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きょうの社説 2010年5月1日
◎鉄道機構の剰余金 新幹線に有効活用できぬか
政府の行政刷新会議の事業仕分けで、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機
構)の抱えている1兆3500億円の利益剰余金が「国庫返納」と判定された。この剰余金をめぐっては、自公政権時代から整備新幹線の新規着工財源の候補として取りざたされるたびに、鉄道・運輸機構や国土交通省が「法律で流用が禁じられている」「物価上昇や長寿命化に伴う旧国鉄職員の年金の支払い増大が見通せない」などと、首を横に振り続けてきた経緯がある。そうした鉄道・運輸機構などの言い分を、仕分け人たちがばっさりと切り捨てたことに は大いに共感できる。ただ、剰余金を国庫に納めて、さまざまな事業に薄く広くばらまくだけで終わるのだとすれば、拍手を送るわけにもいかない。これまでの議論を考慮し、新幹線関係予算に充てることはできないだろうか。 北陸新幹線の未着工区間である金沢―敦賀の総事業費は、8500億円と見込まれてい る。同じく未着工の北海道新幹線新函館―札幌は1兆800億円、九州新幹線長崎ルート諫早―長崎は1100億円。現行ルールでは、このうち3分の1は地方負担であり、仮に剰余金が全額確保できれば、新規着工の財源問題は解決したようなものである。剰余金を新幹線に重点的に投資することで地方に活力を吹き込み、国全体の成長につなげていく。そんな発想があってもいいはずだ。 北陸新幹線建設促進同盟会長の石井隆一富山県知事は先日の会見で、剰余金の使途につ いて「新幹線をめぐる地方の問題に有効活用してほしい」と述べ、具体例として地元負担の軽減や並行在来線支援、未着工区間の建設促進を挙げた。これは沿線の共通認識であると思われ、関係自治体が結束して、積極的に政府に提案していきたいところだ。 鳩山政権は、昨年の衆院選で掲げたマニフェスト(政権公約)を実行する財源を工面す るのに苦慮しており、提案がそう簡単に実るとは思わないが、与党の沿線国会議員の後押しも得て、チャンスを生かしたい。
◎上海万博開幕 「光と影」見つめ直す機会
上海万博は、世界経済をけん引する大国となった中国の国力、威信を示す場となる。中
国政府は上海万博を「世界の共同発展を促進する祭典」と位置づけている。新興・途上国のリーダーとしてより、まさに世界経済の「共同発展」に寄与すべき経済大国としての重い責任をあらためて認識してもらいたいと思う。上海万博に参加する国・国際機関は史上最多の246に上る。成長著しい巨大市場に草 木もなびくという印象である。日本も政府、自治体、企業が協力してパビリオンを3館も開く力の入れようである。万博が日本企業の環境技術の高さなどを売り込む絶好の機会であることは確かである。 もっとも、中国最大の経済都市での華やかな万博の一方で、中国の経済社会が抱えるさ まざまな問題も一層鮮明になってきている。上海万博は、そうした中国の「光と影」を冷静に見つめ直すよい機会でもある。 中国の国内総生産(GDP)は今年、日本を抜いて世界第2位になることが確実視され る。史上最多の万博参加国は、中国との関係を深め貿易・投資の拡大をめざす国の多さを示している。 中国の存在感の大きさは、例えば、世界銀行の投票権にも表れている。世銀の増資引き 受けで出資比率が高まる中国の投票権は、これまでの6位から日米に次ぐ3位に上がる。世銀での発言権の拡大は、もはや途上国ではなく経済大国としての自覚と役割を中国に迫るものである。 上海万博の入場者は過去最高の大阪万博(約6400万人)を上回る7千万人が見込ま れている。大阪万博後の日本のように、上海万博を契機に新しい消費文化が急拡大するという見方もあるが、中国経済が今後、消費拡大による内需主導の経済構造に転換し、それによって格差の是正も進むかどうかが大きな課題である。 「万博景気」の期待の一方で、インフレ、不動産バブル崩壊の懸念もある。人民元切り 上げの国際圧力も強まるばかりだ。中国政府がめざす「成長の質」の改善がどう進むかに目を凝らしたい。
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