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日本近海、カツオが獲れない 中国系巻き網漁船の影響か

2010年5月1日14時35分

写真:昨年のカツオ一本釣りの様子。小型が多かった=高知県黒潮町提供昨年のカツオ一本釣りの様子。小型が多かった=高知県黒潮町提供

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 初鰹(はつがつお)の季節がきた。だが、日本近海では近年、カツオが不漁だ。「犯人」と疑われるのは、遠洋で急増する欧米向けの巻き網漁船。マグロと違い、カツオは欧米でも缶詰で多く消費される。漁船の持ち主の多くは中国資本だ。新鮮なカツオの刺し身やたたきは日本の食卓から遠のいてしまうのか。

 「群れが全然おらず、釣れてもチンピラ(小型カツオ)ばかり。4〜5年前から同じ状況だ」。本場の高知県で60年間カツオ漁に携わる明神照男さん(74)は嘆く。「30〜40年前は3年船に乗れば家が建った。いまは燃料の油が高く、採算がとれんから漁に出られん」

 昨年は特に記録的な不漁だった。水産庁によると、日本の生鮮カツオの水揚げ量は減少傾向にあり、特に2009年は前年の6割以下に落ち込んだ。全国近海かつお・まぐろ漁業協会(全近かつ協)によると、さおで釣る生鮮カツオでは、一番値が良い2.5〜3キロ程度は05年に全体数の3割程度を占めていたが、09年には激減。代わってほとんどなかった1キロ以下が3割程度になった。

 カツオ漁の中心は春先から晩秋にかけて。始まったばかりの今季は昨年より好調なものの、小型が多いという。

 カツオは世界各国で漁獲、消費される。漁獲量はキハダやクロマグロなどマグロ各種を合わせた量を上回る。刺し身やたたき、かつお節で消費する日本に対し、欧米では缶詰やペットフードが中心だ。

 欧米向けに、日本のはるか南の中西部太平洋で増えているのが、台湾・中国資本の大型巻き網漁船だ。

 この海域での巻き網漁は1980年代に本格化した。70年代に40万トン程度だった漁獲量は、07年に約170万トンと急増。増加分のほとんどは巻き網が占めた。

 同海域で国際機関に登録された巻き網船は00年に157隻だったが、09年は215隻に増えた。水産庁が調べたところ、00年以降に新たに登録された58隻のうち、7割に当たる42隻が台湾・中国資本だった。実際に船に乗る漁業者はフィリピン人など東南アジア系が中心だ。

 これらの船によるカツオの大半は冷凍され、バンコクにある缶詰工場に送られる。出荷先は欧米が中心。近年、健康志向や牛海綿状脳症(BSE)の影響で魚の消費が増えたことが背景と言われる。

 日本ではやはり、一本釣りでとれた近海の刺し身の人気が高いが、三陸沖や土佐沖などで行われる一本釣りやはえ縄の漁獲は減っている。農林水産省の統計によると、生鮮カツオの1キロあたりの卸売価格は、05年の210円から08年の303円になり、近年上昇傾向にある。

 中西部太平洋はカツオの産卵域にあたる。茨城大地域総合研究所の二平(にひら)章客員研究員(61)は、「中西部太平洋で大型巻き網漁船が漁獲を急増させ、黒潮に乗って日本近海に北上するカツオを減らしている」と警笛を鳴らす。

 全近かつ協は2月、水産庁に対しカツオの資源調査や漁獲規制を要望した。一本釣り漁師は「多くの魚礁を使い、群れごと小型魚までごっそりとってしまう巻き網漁は資源を枯渇させる」と訴える。(大谷聡、黒川和久)

     ◇

 3月に禁輸か否かで話題になったのは高級なクロマグロだが、価格が手頃なメバチマグロやキハダマグロも、海外の巻き網船によって資源が脅かされている。カツオを狙った漁獲は小型のメバチやキハダも混獲してしまうため、資源悪化に拍車をかけているとされる。

 メバチとキハダは、日本人が食べるマグロの7割を占める「庶民のマグロ」。水産庁によると、世界のメバチ、キハダの漁獲量はこの30年間で1.8倍に急増した。

 今は過剰漁獲の状況とされ、政策研究大学院大学の小松正之教授(海洋政策論)は「メバチとキハダの資源量は半世紀前の初期資源と比べると、3分の1にまで減少している」と分析。このまま放置すれば、資源枯渇が心配される事態になり、日本の伝統漁業であるマグロのはえ縄やカツオの一本釣りが消滅しかねないという。小松教授は「国ごとに明確な数量規制を設ける個別割当制度を一刻も早く導入するべきだ」と指摘する。

     ◇ 

 〈カツオ漁の漁法〉 日本近海では伝統的に、さおで1匹ずつ釣り上げる「一本釣り」が行われ、刺し身で消費されてきた。また多くの針をつけた縄を海中に渡す「はえ縄」も刺し身用が多い。このほか遠洋を中心に、魚礁で集めた群れを網で囲んで一網打尽にする「巻き網」が広がっている。

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