米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡って28日、鹿児島県・徳之島への移設など「県外」にこだわる鳩山由紀夫首相に対し、外務、防衛両省が主導し、キャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市辺野古)に移設する現行計画の修正案に軸足をシフトする構図が浮かび上がった。背景には、米側を交渉のテーブルにつかせ、交渉を継続することで「5月末決着」を乗り切る思惑があるとみられる。しかし、政府が「環境に配慮した」とするくい打ち桟橋方式(QIP)を「環境に影響はある」と地元は否定。受け入れのめどは立たず、移設問題解決の糸口は依然として見えない。【吉永康朗、仙石恭、井本義親】
「とてもいい会合だった」。キャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は28日、外務省で梅本和義北米局長、防衛省の高見沢将林防衛政策局長らと会談後、記者団に満足げな表情を見せた。
日本側は23日の岡田克也外相とルース駐日米大使との会談などで、キャンプ・シュワブ沿岸部に移設する現行計画の修正案を軸に交渉に入る意向を伝えている。外務省幹部は「今後細かい話を実務者同士でやることになる」と述べ、実務者協議開始に向けた前向きな見通しを示した。
北沢俊美防衛相も28日、首相官邸で鳩山首相に、防衛省で検討している案として、現行計画の工法をQIPなど海を埋め立てない形に修正する案を提出した。
外務、防衛両省は今月中旬以降、「徳之島への部隊移転を米側が受け入れる可能性はほぼゼロ。QIPだったら受け入れられる可能性が高い」と判断。水面下の折衝を進めており、この日の動きはシナリオ通りだった。
対する鳩山首相は、療養中の徳田虎雄元衆院議員の自宅を訪れ、両省が既に断念した部隊移転への協力を要請。訓練の全国分散にも踏み込む「県外」へのこだわりを見せたが、全面拒否される結果に終わった。周辺は「根回しを全然していなかった」と準備不足を率直に認める。
自民党政権下で13年の長きにわたりこう着状態に陥った普天間問題で、移設先の見直しは「政権交代の象徴」と沖縄側では受け止められ、「県外」を繰り返す首相に期待は高まった。しかし、実態はいわば「政治主導の失敗」。政務三役の一人は「役人は最初から現行計画に戻すつもりで周到に準備していた。『過去の経緯の検証』と称して、修正案に誘導した」と指摘する。
実際、普天間問題を巡り政府・与党内では、意思の疎通が欠けていた。松野頼久官房副長官は最近、親しい議員に「平野(博文官房長官)さん一人で抱え込んで、4カ月たってくい打ち(桟橋方式)か」とこぼした。
一方、沖縄では、警戒の声が広がっている。名護市の稲嶺進市長は、「海も陸もダメという方針は変わらない。くい打ちなら環境に影響がないということではない」と明言。仲井真弘多知事は県幹部らと対応を協議。「この時期に沖縄に来て何を語るのか」など戸惑いの声があがった。
防衛省が、キャンプ・シュワブ沿岸部を埋め立ててV字形滑走路を建設する現行計画の修正案として検討するのが、QIPの工法だ。ただ、過去に政府が検討した結果除外された経緯があり、改めて提案しても米側と地元が受け入れるのは難しいのが実情だ。
QIPは96年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告のころ浮上。00~02年に首相官邸で開かれた代替施設協議会で防衛庁(当時)が技術的に可能か検討した。
QIPは海上に多数の鉄製くいを立てて上部に滑走路を造る工法だ。北沢防衛相は27日の参院外交防衛委員会で「爆薬を仕掛けられる(とどうなるか)という議論もあった」と述べ、滑走路下部が空洞となることがテロ対策上問題となった経緯を明らかにした。また榛葉賀津也副防衛相は「くい打ちのコストなどの問題があった」と答弁した。
代替施設協では、最初の政府案となった辺野古沖を埋め立てて2000メートルの滑走路を造る案を決定するため、さまざまな工法を検討。QIPについては、水深3メートル以内に15メートル間隔でくいを8750本、水深30~40メートル地点に20~25メートル間隔で3564本のくいを打ち込む2パターンについて調査した。この結果、建設費は約6700億円で、埋め立てた場合の約3300億円より2倍以上かかるほか、維持管理費も4倍程度かかると指摘した。
一方、QIPとともに鉄製の箱を海上に浮かべるメガフロート方式も検討。しかし、辺野古沖に設置する場合は防波堤が必要な上、水深が浅すぎる点などから困難と判断。最終的に埋め立て工法が適当と結論づけられた。
毎日新聞 2010年4月29日 東京朝刊