布させて「中国神話」を作り上げていくことは日本のマスコミの最大の使命となっているような観である。逆に、中国のことを批判したり中国の問題点を指摘したりするような論調はほぼ自動的にこの世界から排除されている。 榊原氏もおそらく日本のマスコミの好みをよく知ったうえで上述の馬鹿げた「バブル賛美論」を何気なく口にしたわけであろうが、専門家の口から吐かれたこのような曲学阿世の論は逆にマスコミの「中国賛美」を増幅させ、「中国神話」の構築に大いに貢献しているわけである。 このカラクリによって騙されているのは結局一般の視聴者となる日本の国民であり、「中国神話」を信じて中国というブラックホール莫大な財を投じていく経営者や投資家たちであろう。 日本のマスコミの罪は、やはり深いものであると思う。 ※本コラムは、青山繁晴、宇田川敬介、小野盛司、河内孝、櫻井よしこ、すぎやまこういち、石平、西村幸祐、廣宮孝信、藤井厳喜、三橋貴明、渡邉哲也らのコラムニストが執筆し、毎日更新されます。