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【放送芸能】

劇場CM ビデオカメラ男 映画を盗撮 “悪の化身”

2010年4月30日 朝刊

 せき立てるような耳障りな音楽に合わせ小刻みに体を揺らし、滑らかに指をうねらせる。頭部がビデオカメラでスーツ姿で軽やかに踊るのは、映画館で作品上映直前に流れる「映画盗撮防止キャンペーン」CMに出演中の通称「ビデオカメラ男」。この春、CMが2年半ぶりにリニューアルされたが、この男、不気味な動きはそのままに、共演者まで引き連れてスクリーンに再び現れた。一体、彼は何者?(石原真樹)

 旧キャンペーンCMは、日本映画製作者連盟(映連)など業界団体が構成する「映画館に行こう!」実行委員会が、映画館での映画の録画、録音を禁じる「映画盗撮防止法」(2007年8月施行)PRのために制作した。今年一月に改正著作権法が施行され、インターネットで違法に配信された音楽や映像をダウンロードする行為が違法とされたことを受けて、今回、映画盗撮防止法と改正著作権法を併せて啓発する新バージョンが制作された。

 旧CMは「男」の独壇場だったが、新作では、懲りずに劇場で盗撮を企てる「男」に驚く観客の女性と、「男」を捕まえにくる「赤ランプ男」が登場。少しにぎやかになった。

 「男」が赤ランプ男に捕まるまでが三十秒。続いて、観客の女性がパソコンで違法映像をダウンロードしようとしている現場に赤ランプ男が踏み込む様子が四秒。映画盗撮防止法と改正著作権法の“二本立て”の構成だ。CMは、この春封切りの作品から順次、新作に切り替えられている。

 CMは、邦洋問わず国内で公開される、ほぼすべての作品で上映。しかも、本編の直前に流れるため、予告編後に入場する観客の目にも留まり、PR効果は高い。

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 ところで、あの印象的な動きをする「男」。ぜひナマで見たいと思い、同実行委に取材を申し込んだが断られてしまった。「男」には、ほかにもCMやバラエティー番組への出演依頼が多く寄せられているが、すべて断っているという。

 「彼は悪の化身なので、キャラが独り歩きしては困る」と映連の華頂尚隆事務局長は理由を語る。劇場で「男」の携帯ストラップを売れば、と内輪で話もしたが「あくまで彼は悪者なので、そういう話には一切手は出さない。売れるとは思うが…」。

 この「男」、スーツ姿から性別は男性と推測されるが、氏名や年齢は不詳。業界では「ビデオカメラ男」と呼ばれている。ちなみに、CMを制作したのは「ALWAYS 三丁目の夕日」で知られる制作会社「ROBOT」だ。

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 肝心のCM効果はどうか? 映画盗撮防止法施行前に年二十件以上あった盗撮が、ここ数年は年に七、八件に減少。昨年六月からは一件も見つかっていないという。

 「海賊版DVDが警察の摘発でほぼ壊滅された今、盗撮犯の目的はお金ではなく虚栄心。新作をネットに流すと掲示板に『よくやった』と書き込みがあふれ、それがうれしいと思うのかもしれないが、法の罰則『十年以下の懲役もしくは一千万円以下の罰金、またはその両方』では割に合わない」と、減少の理由を華頂さんは推測する。

 とはいえ、新たな課題である違法ダウンロードの撲滅はこれからだ。カナダやロシアなど映画盗撮防止法のない国では、金銭目的の盗撮が横行。DVDを違法配信するケースも含め、ネットには違法映像がまん延する。「一人一人が順法意識を持ってほしい」と華頂さんは訴える。

 

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