2010年3月12日 11時24分 更新:3月12日 21時38分
南極海の調査捕鯨船の監視船「第2昭南丸」に反捕鯨団体「シー・シェパード(SS)」のメンバーが不法侵入した問題で、海上保安庁は12日、SS抗議船「アディ・ギル」号船長でニュージーランド人のピーター・ベスーン容疑者(44)を2月15日に第2昭南丸に無断で乗り込んだ艦船侵入容疑で逮捕した。調べに対し容疑を認めており、海保は酪酸を投げて船員を負傷させた傷害などその他の容疑でも立件する方針だ。
第2昭南丸に侵入する際、歯ブラシ持参で長期戦を覚悟したともみられるベスーン容疑者。裁判になればSS側のPRの場にもなりかねない中、政府は妨害行為には厳正に対処するため、あえて強制捜査に踏み切った。
「メシは何を食わせればいいのか」
第2昭南丸が、SSのメンバーを保護したまま帰国することになった2月下旬から、海保は逮捕を前提に、食事の心配もするほど神経を使った。
通常、逮捕した外国人に留置場で提供される食事は米中心かパン中心かの2種類で、ベスーン容疑者にもどちらかを選ばせるだけなのだが、「日本の捜査機関は鯨の肉を食わせたとウソを言われないか」と普段の食生活の情報収集まで行った。
ベスーン容疑者は第2昭南丸に乗り込んだ際、賠償請求書を手にしていたが、狙いは裁判などの場を通じて、捕鯨は違法と訴えることは明らかだ。
「問題の長期化・国際化は避けたい」。関係省庁の思惑は一致し、「極力、アピールさせる材料は与えない」と逮捕に向け慎重な段取りが組まれた。
海保によると、逮捕されたベスーン容疑者は「私が第2昭南丸に侵入したことに間違いない」と容疑を認めている。昼食にはコッペパン二つと豆やニンジンのサラダを食べ、取り調べに素直に応じているという。
第2昭南丸の乗組員の慰労に訪れて小宮博幸船長(56)らと話した郡司彰副農相によると、ベスーン容疑者は日本に向かう船内でも、紳士的な振る舞いで非常に穏やかだったという。
一方、刑事処分を決める検察内部には起訴に慎重な声が目立つ。公判請求すれば法廷が反捕鯨のアピールの場となり「SS側の思うつぼ」(法務検察幹部)だからだ。
不起訴にするなら、逮捕容疑は現行犯に近く明らかなため、微罪と位置づけ起訴猶予にすることになる。ただし、別の容疑が立件されれば悪質性が強まり、起訴せざるを得ない可能性も残る。略式起訴も、SS側が「法廷で闘う」(ポール・ワトソン代表)と表明している以上、可能性は低い。
【ことば】シー・シェパード(SS) 国際環境保護団体「グリーンピース」から脱退したカナダ人、ポール・ワトソン氏が77年に設立した米国の反捕鯨団体。アイスランドやノルウェーの捕鯨船を体当たりで沈没させるなど過激な行動で知られる。日本の調査捕鯨船に対しても抗議船を衝突させたり、酪酸とみられる液体入りの瓶を撃ち込むなど、妨害行為がエスカレートしている。