1. 「実は国には資産がいっぱいあるから問題ない」という意見
政府債務はたしかに大きいが、資産も負けずに大きいので心配はいらない、という意見があります。
三橋氏の著書によれば、政府には金融資産だけで470兆円もあるそうです。が、この多くは過去の年金積立金だったり外貨準備だったりするので、そう簡単に国債の償還に使ってよいものではありません。
そもそも、それだけ資産があったとしても、普通国債の残高だけで、すでにこれよりはるかに大きいですし、非金融資産にはろくなものがありません。非金融資産では税金の無駄遣いの見本のようなハコモノがたくさんあるはずです。ひょっとしたら皇居や歴史的建造物も国有資産として計上されているかもしれませんが、もちろんそれを換金目的で売ることなどできるわけがありません。
政府資産にはそれなりの額があるのは事実ですが、負債ははるかにそれより大きく、債務超過状態なのは明らかです。上場企業の場合、債務超過は一定期間続けば上場廃止になりますし、当然そのような企業の株価はクズのような値段しかつきません(誤解がないように言っておきますが、民間の資産を含めての日本の総資産ではなく、政府資産についてです)。
しかもおそらく、非金融資産は過大評価して計上しているに決まっています。総額で何百兆円にもおよぶいろいろな資産を正しく査定するのはもともと無理な話な上に、政府としては資産を大きく評価しておきたいバイアスがあるからです。
すでに破綻したJALも、2008年に行った増資の際には資産を過大に評価することで財務内容を実態より良く見せていた(破綻してから発覚したことですが)、ということを忘れてはいけません。バランスシート上の資産というのはかなり操作できる代物なのです。
ちょっと脱線しますが、このJALの増資を主導した人たちはかなり悪質だと思います。JALの保有する航空機等の資産価値を過大に評価するなどして1000億円以上の増資をし、そのわずか1年半で破綻したのですから、これに応じた投資家から見れば詐欺同然です。いま見れば、ホリエモンより10倍は「黒い」経済事件でしょう。ライブドアは司法の手で潰されるのにこのような事件は放置というのは、この国がいかにアンフェアにできているかの証拠と個人的に思います。
2. 「国内で賄っているから破綻しない」という意見
国債を国内で賄っているから破綻しない、という意見もよく聞きます。
国債の保有者は、半分くらいが国内の銀行(郵貯含む)です。年金や保険会社も入れれば7割くらい、日銀も入れると85%くらいになります。銀行は国民の預金を原資に国債を買っており、納税をとおして返済義務を負うのもやはり国民なので、結局自分が身内に貸しているようなものだから実質的な負債ではない、という論理ですね。
これは日本が閉じた世界であれば正しいです。これは国民全体としては確かにそうですが、それを構成する個人や企業の単位では日本国民から離脱可能であることを忘れています。国債残高が積みあがるということは将来の増税が予想されるということなので、皆が合理的に動くならば、増税が既定路線であるならば、資産家や稼ぐ能力を持った優秀な個人や会社からどんどん税金の安い海外に脱出するでしょう。僕もたぶんそうします。
世界的に見ても、これだけ巨額の負債を国内で消化している政府は日本しかありませんし、ほとんどゼロの金利しかつかない銀行預金(300万円を普通預金で1年預けても牛丼1杯すら食べれません)をせっせと積み上げている国民も日本人だけと思います。この、日本が相当に閉鎖的な社会である特殊性が現在の異常な状況を作ってしまったといえます。
本来なら、財政が危なくなれば国債の金利も上がってしかるべきなのですが、そうはならないのは
・まともな資産運用を考えず、低金利の預金を進んでする国民の極端なリスク忌避、もしくは金融知識の欠如
・この状況に至っても無節操に国債を買い進めた銀行
が共同戦犯といえると思います。とくに銀行は金融のプロなわけですし、政府に対して「ちゃんとした規律のある財政運営をしないならこれ以上国債は買わないぞ」と脅しをかけるくらいの意識が必要と思います。銀行というのはそれくらいの社会的責任がある機関だと思います。
現状は、銀行が預金の運用先が乏しくて困っているからこそ成り立っているのです。
たとえばもし、東京で大地震が起きて莫大な復興需要が発生する、というような事態が起きると、皆が預金を取り崩す上に政府支出も増えるので、金融機関でも国債を買い切れなくなるかもしれません。大地震をきっかけに財政破綻へ向けて一気に進むというのはありうるシナリオと思います。
次に「いざとなれば日銀が国債を引き受けるから大丈夫」という意見について反論します。