タイ:タクシン派占拠の都心部、テレビで首相「奪還する」

2010年4月25日 15時29分 更新:4月25日 22時52分

 【バンコク西尾英之】タイのアピシット首相は25日朝放映の政府系テレビ局のインタビュー番組に出演し、タクシン元首相派「反独裁民主戦線」(UDD)が占拠するバンコク都心部繁華街を「奪還する」と強調した。国民に対し、再度の軍による実力行使でUDDを排除するとの強硬姿勢を示したものとみられる。しかし「重要なのは占拠場所の奪還だけではなく、国全体の正常化」とも強調。軍が実力行使に踏み切り再び多数の死傷者を出す事態となれば、タクシン派による抗議行動は国内全体に広がり、内乱一歩手前の状態に陥りかねない。首相の発言は政府の手詰まり感を強くにじませるものとなった。

 首相は占拠地の奪還へ向けた決意を強調する一方、手段や時期については「さまざまな要素があり、明らかにできない」と述べた。

 首相は死者25人を出した10日の衝突や、1人が死亡した23日のシーロム通りへの砲弾撃ち込みについて、「UDD側がこれほどの武力を用意しているとは予想しなかった」と述べ、政府の見通しに甘さがあったと認めた。

 さらに両事件に、軍内部の処遇に不満を抱きタクシン派に接近したカティヤ陸軍少将らが関連したと、初めて名指しで指摘した。

 カティヤ氏は銃や爆発物の扱いに慣れた元軍人などで組織された民兵組織を率い、これまでも政府機関などへの砲弾撃ち込み事件などに関与が指摘された。だが政府は同氏の影響力を恐れて民兵組織の壊滅などに本格的に取り組まず、今回も首相はカティヤ氏の関与は指摘しても、氏の勢力にどう対応するかを明確に打ち出すことはなかった。

 首相が占拠地「奪還」を強く打ち出した背景には、今月3日から続くUDDの繁華街占拠で商業施設が長期間の休業を迫られ損失が拡大しているほか、外国人観光客の減少など経済への悪影響が広がっていることがある。

 一方、08年にバンコク国際空港占拠事件を起こした反タクシン派「民主市民連合」(PAD)が今週から、UDDに対抗する活動を開始すると宣言。UDD(赤シャツ)でもPAD(黄色シャツ)でもない一般市民の「多色グループ」も連日、大規模な反UDD集会を開き始めた。

 UDDによる占拠を放置すれば、今後UDDと反タクシン派が衝突する事態も起きかねない。首相は「政府は『多数派』の声を聞かなければならない」と述べ、今後UDDと「議会解散時期」を巡る交渉は行わない方針を明確にした。

 25日の番組には、軍の再度の実力行使に反対していた陸軍トップのアヌポン司令官も出演。「軍内部に意見の違いはあるが、我々は国民と王室を守ることが使命であり、政府の決定には従う」と述べ、命令があれば軍は再び実力行使に踏み切ることを強調した。

 司令官の番組出演には政府と軍が一枚岩であることを強調する狙いがあるとみられるが、23日に強制排除への反対姿勢を明確にしたばかりの司令官が態度を一変させたことは、逆に軍のこの問題に関する姿勢の不安定さを印象づけた。

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