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2009年 12月 18日

アメリカにとって普天間は「瑣末な問題」

堀田佳男の「オバマの通信簿」【25】

「企業間同士のつき合いや、文化人の連携、さらに科学者同士の共同研究など、緻密な関係が崩れることはないでしょう」

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今週、ワシントンから友人が来日していた。大手シンクタンクの研究員である彼は、日米の安全保障問題から東京の食文化までを縦横無尽に語りつくした後、帰国の途についた。

本場の鮨のうまさに目をつぶりながら静かにうなづいたかと思えば、普天間問題が予想以上に日本のメディアに大きく扱われていることに驚きもした。

「フテンマという名前を口に出せるアメリカ人は知日派だけでしょう。アメリカのTVコメンテーターでさえ『沖縄の米軍基地』と表現するのが一般的です。普通のアメリカ人は興味を示していません。日本にきて、あまりの過大報道に驚いています」

普天間問題にかぎらず、日米間には記事のあつかい方に違いがあることが多い。敢えて言わせていただくと、アメリカにとって普天間は瑣末な問題でしかない。

というのも、オバマ大統領が憂慮している世界の安全保障問題を100とすると、アフガニスタン、イラク、パキスタン、イランといった中東諸国の対応に約80が取られる。イスラエルと北朝鮮に15、残りの数パーセントに普天間が入るという構図である。

ところが、鳩山政権と日本の主要メディアの関心事の9割は、いまや普天間移設に向いているといっても差し支えない。

今月15日、鳩山首相が同問題の年内決着はないと判断すると、翌朝の朝日新聞は「普天間袋小路」、日本経済新聞は「日米関係混迷」という大見出しを打った。読売新聞は「日米亀裂」というコラムを始め、日米関係の危機とあおっている。

日経は記事中に「軍事バランスが崩れかねず、リスクも高まる」と書き、鳩山政権の過失によって同盟関係の危機が深まっているというトーンだ。ほとんどの新聞とテレビが鳩山政権を攻める姿勢で共通しており、悲しいほどに暗い論調である。

そんな時、ある夕刊紙に普天間問題について、

「普天間問題で日米関係に本当にヒビが入ると思いますか。両国関係は本当に危機なのでしょうか」

という内容のインタビューを受けた。私はすぐに「ノー」と答え、次のような趣旨の回答をした。

「外交というものは、小さな問題によって両国政府の関係が冷え込むことがよくあります。けれども、政府間交渉に関係のないところで、日米両国はすでに深い根をおろしています。企業間同士のつき合いや、文化人の連携、さらに科学者同士の共同研究など、緻密な関係が崩れることはないでしょう。現在の報道姿勢をうのみにすると危機感を覚えますが、大局的に日米関係を見ると盤石です。ですから交渉決裂というフレーズに惑わされてはいけません」

普天間問題の悲観報道の起源をたどると、アメリカの知日派、特にブッシュ政権時代に自民党とつながりが深かった共和党の元高官たちが発信源であるように思える。

というのも、彼らこそが何年もかけて「再編実施のための日米のロードマップ」を作成し、普天間飛行場代替施設の合意にこぎつけた立役者だからだ。鳩山政権になって自分たちの合意がないがしろにされているため、

「それはないだろう」

との思いを強くしている。

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プロフィール

堀田 佳男

1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学  大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。

http://www.yoshiohotta.com/

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