1万1000人で埋まった日本武道館が、静まりかえった。V11を目指した絶対王者が衝撃のTKO負け。長谷川がうつろな目でリングに立ち尽くした。
4回も残り10秒を切ったところで、一瞬の油断が生じた。それまで強打のWBO王者を完全にコントロールしていたが、右を出そうとしたところで左フックをもらい、さらにもう一発左フックをまともに食らうと、よろめきながらロープにもたれかかる。もはや防御の体勢もとれず、連打を浴びたところでレフェリーがストップ。まさかの光景は現実だった。
長谷川の敗戦は01年5月20日の荒川正光(京都拳闘会)戦以来9年ぶりのこと。世界戦ではもちろん初、KO負けも初の屈辱となった。05年4月16日、場所も同じこの日本武道館でV14王者ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)から王座を奪って1840日目の悲劇だ。
「もちろん、悔しさはありますし、ただ…」
家族と顔を合わせた控室。試合を振り返る途中に言葉に詰まると涙が両目にあふれた。「気を抜いたところにもらった。油断かな。意識はあったけど、(試合後に)VTRで見て、あれだけもらったら仕方ない。言い訳はできない」。1回に浴びた左フックで右奥歯がぐらつくほど、相手の一撃は強烈だった。
昨年12月の10度目の防衛戦後、2階級上のフェザー級転級を見据えながらバンタム級に残留。元WBA世界Lフライ級王者・具志堅用高(協栄)が持つ日本人世界王者の連続防衛記録13度を目標に掲げたが、それも振り出しに。山下正人会長(48)は「もう1回、モンティエルと勝負したい」とリマッチの意向を示した。
「(再戦を)できればやりたいけど、今はゆっくりしたい」と長谷川。1度の挫折で心が折れるほどヤワではない。緑のベルトを、必ず取り返す。(川端亮平)