アメリカにとって普天間は「瑣末な問題」
堀田佳男の「オバマの通信簿」【25】
「企業間同士のつき合いや、文化人の連携、さらに科学者同士の共同研究など、緻密な関係が崩れることはないでしょう」
文=堀田佳男
今秋、渡米した時にインタビューしたヘリテージ財団のブルース・クリグナー上級研究員も、民主党政権への猜疑心を隠さなかった。
「鳩山首相はアメリカとの対等な関係を強調しますが、どこまで本当の対等さを望んでいるのでしょうか。軍事的にも対等な関係を目指しているのであれば、アメリカは自衛隊のさらなる貢献を期待しても構わないのでしょうか。それとも財政面での負担を対等にしたいということですか。または国連安保理の取り決めに沿った枠内での活動を積極化させるつもりですか。これまでの伝統的な日米同盟の関係を越えた部分で協力するつもりなのでしょうか」
同氏は鳩山首相の態度が煮え切らないままであれば「日米関係に緊張が走る」とはっきりと言った。
だが、オバマ政権内の高官でいま、アフガニスタンと同じレベルで日米同盟を憂慮している人はいないだろう。
今月4日、ジョン・ルース駐日大使が初めて公の席で講演を行い、招待を受けたので出向いた。公式な見解とはいえ、内容は日本メディアの報道姿勢とまったく逆だった。大使が強調したのは、あらゆる分野で親密に結びついた日米関係はいまでも東アジアの礎であり、これからも発展させていきたいという、バラ色といっても過言ではない肯定論だった。普天間で揺れるいまの両国間にあっては拍子抜けするほどの内容である。
もちろん鳩山政権内の見解の不一致に多少のいら立ちはあるだろう。しかし、それが大きな亀裂に発展し、日米関係の破綻にいたる危険性は低い。ルース大使もオバマ大統領も、もちろん鳩山首相もそれを望んでいない。日本のメディアは騒ぎ過ぎである。
仮に鳩山首相が同盟関係を見直して、真に対等な関係を築くつもりならば、オバマ大統領と東アジアの戦略協議をすべきである。確固とした戦略を立てれば、自然に安全保障問題での行動が見えてくる。アフガニスタンへの協力においても、「憲法上の制約で自衛隊を国際治安支援部隊(ISAF)には送れませんが、日本は民生支援でアフガニスタンを再建します。米軍はいちはやくアフガニスタンでの出口戦略を策定して撤退すべきです」とオバマ大統領に箴言できるはずである。そうした観点を踏まえ、世界の安全保障問題を軸にして普天間問題を眺めると、ライト級であることがわかるはずだ。
堀田 佳男
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学  大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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