東京・有楽町の高級ホテルに登場した“ムービースター”岡村。キュートな蝶ネクタイが似合うビジュアルは人気者のオーラ全開だったが、丁寧におじぎをして座る姿はとても律義だった。
2002年公開の「無問題2」以来、8年ぶりの映画主演。「後にも先にも、こんないいお話で主演できることはないと思ったので、即決でした」。そう言ってハニかんだ純朴な瞳は、劇中で演じた沖縄の海を守る“海人(うみんちゅ)”そのもの。
「てぃだ(太陽)」が「かんかん」照りという“幸せの象徴”を意味する沖縄弁をタイトルにした同作は、環境汚染で絶滅に瀕したサンゴの移植・産卵を、世界で初めて成功させた金城浩二さんと妻を描いた感動実話。実在の人物を演じるにあたり、リアルな琉球人を心がけた。
「違和感なく沖縄の方言をしゃべれるようにと常に思っていたので、方言の先生がセリフを吹き込んだレコーダーをずっと聞いていました。役者じゃない僕にできることは、それしかなかったので…」
撮影中の音楽もすべて沖縄民謡。芸人同様、役者としても「努力」を惜しまなかった。
李監督から「コントにならないように」と言われ、最も試行錯誤したのが涙の演技だ。
「昔、『岸和田少年愚連隊』(1996年公開)で泣くシーンができなくて、全部カットされた悲しい記憶があるんです。今回、監督が『気持ちができるまで待ちます』と言って、繁華街の隅に暗幕を張られて僕はその中で一人。外ではスナックのママが客をどつき倒してるし、泣くより笑ってしまう環境で」
追いつめられたが、腹をくくってカメラの前へ。
「鼻水は出るんやけど、思うように涙は出てこなくて。ホンマに『どうしたらええねや』って精一杯泣いてたら、まさかの一発OK。その瞬間、大粒の涙がボロっと流れて(笑)。『なんで、今泣くねん』と悔しかったけど、今回、『岸和田』のリベンジは果たせました」と爽やかな表情。サンゴの夢が暗礁に乗り上げ、途方に暮れる演技で「どうしたらええねや」と泣いていた岡村の表情は迫真だった。
7月3日の誕生日に、いよいよ不惑を迎える。6月には初の一人舞台「二人前(ににんまえ)」(東京・渋谷パルコ劇場、16〜20日)が幕を開ける。
「今年、40歳になるので、いろんなことにチャレンジしていきたいですね。50歳までにもっと勉強して、一度は映画監督もやってみたい。北野武監督みたいに幅広い才能はないけど、自分がお笑いとして経験してきたから、気持ちが楽になれる作品を作ってみたい」と様々な可能性に目を輝かせる。
「不惑じゃなくて、まだブレブレですね」と笑う岡村だが、サンゴのように守りたいものは?と質問すると、「『ナインティナイン』というお城です。ちっちゃいですけど」と即答。守る場所があるから夢に邁進できる。岡村も「てぃだ−」の主人公と同じなのかもしれない。
岡村 隆史(おかむら・たかし)
1970年7月3日、大阪市生まれの39歳。ナインティナインのボケ担当。大阪・茨木西高サッカー部の後輩だった矢部浩之(38)に誘われ、吉本総合芸能学院(NSC)の第9期生に。立命館大中退後、90年に矢部とコンビ結成。同年、雨上がり決死隊らと若手芸人ユニット、吉本印天然素材に参加し、東京進出。コミカルな動きと顔芸でブレークし、フジテレビ系「めちゃ×2イケてるッ!」など数々のレギュラー番組で人気者に。1メートル56・5、48キロ。血液型B。