「事実とすれば言語道断」―。米軍普天間飛行場の移設問題で「最低でも県外」と訴え、政権を発足させた鳩山由紀夫首相への期待が失望と怒りに変わろうとしている。移設問題をめぐり二分されてきた名護市民らから、十数年も前に消えたシュワブ沖のくい打ち桟橋方式が突然浮上したことに「島ぐるみ闘争になる」と警告する声があがった。
移設反対を訴えるピース・キャンドルを続ける二見以北10区の会の渡具知智佳子共同代表は「万一、辺野古になれば、今まで以上の激しい反対運動が起こる。不可能だということは首相は理解できないのか」と首をかしげた。「わたしたちは怒っている。来沖するなら直接抗議する」と話した。
ヘリ基地反対協の安次富浩共同代表は「世論調査で県民の9割が県外・国外を求め県民大会に9万人が参加した。事実とすれば明らかに公約違反で言語道断。前政権よりたちが悪い」と批判。「県民目線を捨て、米国に都合のいい案ばかり模索している」と語った。
現行案(V字案)を条件付きで容認し、1月の市長選で敗れた島袋吉和前名護市長は「現行案の沖合修正は13年間積み重ねてきた苦渋の結論だ。それすら実現に至っていない非常に困難な移設問題を数カ月で解決しようなんて無理な話」と、鳩山政権の移設先選定作業のあり方を批判した。
荻堂盛秀市商工会長は「市民を分断した年月は何だったのか。〝腹案〟がそうだったなら最初からそう言えばいい」と怒り心頭。くい打ち桟橋方式には、「現行案と違い、ほとんどが本土ゼネコンの工事となり地元業者の出る幕が少ないのではないか」との見方を示した。
普天間爆音訴訟原告団の島田善次団長は「県民大会で示された県民の意思を踏みにじるもので、あまりにもふざけた話。島ぐるみ闘争になる」と猛烈に批判した。普天間移設問題と併せて鳥島・久米島射爆撃場の返還も米側に提案したとの報道に、久米島町の平良朝幸町長は「普天間とバーターにするのはとんでもない。返してもらうのはありがたいが、正直困惑している」と声を荒らげた。
「9万人の声軽視か」
憤る大会共同代表
知事の拒否 求める声
米軍普天間飛行場の移設問題で、キャンプ・シュワブ沖合浅瀬への代替施設建設を検討していることが明らかになったことについて、同飛行場の国外・県外移設を求める県民大会の共同代表らは一様に怒りの声を上げた。
高嶺善伸県議会議長は「大会決議を受け、政府への要請をした際には、具体的な移設案は固まっていないということだった。要請団は軽くあしらわれたのか」と憤った。その上で「仮にくい打ち案ならば絶対に許せない。早急に知事と面会し、県内移設案を受け入れないように求めたい。県議会と知事が一体となって反対していきたい」とした。
翁長雄志那覇市長は「県民に対しての思いがなく、全く基地問題に対して哲学が欠如している」と指摘。「くい打ち桟橋(QIP)方式は、金もかかるし、利権の話、環境問題も含めて13年も14年も前に消えた話。何の前進も感じられない」と断じた。
連合沖縄の仲村信正会長は「政治家は自分の発言にきちんと責任を持つべきであり、撤回すれば政治不信を招く。鳩山総理は約束した県外・国外移設を最後まで検討するべきだ。知事は会うべきではない。会談するならば即座に修正案を拒否するべきだ」と訴えた。
大城節子県婦人連合会長は「全国の女性からも大会に連帯する声が寄せられた。知事は全国各地で思いを一つにしたことを考え、普天間の撤去を強く訴えてほしい」と期待を込めた。
宮古地区大会の星野勉共同代表は「政治は国民の意思を反映するものなのに今は真逆」と鳩山政権を批判。「国家という組織を守るために国民を犠牲にして権力を行使することは絶対許さない」と語気を強めた。
八重山大会の仲山忠享実行委員長は「工法が変わろうと基地の存在自体は変わらず、危険性がなくなるわけではない」と批判した。
「生態系をかく乱」
日本自然保護協が警鐘
日本自然保護協会は28日、「くい打ち桟橋方式」について、太陽光の遮断や減少で光合成が阻害され、海草藻場が消失する上、海流の変化で藻場の分布面積が減るなど、同方式の問題点を発表した。「サンゴ礁生態系の一つの攪乱(かくらん)が、辺野古・大浦湾の全体へも影響を与える」と警鐘を鳴らしている。
コメントでは藻場や砂地を利用する貝類や甲殻類の生息にも影響を及ぼすと指摘し、「現行案と位置・規模および工法が異なるのであれば、明らかな事業の見直しであり、環境アセスメントを方法書からやり直すことは必須」としている。
また「『埋め立て方式より影響が少ない』、『環境に配慮している』と単純に評価できるものではない」と強調した。
同会保護プロジェクト部の大野正人部長は「生物多様性豊かな海域で大規模な米軍飛行場をつくること自体が問題であり、首相が言う『埋め立ては自然への冒〓(ぼうとく)』と何ら違いはない」と訴えた。
※(注=〓は「さんずい」に「売」の旧字)