民主党政権が大揺れに揺れています。野党自民党にとっては盛り返しの好機のはずですが、やはり迷走を。二大政党がかげろうのように見えます。
戦後初めての本格的な政権交代から七カ月、鳩山内閣の支持率は七割から二割台へ急降下です。
政官癒着の排除、外交密約の公開、教育支援など成果を挙げましたが、多くの難題を抱えもたついているからです。
とくに普天間飛行場の移設問題は政権の屋台骨を揺るがしかねません。五月末までに決着と首相自ら期限を付けましたが、公約の「最低でも県外移設」の見通しは明るくありません。
◆稚拙な国家運営
米軍基地問題は、日本や米国の安全保障、地元や移設先の利害など複雑な問題がからみます。
その深刻さへの認識が薄いのか首相の言葉の軽さが混乱の原因になっています。
民主党は「生活第一」「コンクリートから人へ」が公約です。その方向はいいのですが、個々の政策や実施方法が稚拙です。
長年の自民党政権は、米国を背景に置いて政官業連携の巨大な仕組みで、国家を運営しました。
これに対し、民主党は「政治主導」の旗印の下に国家を運営しています。しかも内閣と党がしっくりいっていません。
また首相をはじめほとんどは閣僚経験や行政経験がないこともあってとまどいが見られます。
自民党時代の仕組みに戻すのは論外ですが、官僚をうまく使うことも含め、時代を乗り切る統治の仕組みが必要です。
政権公約(マニフェスト)も国民受けを狙った政策の羅列です。福祉や生活の安全網設置は緊急の課題ですが、低成長時代の財政出動にはおのずと限界があります。現実をふまえてきめ細かく見直した方がいい。「大きすぎる政府」は将来に禍根を残します。
◆深刻な指導者不足
さて、自民党です。鳩山政権の迷走は、党勢挽回(ばんかい)の好機です。
ところが、参院選を目前にしてくしの歯をひくように離党者が止まりません。しかも閣僚経験者や次の総裁候補まで。
やはり自民党がまとまっていたのは政権という強力な“磁石”があったからとよくわかります。
予算配分の権限を一手に握り、地元や業界の利益誘導で「票とカネ」をひきつけてきたのです。その磁力がなくなれば、議員だけでなく、支持者や支持団体が離れるのは当然です。
代わる磁力として「日本らしい保守主義」を掲げましたが、現執行部には古い体質もチラチラ、またどんな「保守」かもあやふやです。危機感の足りなさに危機を感じた議員は逃げ出します。
一月からの通常国会。政治資金疑惑、ばらまき政策、首相の指導力不足…と攻め続けました。
その結果、鳩山内閣支持率は期待通り急降下しました。しかし政権時代の失政を反省もせず、批判ばかりという印象が強く、自民党の支持率は低いままです。
二つの政党が「与党慣れ」「野党慣れ」していないための混乱もあるでしょうが、政党の力量が落ちているのでしょう。
両党には共通する欠点があります。一つは寄せ集めです。民主党議員の出身政党はばらばら。自民党はもともと派閥の集合体といわれました。
本来は理念や基本政策が磁石になるはずですが、党内対立を恐れて曖昧(あいまい)にしてあります。ともすれば遠心力が働きます。
それを束ねるのが党首らの指導力ですが、頼りになりません。これが二つ目の欠点。
自民党は一九七〇年代から八〇年代にかけ、頭数を増やすため当選第一で世襲やえげつなく選挙運動をする人材を多数起用しました。高い志や見識はむしろ邪魔という風潮すらありました。
そのころ当選した議員の多くがいま二大政党の幹部級です。それに長く続く混迷の時代、政争に明け暮れて、経綸(けいりん)を磨く努力も足りなかったようです。
政権交代は、議会制民主主義が十分に機能するための必須条件です。たとえ連立政権にしても、柱となる二大政党が必要です。
このままでは七月の参院選では民主、自民は低迷、小党乱立。政治はさらに混乱しそうです。
◆政治家は危機意識を
新たな政治へ向けての混沌(こんとん)ならいいのですが、人々の政治不信や政治無関心を増すだけなら、政党政治全体の危機です。
その深刻さを政治家はしっかりと認識すべきです。一気に五月晴れとはいきません。混乱を試練のための教材と心得て、政党の力量を育てるしかありません。
特に政権を担当する民主党は、国民に対する責任を痛感してほしいものです。
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