深い闇が、広い屋敷を包んでいた。 
私の緊張を高めるように、風が窓を叩いている。 
紀ノ元さんの部屋には結界を張り 
事が終わるまでは決して中から出ないようにと伝えた。 
そして私がいるこの部屋も―――内側に向けて、結界を張った。 
これで結界の中にいるものは、外に出られない。 
もちろん、私も含めてだ。 
(頑張ろう) 


紀ノ元さんのご好意で、隣の部屋に布団は敷かれているが 
この仕事が終わるまで使う事はない。 
正座をして瞳を閉じ、じっとその時を待つ。 

ボーン。ボーン。 
部屋の時計が、深夜の2時を示した。 
窓を打っていた風が、突然鳴り止む。 
(くる) 
耳が痛いぐらいの沈黙。 
空気が緊張に、張り詰めていくのが分かる。 
まるで空間を四方から摘まんで、引っ張っているようだ。 
(何かが、でてくる……) 

………カタン。 

飾られたままの手鏡が、触れてもいないのに畳に落ちた。 
ゾワッと背筋が粟立つ感覚。 

ズルッ……ズルッ……。 

部屋の端で、誰かが布を引っ張っている。 
例えるなら、そう……重い着物を引きずるような音がしていた。 
それに、鼻につく鉄の匂い。 
(違う、鉄じゃない。 
これは…………血の匂い) 
ここは危険だと、私の何かが訴えている。 
(どうして? 
昼間はあんなに穏やかで、何も……) 


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