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どんぶり・豚骨に行列 ソウル 新風景―変わるひと・くらし

2010年5月1日

    写真若者らで満席の店「どんぶり」。昼も夜も行列ができる=ソウル、稲田写す写真中村調理製菓専門学校のソウル分校で、日本人講師の説明を熱心に聞く韓国人の受講生=ソウル、稲田写す

    ■日本の味 多彩に

     流行の発信地として知られ、若者でにぎわうソウル西部、弘大(ホンデ)地区の夜7時過ぎ。街の一角に、いつものように若い女性らの行列ができていた。

     列の先にあるのは、カツ丼や天丼など日本の丼物が売りの食堂で、店名も日本語でずばり「どんぶり」。2年前に開店、「日本の味」が楽しめると人気が出た。友人と食事を終えた会社員の金秀●さん(24、●は王へんに民)は「日本で食べたカツ丼がおいしくて、ソウルでも食べたいと思って来ました。満足です」。

     オーナーは韓国人の李昇和さん(31)。日本の調理師専門学校に留学し、調理師免許も取った。普通の日本人が普段食べているものを、手軽に楽しめる店を出したい――。考えた結果が丼だ。

     カツ丼6千ウォン(約500円)、天丼8千ウォン。若者にも十分手が届く。4年前にソウル近郊で店を開いた当初は、丼の説明から始めなければならなかったが、次第に評判になり、一昨年、ソウルに進出。店舗数は全4店にまで増えた。

     豚骨ラーメン店「博多文庫」の前にも行列ができていた。「おいしいラーメン店がソウルにはない。それなら自分で」。父が日本駐在員で、東京で学生時代を過ごした金淵勲さん(34)は、食べ歩きをするほどラーメンにはまり、6年前に自らラーメン店を開いた。韓国のラーメンは即席めんが主流で、当時、生めんの日本ラーメンはわずかしかなかった。いま、一帯にはカタカナで「ラーメン」と書かれた看板が乱立ぎみだ。

     韓国の日本料理は従来、すしを中心に接待料理、富裕層の食べ物、というイメージが強く、若者には縁遠かった。また、刺し身に唐辛子みそが付いてきたり、味付けが濃かったりと「韓国化」している場合が多かった。

     ここ数年で急速に進んだのが多様化、大衆化、そして「日本化」だ。日本風居酒屋が都市部を中心に増え、世代を問わず焼き鳥やおでん、日本酒を楽しむ。丼、ラーメンに加え、日本式カレーライスも人気だ。日本食材店を運営する「モノリンク」の李世ゲン社長(52)によると、この3〜4年で日本食材を卸す取引先が急増し、2千軒を超えた。「居酒屋を経営したい」といった相談も増えた。

     日韓間の人と情報の行き来が格段に増えたことが背景にある。短期ビザの免除や通貨ウォン高などで、日本を訪れる韓国人が急増。インターネット上には韓国人向けの日本グルメ情報サイトやブログが相次ぎ誕生した。1998年から段階的に進んだ日本大衆文化開放も追い風になった。すし職人を主人公にした漫画が人気。おのずと、日本で食べた「本場の味」を韓国でも求める人が増え、日本食の市場を押し広げた。

     ただ、ネットが普及している韓国だけに、日本食店の評価もブログなどで一気に広まる。「日本で食べた味と同じ!」「期待外れ」などの実際に食べた感想が店の評判も左右する。「正統」などと銘打つだけでは、もうごまかしはきかない。ブームを当て込んで開店しても、すぐ行き詰まる店も少なくないという。

    ■日系チェーン、続々上陸

     日本の外食チェーンも韓国に進出し始めた。洗練された地区として知られるソウル南部の江南地区の一角に、カレーチェーン「CoCo壱番屋」が韓国1号店を開いたのが2年前。「日本と同じカレーの味」が評判となり、現在5店。来年は15店に増やす計画だ。土曜日の昼過ぎ、友人と順番待ちしていた会社員の朴熙元さん(30)は「よく日本に旅行しますが、日本カレーは濃厚で好き」と笑った。

     一人で外食することがめったにない韓国の事情に合わせ、テーブル席が中心。カジュアルなレストラン風で女性客の方が多い。客層は日本とは異なるが、「日本と同じ味」にこだわる。漬物にキムチを求める声もあるが、福神漬けで通している。

     熊本の「味千ラーメン」は昨年末に進出。ソウル店オーナーの趙鎮漢さん(32)は「まだ知名度不足だが、リピーターが増えてきた」。お好み焼きの「鶴橋風月」、トンカツの「新宿さぼてん」なども店舗数を増やしている。

     日本料理の作り手を養成する中村調理製菓専門学校(福岡市)は昨年、ソウルに分校を開校した。2年前にソウルにすし店を開いた章盛植さん(43)は「高まる要求にこたえられないと生き残りは難しくなる。本物の味を追求していきたい」と、同校で日本料理を一から学び直した。

     日本貿易振興機構ソウルセンターの下笠哲太郎総務チーム長は「90年代にも日本の外食チェーンが進出した時期があったが、機が熟さなかったのか失敗が多かった。今は日本食を受け入れるすそ野が大きく広がり、当面人気は続くのではないか」と話す。(ソウル=稲田清英)

         ◇

     〈韓国と日本の交流〉 日本政府観光局によると、昨年日本を訪れた韓国人は約160万人。ウォン安の影響でピークの2007年(約260万人)に比べると減ったものの、今も日本は身近な海外旅行先として人気が高い。韓国は金大中(キム・デジュン)大統領時代の1998年、長く禁じてきた日本大衆文化の段階的開放を表明。4次にわたり歌謡公演や日本語の音楽CD、ゲームなどが全面開放された。

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